成功者のジレンマ


 前に賀東さんと新城さんの対談のところでちょっと書いたけれど、私はアイドルマスターは「成功した(もしくは失敗しなかった)センチメンタルグラフィティ」だと思っている。アーケード版のアイドルマスターが稼動したのが2005年、それからもう5年経っているのに、ニコマスや同人誌などのユーザーコミュニティがこれだけ大きい形で残っているゲームというのは……かつてのときメモがどれくらいの期間ユーザーコミュニティを保っていたのか寡聞にして知らないが、ゲームの発売からブームが相当収束していたと思われる実写版まで3年である。PS版、SFC版、Win版への移植、ぱずるだまへの翻案など思いつく限りの展開はほぼ全て4年経たないうちに終わっていることを考えると、続編がコンスタントに出ている、ニコニコ動画などゲーム外のコミュニティが幸運にも存在したなどの事情があるとはいえ、一つのタイトルと考えるとアイマスの展開の長さは異例の長さだろう。
 恐らく、バンナムアイドルマスター2でキャラクターを一新はしない。これはプロデューサーなども(断言はしていないが)間接的に認めている。また、キャラを一新したアイマスDSの売り上げ(私はあれは一種のテストケースだったのだと思う)を考えると、キャラクターのほとんどはそのまま(声優も含めて)続投してくると思われる。しかし、全てが旧来のまま何も変化しないのというのでは、コミュニティも閉塞する一方ではないだろうか。


 実は、バンナムアイマスマルチプラットフォーム展開で一つの成功と二つの失敗をしている。一つ目は「星井美希の参入」だ。美希はアーケード版にはいないキャラクターだが、コミュニティには抵抗なく受け入れられた。また、新キャラとしての人気も高く、PSP版、DS版が発売された今となっても人気は微塵も衰えていない(トラブルはあったが)。
 失敗の一つ目は、星井美希の961プロへの移籍である。断っておくが、私はこれを失敗とは思っていない。バンナム自身が失敗だと判断しているのだ。美希の移籍話が出た時、コミュニティは見事に二分された。許容派と反対派である。許容派はあくまでも許容であって、積極的賛成ではない(私のスタンスはどちらかといえば積極的賛成に近い)。美希のファンで許容していた人間はほとんどいなかったのではないだろうか? 当時、コミュニティは「荒れた」と言っていい状況だった。ニコマスPの中にも「引退」もしくは「休止」を公言する人がいた。結局、ゲーム発売のかなり後になって961プロの3人が765プロに再編入することをプロデューサーが明言したことで騒ぎは収束した(ゲームのストーリー自体がそういう展開だったから、というのはもちろんある)が、「あの騒ぎは何だったの?」(たかはし智秋as三浦あずさ)という印象はぬぐえない。また、設定を戻したということは「変えたことは失敗だった」と認めたということだ。
 二つ目は、恐らくSPの失敗を踏まえた上でのDSでの新設定、つまり765プロに干渉しない876プロ所属の新キャラクター3人、という位置づけである。これは、位置づけとしては成功しているしキャラクターも一定の人気を保っているが、ゲーム自体の売り上げを考えると手放しの成功とはいえない、むしろ失敗ではないか? と思う。美希の件とは逆で、これは私が失敗と思っているだけでバンナムの見解は不明だ(もちろんアイマスDSの苦戦は設定よりもハードウェア特性によるものも大きいと思うが)。