最近のTRPGはカッコいい台詞言ってポイント貰わないといけない?


 まず、最初に整理しよう。この高見先生の友人は、TRPGのことを知っている。シティアドベンチャーなどという用語が出てくることからも、ただ知っているというだけでなく、それなりに詳しい、恐らく先生の昔のセッション仲間であろうということは容易に想像できる。
 その友人が「最近のTRPGはカッコイイこと言ってポイントをもらう」ものだという。日本でプレイ可能なTRPGのなかで、カッコイイことを言ってポイントをもらうシステム、つまりロールプレイ支援システムを持つTRPGはそう多くない。現在もサポートが続いていると言えるゲームは天羅WAR、たった一つだ。
 先生の友人が昔TRPGをやっていたのは疑いない。そして「最近のTRPG」のことを本当はまったく知らない(当然遊んでもいない)のも間違いない。


 先生の友人は誤解している。そのこと自体は問題ではない。問題は、なぜその誤解が生じたか、ということの方だ。


 実は、この最初のたった一言の台詞だけで、先生の友人がいつTRPGを離れたのかがほぼ特定できてしまう。ロールプレイ支援システムは日本のTRPGではメジャーではないし、多数派になったこともない。ただ、そういう誤解が生じてもおかしくない状況が一度だけ起きたことがある。
 ホビージャパン社がまだオリジナルのTRPGを発売していた頃、つまり、マジック・ザ・ギャザリングが日本で有名になる前のことである。天羅万象、熱血専用、番長学園という、ロールプレイを重視するシステムが相前後して3つ発売されたことがある。先生の友人がTRPGを離れたのはこの頃のはずだ。ロールプレイ支援システムが世の趨勢となっていきそうな兆しをみせたのは後にも先にもこの時だけで、しかもそれは現実にはならなかった。


 なぜならこの直後の1996年頃、日本のTRPGは「TRPG冬の時代」と呼ばれる、未曾有の危機の時代を迎えるからだ。この時期にTRPGを離れた人間は多い。私の周りにいる「昔TRPGをやってたが今はやってない」人たちはほぼ皆、口を揃えてこの時期にTRPGをやめたという。
 だから先生の友人は「今のTRPGはカッコいいことを言ってポイントを貰うシステム」だと誤解しているのだ。それは今のTRPGではなく、あくまでもその友人が知っている最後のTRPGのことを指しているに過ぎないのだが。


 そして、これは井上氏にとっては極めて自虐的なギャグだ。


 日本で発売されたロールプレイ支援システムを搭載したゲームの3分の1以上は、彼がデザインしたものだ。天羅万象、テラ・ザ・ガンスリンガー、天羅WAR、エンゼルギア、WARPS、ヤマモト・ヨーコTRPG、熱血専用、番長学園、カオスフレア、ドラゴンアームズ。今挙げた10タイトル中、前4タイトルは彼が関わったシステムなのである(そしてカオスフレアのデザイナー、小太刀右京氏は井上氏の熱烈なフォロワーだ)。