さて、先週のエントリでご紹介したFF11の限界突破クエストについて、ゲームバランス上の問題点や通信状況に対する危惧などはもう散々公式フォーラムで語られ尽くしているので、違った側面から言及してみたいと思う。
あれ、キミまだ気づいてなかったの? キミが戦ってたのは、僕の一部……そう、僕の影だよ。
(中略)
え? 今度は僕自身と戦ってみたいって?
前にも言ったけど、僕の強さはハンパじゃないよ? いまのキミじゃ、到底かないっこないね。例えるなら、チゴーとマーリドさ。
でもまぁ、キミがこれでもかってくらい鍛練したら、1%くらいは勝てる可能性が出てくるかもね。
じゃあ、僕はもう行くよ。
(後略)
これは、限界突破クエストで戦うことになる敵、武神ことアトリトゥトリとの“戦闘後の”台詞である。これを読んで、あなたならどう感じるだろうか。
ストレスとカタルシス
ゲームというのは、ストレスとカタルシスでできている。将棋や対戦ゲームのように人間と戦うゲームは誰かに負けることがストレスであり、勝つことがカタルシスとなる。勝ち負けのないゲームであれば、クリアに至るまでの障害がストレスであり、障害が排除されることがカタルシスに繋がる。
ストレスをなくしてしまったらクリアした時のカタルシスもなくなってしまう。よってゲームにはストレスが必要だ。しかし、クリアした時にカタルシスが得られないのも、また著しくプレイヤーのやる気を削ぐ。例えばゲームデザイナー自らがプレイヤーに対して「お前のやったことは無駄だった」などと言明する──「たけしの挑戦状」のように──などだ。
其は誰ぞ
まず、FF11をプレイしたことのない方……は、あまりこのエントリをご覧にはならないかもしれないが、プレイしたことがあってもアトリトゥトリをご存知ない方もいると思うので、彼がどのような人物かを説明しておこう。
NPCの一人。
種族はタルタル。海神楼の宿泊客。いたって軽いノリかつ物忘れの激しい御仁だが、天晶堂の客であることを考えれば一筋縄ではいかない人物であろうことは想像がつく。
(以下ネタバレ)
クエスト「武に賭けた想い」を進めることで、その正体を推察することができる。
たしかバスチューク……
……かんじゃった。
バストゥークだね。
そこに、今はいるらしいよ。
こんなしゃべり方やタルタルの外見に惑わされることなかれ、マートやデーゲンハルトの台詞によれば結構なお年を召しておられるはずである。そして、本来なら手にしていておかしくない名声や栄誉に背を向け、天晶堂の食客としてひっそりと悠々自適に暮らしているようだ。*1
ほほう……天晶堂のタルタルか。
なるほど、そうか!
上記のようなデーゲンハルトの台詞からも、事情を知る者は彼の隠遁願望をよく理解しているのではないかと思われる。ただ、ジュノの天晶堂を訪れる冒険者を観察して見込のありそうな者に声を掛けていることから、完全な隠遁というよりは後進の成長を楽しみにしている楽隠居であると言えるかもしれない。
なに?
武神に会わせる約束はどうしたかって?……なに言っているの?
鈍感だなぁ。君は、もう武神と会っているでしょ!
(PC、慌てて背後のヒュム(ただの店員)に振り返る)
そいつじゃねぇーよ!
……まったく!
ここまで鈍感だとは思わなかったよ。若いガルカさん、そこをどいてよ。
ここで、颯爽と去らないと、
格好が付かないんだから!
クリスタル戦争当時はウィンダス連邦軍の高官であったようで、クエスト「降臨、異貌の徒」において、ヤグードに夢想阿修羅拳を放つ姿が確認されている。また、ハイドラ戦隊にはPutori-Tutoriというタルタルがいるが、彼はAtori-Tutoriの弟であることがアルタナミッションにて語られる。
FF11用語辞典より
マートやデーゲンハルトといった武の達人という設定のNPCたちの師匠にあたる、まさに武の神というべき強力なNPCである。
……が、そのことはほとんどのプレイヤーには知られていない。なぜなら、上記「ネタバレ」以降の部分については上に書かれているとおり、「武に賭けた想い」というクエストを進行していないと出てこない情報だからである。なお、当該クエストは20あるジョブのうちの一つ、モンクのさらに最強クラスの装備を入手するためのクエストであり、モンクを上げていないプレイヤーにとってはほとんど無関係の*1NPCである。
つまり、多くのプレイヤーにとっては「ぽっと出のNPC」なのだ。
苦労してアイテムを入手し、苦労してメンバーをかき集め、苦労して戦闘に勝ったと思えばぽっと出のNPCに虫ケラ(チゴーとは「ノミ」のこと*2なのでまさに虫ケラだ。なお、マーリドというのは象のことである)呼ばわりされて、楽しいと思えるプレイヤーがいるだろうか。カタルシスを得られるプレイヤーがいるだろうか。
これが連続するクエストの最初で、今後彼の言葉通り武神を打破する物語が続くというのなら、まだ話はわからなくはない。しかし、今回の限界突破クエストは現在公表されているロードマップでは最後のものであり、プレイヤーはこれ以上レベルを上げることはできない。つまり、罵声を浴びせられるだけ浴びせられて、そこで話はおしまいになってしまうのだ。
(続く)