TRPGも含めて、ファンタジーRPGの基本職業といったら何を挙げるだろうか。TRPGの経験のある人ほど、恐らく「戦士、僧侶、魔法使い、盗賊」というのではないかと思う。
古くはウィザードリィや国産で言えばロードス島戦記、ソードワールドや最近のアリアンロッド、アルシャードに至るまで、魔法使いがいくつかに分かれていることはあっても、この4つの職業が基本職業に含まれるゲームがほとんどである。
では、なぜこの4つが基本職業とされることが多いのか? と聞かれて答えられる人は、かなり詳しい人だろう。理由は、RPGの元祖、ダンジョンズ&ドラゴンズの基本職業がこの4つだったからだ。
実は、その元祖ダンジョンズ&ドラゴンズの最新版、第4版で異変が起きた。ウィキペディアから引用しよう。
全てのキャラクタークラスは4種類の「役割」に属しており、同じ役割ならば似通った特徴を持つ。このため、サプリメントでクラスが追加されてもバランスがとられやすい。PCのパーティーには4種類の「役割」を全てそろえることが推奨される。プレイヤーズハンドブックに記載されたもっとも基本的なキャラクタークラスは以下。
撃破役 - 敵に一撃必殺のダメージを与えてとどめを指すことを前提にしたクラス
レンジャー - 野伏。弓と剣の使い手であり、不意打ちや一撃離脱が得意
ローグ - ならず者。すばやい動きと急所攻撃が得意
ウォーロック - 精霊や悪魔と契約した呪術師。短距離および中距離の敵に魔法で攻撃する。
防御役 - 戦場で前線に立ち、敵の攻撃を引き受けることを前提にしたクラス
ファイター - 様々な武器と鎧を使いこなす戦士
パラディン - 正義を貫く聖騎士
制御役 - 複数の敵を一度に攻撃することができるクラス
ウィザード - 秘術魔法の使い手。様々な魔法を幅広く使える。
指揮役 - 仲間を支援し強化することを前提にしたクラス
クレリック - 僧侶。神聖魔法で仲間を癒し、強化することができる
ウォーロード - 軍師。戦場の仲間たちを的確に指揮し、勝利をつかむ。
確かに旧来のローグ、ファイター、ウィザード、クレリックが基本職業に入ってはいる。しかし、この説明部分を見て違和感を覚えないだろうか? 特に撃破役と防御役のくだりだ。
ローグ、つまり盗賊が撃破役になっている。この文章だけを読むと、戦士よりも盗賊の方が攻撃力が高いように見える。今までのダンジョンズ&ドラゴンズのシーフは罠に関する専門家で、攻撃力は決して高くはなかった。
同じTRPGだと、アルシャードのスカウトもそうだ。罠に関する能力はほとんどなく、もっぱらファイターとは違う形でダメージを与えるトリッキー・アタッカーである。また、ソードワールドのスカウトも、ファイター技能とは違う特徴の戦闘能力を持っている(こちらは罠に関する能力も持っているが)。
なぜこんな変化が起きたのか。一つには「昔に比べて罠の登場しないシナリオが増えた」ことがある。TRPGのシナリオは、迷宮を舞台としたダンジョンアドベンチャーから野外を舞台としたワイルダネスアドベンチャー、街を舞台としたシティアドベンチャーと表現の幅を増やしてきた(後者の方が優れているという意味でなく)。迷宮を舞台としたシナリオ以外では罠は出しにくく、盗賊/シーフ/スカウトの活躍できるシーンが罠関連しかないと、見せ場がなくなってしまうのだ。
もう一つ、逆の事情もある。罠の登場しないシナリオでは盗賊の活躍する場面がないが、反対に罠の登場するシーンでは盗賊以外ほとんど何もできないのだ。
昔、ワースブレイドというTRPGがあった。ロボット物とファンタジー物を融合させた世界観を持ち、緻密な背景世界の設定を持つ面白いゲームだったが、実際のプレイングではゲームの構造的な欠点にほぼいつも悩まされた。というのも、ロボットを操縦できるのが一人だけなので、ロボットの戦闘中は他のプレイヤーが暇でしょうがないのだ。
同じことが罠にもいえる。盗賊の活躍シーンを増やせば増やすほど、他のPCが活躍するシーンが減る。
戦闘シーンは違う。複数のプレイヤーが異なる役割を果たすことで、それぞれの見せ場を持つことができる。必然、盗賊を罠要員としてでなく、戦闘要員の一人として数える方が「いろいろなタイプのシナリオで、偏らずに見せ場を用意できる」ことになる。むしろ罠関連の能力は職業固定でなく、全てのキャラクターが習得するチャンスを持つスキル(D&Dでいう「技能」、FEARのゲームでいう「一般技能」)にした方が望ましいはずだ(盗賊が死んだら罠に手も足も出なくなるという状況を避ける意味でも)。
