王様のレストラン

オーディオコメンタリーの話でちょっと書いたけれど、最近「王様のレストラン」のDVD版を見直した。
筆者は三谷作品ではこの「王様のレストラン」と「笑の大学」が一番好きだ。

中でも「王様のレストラン」は掛け合いの妙を感じさせるし、名台詞も多い。
一番代表的なのは第一話「この店は最低だ」のこの台詞だろう。

「私は先輩に教えられました。お客様は王様であると。しかし、先輩はこうも言いました。王様の中には首を刎ねられた者も大勢いる、と」

無茶な要求をする客に向かって伝説のギャルソンこと千石が放った台詞だ。
それまで、客第一主義を標榜する意味で「お客様は神様です」という言葉はあちこちで使われていたけれど(*1)、客といえども全てが許されるわけではない、とはっきり言い放ったこの台詞はインパクトがあった。

でも、筆者が個人的に好きな台詞は第4話「偽りの料理の鉄人」の

「言っときますけどね、私はただの三流のコックですから」
「そうです。…しかし、あなたには可能性がある」
「ないよ!」
「ある!」
「ない!」
「ある!」
「悪いけど、私は自分のことをよーく知ってるんです」
「あなたは、自分のことしか知らない。私は、100人のシェフを知ってる」

これは物語のターニングポイントになる台詞。
あとは台詞ではないけれど、第5話の「奇跡の夜」とか第7話の「笑わない客」は三谷作品の面白さが存分に発揮された話だと思う。

ところで、三谷さんが最初に手がけたテレビドラマで「振り返れば奴がいる」という作品がある。
白い巨塔」へのオマージュみたいな作品だけれど、この作品だけは他の三谷作品とかなり毛色が違う。
それもそのはず、この「振り返れば奴がいる」は

天真楼(てんしんろう)病院を舞台に、性格の対照的な二人の医師の戦いを描く物語。脚本を手がけた三谷幸喜は本作がゴールデンタイムで初の連続ドラマ作品だったが、シナリオが現場でどんどん変えられていくことにショックを受け、その経験を元に『ラヂオの時間』のシナリオを書いたという。

石原隆プロデューサーは三谷が喜劇専門であったことを知らずにシリアスな医療ものを依頼したため、書かれてきた脚本の喜劇調の部分を変更することになってしまったことから、「三谷さんには悪いことをした」と後に語っている。

もともと三谷は喜劇しか書いた事がなく、また、既に決まっていた脚本家が降板したことにより突然起用が決まったこともあり、準備もできなかったという。プロデューサーには「医学ものは『ブラック・ジャック』しか知らない」と断ったが、それでもいいからと押されて書いたという。そのため、執筆は相当苦労したらしく、後半はシナリオ1本の完成に10日間もかかったという。この辺りの事情は三谷幸喜のエッセイ「オンリー・ミー 私だけを」に詳しく書かれている。

(中略)

また、話題になった最終回のラストシーンは三谷の脚本にはなく、西村雅彦の著書によると急遽撮影当日にロケ現場に呼ばれたとのことで、おそらく若松節朗監督の判断であったと推測される。


日本語版ウィキペディアより。
つまり、乱暴な言い方をしたら三谷作品の三谷さんらしい部分を全部ばっさりやっちゃった上に結末まで変えちゃったわけだ。
王様のレストラン」を見ながらずっと
「三谷さんが書きたかった本当の『振り返れば奴がいる』はどんな作品だったんだろうなあ」
と考えていた。

たぶんそれは、三谷さんの頭の中にしか存在しないんだろうな。でも見れるものなら一度見てみたい。



(*1)でも、この台詞で有名な三波春夫さんの真意は「お客様は神様のように偉いからなんでもいうことを聞かなくちゃいけない」という意味ではなかったらしい。