TRPGと悪の帝国(4)

 さて、ここまでは古いゲームを逐一チェックするような流れで書いてきた。しかし、この後の1990年代前半、日本のTRPGは沢山のタイトルが発売され、私自身とても全てプレイしてはいない。そのため、特に「帝国」が印象に残っているゲームについて、実体験に基づいて話していきたいと思う。

 が、その前に。

 このエントリの第1回目で、コンシューマゲームにおける「帝国」についてさらっと触れた。では、ゲーム以外のファンタジー作品はどうだろうか? これもさらっと触れてみたい。


新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (評論社文庫)

新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1 (評論社文庫)


 実は、ファンタジー作品の金字塔である、あの「指輪物語」が、そもそも帝国の侵攻に抗うレジスタンスの物語である。もちろん、厳密に解釈すれば冥王サウロンは「皇帝」ではないし、ゴンドールやアルノール、裂け谷を征服して統治しようとしているわけでもないが、物語全体としてはサウロン率いる闇の軍勢の侵攻に抗う中つ国の人々(エルフやエントも含む)の姿を描いている作品だ。サウロンが倒れた後にアラゴルン戴冠式が行われるのも、帝国を打倒して新王国を打ち立てたようで象徴的だ。


コナン・ザ・グレート〈特別編〉 [DVD]

コナン・ザ・グレート〈特別編〉 [DVD]


 コナン・ザ・グレートは「一回の戦士が一国の王となる物語」であって、帝国に抗うというよりむしろ帝国の初代皇帝を描いた物語であるが、それでも少年時代に故郷が侵略されて奴隷の身分に落とされたという過去がある。


メルニボネの皇子―永遠の戦士エルリック〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)

メルニボネの皇子―永遠の戦士エルリック〈1〉 (ハヤカワ文庫SF)


 逆に、帝国の最後の皇帝を描いた古典的作品もある。ストームブリンガーだ。主人公エルリックはメルニボネの最後の皇帝なのである(皇帝らしいことをするシーンはほとんど印象にないが…)。



 ナルニア国物語も、雪の女王の軍勢の侵攻に抗いその軍勢を打倒するのが最初の物語だ。

 なぜ、ファンタジー小説にはこの図式が多いのか? 理由は簡単だ。
 自分が最初に手を出して相手を攻めるという物語は、読者が感情移入しづらい。正当性がないからだ。「最初に手を出してきたのは向こう」だからこそ「反撃することに正当性が生まれる」のである。そして「敵は強大であるほど打倒した時にカタルシスを得られる」。滅亡寸前の弱小王国に攻められても読者は危機感を感じないだろう。
 よって「強大な勢力を誇る帝国が、ある時突然攻め込んできて主人公たちの平穏な日常が破られ、その支配を打破するために戦う」という図式がよく使われることになる。

 では、TRPGの場合もその図式が当てはまるか…という話は、一連の話の最後にすることにしよう。