ルナー帝国(ルーンクエスト、グローランサ)

 実は、私自身が実体験として帝国の恐怖を味わったのがこのゲームだ。

 グローランサは神々の支配する世界である。いわゆる普通のTRPGでいう「冒険者」も、どの神を信仰するかでキャラクタークラスに相当するものがほぼ決まってしまう。
 中でも一番冒険者として有名な、つまり主人公格の神が「風の神オーランス」である。このゲームの冒険者がちょっと特殊なのは、このオーランスが蛮族の神であることだろう。理屈や損得や契約でなく、飲み干した杯の数で敵味方を決めるのが当たり前なのだ。
 で、その対極、文明を象徴する赤い月を信奉するのが「ルナー帝国」である。


 赤の皇帝率いるルナー帝国は悪役である。方角も北である。


 ルナー帝国は風の神の宿敵「混沌」を許容(あるいは利用)する帝国である。よって、出会えば一触即発。しかも神の性質上、見つかったら隠れたりとか逃げたりという概念があまりない。遭えば戦う奴らである。
 しかしこれが、非常に強い!
 赤き月の神の下位神である「七母神」は、一人の神を信仰していながら実質七人の神の力を兼ね備えているのと同じ。しかも、文明を利用している帝国の将校は、武具の素材からしてオーランシーとは比較にならない強さを秘めている。
 ぶっちゃけると、ルーンクエストのシナリオでは本筋よりも「行き帰りの途上ルナー帝国のパトロールに遭遇するかどうか」の方が気になるほど、戦えば死亡率が高い。

 そして帝国の将校の親玉、「剃刀の」ジャ・イール・アリアッシュという魔法人造人間が桁外れに強い。こいつに遭ったら車に撥ねられたと思うしかないほどの強さである。彼女は惚れっぽく気まぐれで、神出鬼没の女剣士だ。GMがこいつを登場させたのなら「その場のオーランシーは皆殺しにしてやる」と宣言したも同然である(あ、美形男子は別。とっ捕まって改宗させられてルナーの手先になるだろう)。

 これまでに紹介したD&Dやローズトゥロードと違うのは、この「帝国対オーランス」という図式が、世界設定の前面にはっきりと押し出されていることだ。大部分の冒険者は、誕生した瞬間から帝国と戦うことを宿命付けられる。それがルーンクエストの世界なのだ。