二つの巨星(後編)

 私が「この人にだけは敵わない」と思っているもう一人の人が、このサイト「妄言銃」を執筆している黒野さんです。


妄言銃


 黒野さんといえば有名なのが、海外殺人モジュール「ラッパンアスク」のプレイレポートでしょう。


その1:地獄の釜の蓋が開いたの巻


 長文の力作で、しかもまだ完結はしていませんが、私が読んだことのあるプレイレポートとしてはまさしく屈指の面白さ。一読の価値はあると言えましょう。

 名馬はやての君の最期の場面に泣き、アウカン・ヴィメイラガの叙情性ムーブとゆるムーブの交錯するシーンでは、人前で笑いを抑えるのに苦労した記憶があります。



     ◇


その強く優しい眼差しをギリオンに向けながらアウカンは言った。



「逃げろ!!!お前だけでも生き延びるんだ!ラッパンアスクを封印する為に…オルクスを倒すために!!!」

満身創痍になったアウカンの、血に滑る手に砕けんばかりに強く握り締められたその剣は、高く、今まで見たこともないほどに高く

振り上げられた。

残された最後の力の全てが、今アウカンの手の中にあった。

既にその目は霞み、自らを取り巻く翠石で出来た死神達の姿もよく見えてはいない。

だが、未だその身体は力を失ってはいなかった。

マハーバラが最後の力を振り絞って灯した炎が、その身の内に燃えていた。



山だ。



吹き荒ぶ吹雪のヴェールに隠されて、頭上に雪の冠を頂いた誇り高き山を、ギリオンはその姿に見た。



「バカな!そんな事が出来るものか!私も最後まで戦う!!」

兜の黄金仮面の奥から、鏡の様なまびさしの向こうから、ギリオンが叫ぶ。悲痛な声であった。

恐らく仮面に隠されたその顔には満面の笑みが浮かんでいる。

「駄目だ!ここで全滅したら誰がラッパンアスクの所在をやってくる英雄達に告げるのだ?誰がこの怪物たちの危険を彼らに警告し

てやれるのだ!?」

「しかし私には死に瀕した味方を見捨てることなど…仲間の命を奪った怪物に背を向けて逃げるなどできぬ…!!!」

言いつのるギリオンに向かってアウカンは目を剥くとどすの聞いた声で叫んだ。



「おめそれ、ぜってーだべな!?」

「え?」

「そっこまっでいうからには、最後まで戦えよ?」

「え?」

「覚悟できてんだべ?な?覚悟」

「いやそのえっと、ちょっとそれ的なものは…」

「できねえんだろ?」

「あー、その…なんていうか…そういう方向で…」

「出来もしねえ事言うな。な?」

「すみません…」


     ◇


 これまた「読んでみてください」としかお勧めの言葉を吐けない自分の非才が悔しいのですが、このプレイレポートを読んだ後注意しなければならないことが一つだけあります。

 それは「ラッパンアスクって面白そうだなあ、俺たちもやってみよう」というのは、よくよく熟慮した方がいいということです。

 黒野さんはプレイヤーとしても非常に面白い方です。レポート中ではギリオンのプレイヤーである黒野さんですが、アウカン(そしてたぶんファルメールも)のプレイヤーである夏瀬さんとのコンビ漫才は、同じテーブルを囲んでいる真っ最中でも噴き出すのを堪えなければならない場面がしばしばあるほどです。笑いを取りつつ、シリアスな場面は決めるところをしっかり決める。黒野さんのすごいところは「どんなシナリオでも楽しいところを見つけて面白く遊ぶ」ところにあります。
 妄言銃のプレイレポートの中に、真・女神転生TRPGでもアレで名高いシナリオを遊んだもの(「ディズニーの曲を2倍速にしたようなアップテンポのハードロック」という謎のワードが登場するやつです)があります。プレイレポートを読むと面白そうに見えるのですが、心の準備なしに真似をすると十中八九酷い目に遭うと思われます(逆に言えばこれで楽しめるのであれば市販のどんなシナリオでも楽しめる面子のはずです)。

 読んで面白いプレイレポートと、やって面白いシナリオは違う、ということを踏まえた上で、ラッパンアスクの地獄の阿鼻叫喚を、あなたにも、是非。


     ◇


「フン!魔法使いなんざ信用するからだ!頼れるのは自分の運だけよ!」

お待ちかねの戦闘にテンションの上がるマーヴェリック。

爽やかにセーヴィングスローに失敗して6ラウンドの間恐怖状態に。



「え?何もできないの?」

「出来ません」

「6ラウンドも?」

「6ラウンドも」

「マジで?」

「マジです」

「うおおおー!このゲームクソゲーだよ!」

「おいいいい!!!いい度胸だな!!」

「あ、デッカーさんのハッキングが終わるまで俺タバコ吸ってきますねー^^」

「黙って座ってろよ!!」