しかし、動機付けという意味ではケンジよりさらに大きな問題を抱えているのがヒロイン、ナツキである。
ナツキがこいこいでラブマシーンを破るシーンは、サマーウォーズで一番盛り上がる、クライマックスの場面だ。
ところが、よく考えるとこのこいこい、ナツキがやらないといけない理由が特にない。
ラブマシーンはゲームとみれば乗ってくる性質を持っている。そしてナツキはこいこいでお婆ちゃんに鍛えられている。だからナツキがこいこいでラブマシーンに勝負を挑む。
…本当にそうだろうか?
物語中で、ナツキがラブマシーンを倒したい、倒さなければならない、という決意を固めるに至る描写はない。「OZの混乱のせいでお婆ちゃんが死んでしまったから仇を討ちたいのだ」というのであれば、途中でナツキがiPhoneで侘助を呼び戻すシーンでは「戻ってきてお婆ちゃんにちゃんとお別れを言って!」ではなく「お婆ちゃんがラブマシーンに殺されたの、ラブマシーンを止めて!」と言うべきだった。
他にも、ケンジがカズマたちとラブマシーンに弔い合戦を挑む最初のシーンで、ナツキはラブマシーンに対してまったく気のないそぶりを見せている。作戦会議には加わろうともせず、遺品の整理などしているのだ。彼女は物語の当初から、OZそのものにそれほど興味を持っているとは思えない。
つまり、ケンジ以上に物語に積極的に関わる理由がないのである。
逆に、その正反対の人物がいる。
OZ最強のアバターというプライドをズタズタにされ、ラブマシーンに再戦を挑もうとする少年、カズマである。
彼には動機がある。ケンジやナツキ以上に、この物語の中核に近いところに、徹頭徹尾位置している。
「どうしてカズマが主人公じゃないのか」「どうしてカズマきゅんは女の子じゃないのか」「どうしてカズマきゅんがヒロインじゃないのか」…ネットのこういった声も、あながち見当違いとはいえない。
少なくともケンジかナツキのどちらかが「キング・カズマ」であったなら、主人公たち二人はこんなに影が薄くなくてもすんだはずだ。
ことほど左様に、登場人物の動機付けというのは難しい。さじ加減を誤ると主人公の影が薄くなりすぎたり、物語全体がご都合主義に見えてしまったりすることもある。前作「時をかける少女」の主人公マコトのようなアグレッシブな性格をしていない、ケンジのようなキャラクターの動機付けを行おうとするのであればなおさらである。
管理者パスワードの暗号化の「謎」は、主人公に物語に関わるための動機付けを行おうとする、製作者の苦心の現れのような気がするのは私だけだろうか?
さて、TRPGにおいても、PCの動機付けというのはGMの頭を悩ませる重要な問題だ。それを瑣末な問題と切り捨てるのはごく一部の風変わりな人たちだけである。
本当はこのことについても今回のエントリで触れるつもりだったのだが、長くなりすぎたので次回以降に譲ろう。
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