SRSと天羅WAR③

 天羅万象の作者、井上純弌氏は天羅WARのサプリメント「ロストヘブン」の前書きでこういっている。
「天羅は枝葉末節こそが面白いゲームなのだ」と。

 SRSはその性質上、相当品として規定される範囲がかなり限定されている。特にアルシャードにその傾向が顕著だが「フォックステイル相当の猫耳少女」「フォックステイル相当の狼男」という存在は推奨されない。
「フォックステイルはフォックステイルであって、狼男や猫耳少女が登場するというのならそれは別のクラスとして別のルール(リンクスやシリウス)で規定される」というのがSRSのデザイン思想の根本だ。

 天羅は枝葉末節が面白いゲームであるがゆえに、細かい設定、特殊な設定が多い。それを「似たような他のルール」ではなく「それぞれ別のルール」でフォローしようとするのがSRSの思想だ。ゆえに、サプリメント3冊でキャラクタークラスの数が60を超えるという、巨大なシステムになった。装備の数も特技の数も際立って多い。
 例えば、バイク型の金剛機に乗る陸皇騎兵というキャラがいる。「金剛機」でもなく「機面ヨロイ乗り」でもなく「スチームライダー」でもなく、「陸皇騎兵」だ。「陸皇騎兵は金剛機でも機面ヨロイ乗りでもスチームライダーでもないから当たり前だよ!」というのは天羅やテラに詳しい人間の発想で、天羅もテラも知らない人間に金剛機と機面ヨロイ乗りとスチームライダーと陸皇騎兵の違いを説明しろと言われても至難の業だろう。
 ちなみに、天羅WARには何かに乗って戦うクラスが「ヨロイ乗り」「機面ヨロイ乗り」「金剛機」「陸皇騎兵」「ロケットレンジャー」「パラディン」「ドラグーン」とこれだけある(魂だけを機械に封印している金剛機やパワードスーツを着こんでいるロケレンも含むものとして。身体を機械に変えただけの「機人」は除いている)。魔術師系も聖職者などまで含めれば10を越える。

 これらの違いを明確に語るには「天羅万象」と「テラ・ザ・ガンスリンガー」の知識は必須といってもよい。もちろん「天羅WAR」のルールブックだけあればプレイには困らないが、少なくともルールブックに掲載されている天羅世界とテラ世界の両方の知識にそれなりに造詣が深くないと、特にゲームマスターはデータの量だけで圧倒されることだろう。(*1)
 同じことは、同じ作者(井上純弌氏ではなく小太刀右京氏)の別のゲーム、「カオスフレア」でもいえる。とにかくデータの量が多いのだ。

 知っている人なら、データ量の多さも武器になる。遊んでいて飽きないゲームという、長所として一役買うことだろう。
 しかし、知らない人…例えば、SRSシステムの他のゲームをやったことがあり、たまたま興味を持って天羅WARをやってみようと思った人に、果たしてデータの膨大さは武器になるだろうか?

 ファーストレビューで「天羅WARはこの3冊をもってようやく天羅とテラが遊べるようになった」と書いたが、補足しよう。
 天羅やテラで遊んだことのない人、天羅やテラをそもそも知らない人は、最初は「ロストヘブン」にも「クロッシングポイント」にも手を出さない方が無難だ。特にクロッシングポイントは慣れてからの方がいい。
 逆に昔天羅やテラを遊んだことがある人なら、最初から導入しても楽しく遊べるだろう。


(*1)一応断っておくと「トーキョーNOVAクロニクル」も同じ特徴を持つサプリメントだ。旧版を知っている人、あるいは新版をもうやり尽くして、旧版の範囲にまで手を伸ばそうとしている人、あるいは純粋に知識として旧版の範囲のデータや設定が欲しい人には垂涎のアイテムである。


 世の中とは、ままならないものだ。

 天羅WARやトーキョーNOVA・Dのように、新しいルールで旧版をフォローするとは特に語られたことのないゲームで、これだけ親切(すぎるほど)に過去をフォローしてくれているというのに。旧版の世界設定に対応するためのサプリメントを出すを明言された別のルールでは、発売からもう3年近く経つのにその気配すらない。
 何のゲームのことかって? SW2.0のフォーセリアサプリメントのことである。このままいくと、こっちはもう出ないのかもしれないな。