“ディアスポラ”アルダ


 殺戮者の多くは、己の欲望に負けた残虐非道の輩であり、同情の余地のない悪人だ。ただし、中にはやむなき事情によって闇の鎖に囚われた哀しき殺戮者もいる。以前紹介したバルヴィエステの皇帝アンゼルなどもそうだ。
 そんな中にあって、最も哀しい殺戮者の一人が“ディアスポラ”のアルダである。


ディアスポラ”のアルダは、ターゲリート氏族と呼ばれるエルフの氏族に生まれた娘である。ターゲリート氏族は「メオティアの森」という場所に居を構え、アンゼルの父と伯父にあたるヘルマンとヘルラントという二人の王による王国の継承権戦争で中立の立場を貫いた。それがヘルマン王の怒りに触れ、傭兵伯ゲオルグ・シュローダーに率いられる騎士団によって森は焼かれ、エルフの氏族は殺戮の限りを尽くされた。
 ゲオルグ・シュローダーは殺戮者だ。正確には、彼の持っている魔剣カーネイジが強大な殺戮者だ。そして、死にゆく同朋を目に決意を固めたアルダは、死にきれぬ痛みに苦しみ呻く仲間に安らぎをもたらし、とどめを刺すことでその聖痕を吸収し、冷酷な復讐の精霊と化したのである。
 カーネイジと痛み分けた彼女はメオティアの森に籠り、全ての人間に復讐することを誓って、他の聖痕者がやってくるのを待ち受ける──それが、1stエディション基本ルールブック、ランドオブギルティ、2ndエディションにおける彼女の立ち位置だった。

 ブレカナにおいては、殺戮者と化すまでの過程がいかに同情に値するものであっても、殺戮者であるアルダと聖痕者であるPCが相容れることはない。殺戮者が聖痕者に戻ることは有り得ず、説得に応じることもない。たとえ一時的に説得されたように見えても、闇の呪縛は殺戮者を解放しない。サプリメントの種類によってシナリオフックの内容は異なるが、アルダは常に打倒すべき敵として描かれる。
 彼女の登場する本当に最後のシナリオ集、フルキフェルSSSにおいて初めて彼女の魂は安らぎを得る。ただしそれは魔神パラモルとPCが賭けをして勝つという多大なリスクを払った極めて例外的なケースであり、他の殺戮者がそれと同じ運命をたどることは有り得ない。殺戮者は救われない存在なのだ。そして、恐らく転生を遂げたであろうアルダは、3rdエディションには登場しない。


 さて、果たして魔女となったさやかを他の魔法少女は救うことができるのか。それとも魔女は殺戮者と同様救われない存在として終わるのか?