また、コンピュータRPGが一般的になったことも関係あるかもしれない。例えばドラゴンクエスト3などでは、戦闘が中心のゲームシステムであるためか、上記の基本職業のうち盗賊に相当する職業だけがなくなっている。
このような流れから、ついに元祖D&Dですら、盗賊は罠の専門家ではなくなったのだ。
そして…アリアンロッドの場合。アリアンロッドの盗賊/シーフは、トリッキーなアタッカーとしての側面を強く持つ。アリアンロッド・サガ・ブレイクでのナーシアの活躍を引き合いに出すまでもなく、ダメージディーラーとして優秀なメンバーだ。
しかし、その自動習得スキルは「ファインドトラップ」である。ファインドトラップは罠の登場しないシナリオではまったく出番がなく、死にスキルと化す。
他の基本クラスの自動習得スキル、ウォーリアの「ボルテクスアタック」、メイジの「マジックフォージ」、アコライトの「ヒール」が全て戦闘に関わるスキルなのに、ファインドトラップだけが戦闘外のスキルなのだ。それだけではない。他のクラス全てを見渡しても「戦闘シーンで出番のない自動習得スキル」はほとんどこれしかない。微妙なのはフォーキャスターの「スタンドバイ」で、感知へのボーナスなので戦闘用の技能でこそないが、戦闘に密接に関係のあるスキルと言える。戦闘シーン以外「でも」使えるスキルならば他にも、サモナーの「ファミリア」やダンサーの「ダンシングヒーロー」などがある。
「そんなもの、モブが出なけりゃサムライの『トルネードブラスト』だって出番はないし、ガンスリンガーの『キャリバー』みたいにアイテム持ってるだけなんていうスキルよりましだ」という人もいるかもしれない。
「使い道があるかどうか」ではなくて、「どの場面で使うか」が問題なのだ。スキルを使える局面そのものが存在しないのでは、弱いスキルだから(使えるけど)使わないという、選択の余地すらなくなってしまう。
特に、新しいアリアンロッド・サガシリーズの舞台となるアルディオン大陸の物語は、国と国との戦いを描く戦記物であり、冒険者がダンジョンにもぐって探索して宝物を手に入れて戻ってくる、という冒険のスタイルは一般的なものとはいえない。サガシリーズのリプレイでも、このシナリオ一回もファインドトラップ使ってないんじゃ? というシナリオがいくつかある。
また、それがサムライやガンスリンガーのように自分で自由に選ぶことができるクラスであれば、活躍の機会が少ないであろうことを予想していながら敢えて取ったのだから、自己責任と言えなくもない。しかしシーフは違う。
たとえ、FEARの他のゲームと同じようなシーン制の(そしてダンジョンシナリオにしづらい)「フェイズプロセッションルール」を採用している環境であったとしても、PCの基本クラスはウォーリア、シーフ、メイジ、アコライトの4つであることが、ルール上推奨されている。
つまり、嫌でも、活躍シーンが少ないだろうと予想していても、誰か一人が半ば強制的に取らされてしまうクラスなのだ。
自動習得スキルは他のスキルに比べて効果の高いものが多い。中には使用回数に制限はあるが必殺技と呼んで差し支えないものも結構ある。それなのにシーフだけ活躍の場がなかったりしたら悲しい。
もし、これを改善するとしたら、シーフのファインドトラップの効果を、シャーマンの「ディビレテイト」(敵のダイスを減らす)やセージの「エンサイクロペディア」(エネミー感知へのボーナス)、あるいは先ほど出てきた「スタンドバイ」あたりと交換してもよい、となっていれば、ほとんどどんなシナリオでもシーフのスキルの出番がなくて残念、ということはなくなるだろうと思う。
などと、アリアンロッドスキルガイドを読みながらつらつら昔を思い出しつつ考えていた。
でも、アリアンロッドスキルガイドで「プロテクションの上書き」ができなくなったのは、素晴らしい改善点だと思う。

- 作者: F.E.A.R.,菊池たけし
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