エンドレスサマー


 うわぁ…。

 前半のクラスメイトを記述した部分は「ぽぽるちゃさんのイラスト可愛いなあ、これだけの人数のイラスト描くの大変だっただろうな」とか、その程度の感想だったけど、これ後半が凄いわ。

 まず、シナリオクラフト。明らかにシナリオクラフトにしやすいシナリオ構造を持つタイトルだったのに、私の頭の中からは「エンゼルギアでシナリオクラフト」という発想がまるで抜けていた。
 これで、FEARの主要なTRPGの中でシナリオクラフトを持っていないのはアリアンロッドだけかな? 個人的にはアリアンロッドのシナリオクラフトこそ一番欲しいんだけれども…(経験値の価値が高いゲームだけに、短い時間でも気軽にシナリオをやって経験値を稼ぎたいから)。

 そして、キャンペーンフック。旧エンゼルギアからずっとプレイしていた身としては「このNPCはこんな設定持ちだったのか!?」とページをめくるごとに驚愕の連続。特に大半のNPCに「死」が設定されていることに「やはりエンゼルギアは戦争を題材にしたゲームなんだな」と認識を新たにした。

 そして、エンゼルギア以外のTRPGをプレイする人も是非読んで欲しい一文が、この「エンドレスサマー」の一番最後のページの一番最後に書かれている。とてもとても大事なことだ。


 「AG2」にはあらかじめ“死の運命”が設定に織り込まれているキャラクターも多い。キャラクターの死を描くことは“戦争”を描くために必要なことでもあるだろうが、NPCの死は時に強すぎるショックや不満の元となる。

 NPCの死を描く、と心に決めた場合、ハンドアウトやアクトトレーラーで予告するのがよい。「彼女の運命は如何に?」といった問いかけでなく、ちゃんと予告すること。

 PCの判定や行動の結果でNPCの生死が左右される場合はどうか。「PCたちの行動によって生死が決まる」とした場合、基本的には成功、つまりNPCを救うことを目指してシナリオを作るべきである。

 NPCの死は、戦争や運命のせいであって、プレイヤーの責任にしてはならない。

 プレイヤーを騙したり罠にはめたり、成功の確率の低い判定によってNPCを死に追いやることは、プレイヤーにとってフェアではない。(後略)


 「NPCの死」を「プレイヤーにとって著しく不利になったり行動を制限されること」と言い換えれば、もちろん他のゲームにも適用できる。


 プレイヤーを騙したり罠にはめたりすることはプレイヤーにとってフェアではない。
 にしかけみもじさん聞いてる?
(*1)


 ちなみにエンドレスサマーでは、この部分は徹底している。
NPCを死なせるならシナリオに書かれた通りの方法で死なせ、プレイヤーに対して「だってシナリオにそう書いてあるんだもん」と説明して、我々に責任を押し付けろ』とまで書かれている。

 つまり、そこまでGMに求められる責任が大きいということだ。NPCが死んだのはGMにハメられたせいだ、と思われたらそのセッションは失敗である。「ゲーム製作者に責任をなすりつけてでもいいから、その事態だけは絶対に回避しろ」とデザイナーは言っているわけだ。ここまでその姿勢を貫いたゲームは他にないだろう。


 素晴らしい。はっきり言ってこの記述のためだけに、2800円を払った価値があった。200ページ超のサプリメントで2800円なら元々お買い得だと思うけども。


(*1)昔、にしかけみもじさんのマスタリングがリプレイの読者に大論争を呼び起こしたことがある。

 以下、卓上ゲーム板用語辞典から抜粋する。


【ペイント問題】
(俗語:TRPG
 「プレイヤーキャラクターがすぐ気付くはずの情報を、プレイヤーに(深く追求されない限り)知らせない」というマスタリングに関する問題。『ソード・ワールドRPGリプレイ風雲ミラルゴ編』におけるGM清松みゆきのマスタリングに由来する。

 冒険者パーティーは、キャンペーン中で「顔にペイントを施す」風習のある部族から追われるようになった。この部族にとって顔のペイントは宗教的な意味を持つもので、GMも敵の刺客たちがペイントを欠かさず、またペイントを落とされれば自殺するなどその重要性を強調していた。そしてキャンペーン終盤、パーティーは彼らに接触してきた人物から「伝染病が発生しているので予防薬を飲んでおけ」と薬を差し出される。実はこの人物も顔にペイントをした敵部族の刺客だったのだが、GMは「聞かれなかったから」その人物がペイントをしていることをプレイヤーに教えず、PCたちは不振がりつつ薬(実は痺れ薬)を飲んで倒れ、生け捕りにされてししまった。

 GMはリプレイ単行本の解説で、このマスタリングが「ほとんど反則」「卑劣技」であると認めつつも、このくらいのトリックは自力で乗り越えてほしかったとコメントしている。しかし、「見ればすぐ分かる」「重要な」情報を、GMに都合のいいときだけ教えないというダブルスタンダードに対する批判、また、なまじ熟練したプレイヤーは、序盤から中盤にかけてのピンチをゲームのスパイスとしてあえて受け入れることがあるため、この状況はGMが狡猾に振舞ったというより、プレイヤーの厚意に甘えたと解すべきだという指摘が挙げられている。


 エンゼルギアのデザイナー陣との「プレイヤーとGMのあり方」に対する姿勢の違いに注目してほしい。
 ちなみにこういうのは普通、トリックじゃなくて「GMの脳内当てゲーム」という。