フィルボルの憂鬱

 さて、昨日の続きである。

 FF11シナリオライター氏は、指輪物語を読んだことがあるだろうか。映画「ロード・オブ・ザ・リングズ」はご覧になったことがあるかもしれないが、恐らく小説「指輪物語」は読んだことがないのではあるまいか。

 灰色だった頃のガンダルフはこう言った。
ホビット族は身体が小さいために他の種族から軽んじられがちであるが、他の種族より強い意志の力を持っている。だからモルドールへの旅を必ずや成し遂げるだろう」と。
 逆に言えば「ホビットは強い意志力以外は他の種族に劣っている」ということだ。
 これを踏まえ、元祖D&Dを始めとし、ファンタジーRPGに登場する小人族の多くは「他の種族に上回るのは敏捷性もしくは意志力のみ」という位置付けをされている。ハーフリング、グラスランナー、フィルボル、皆同じである。
 こういうと「タルタルはホビットじゃない、エルヴァーンがエルフではないように」という反論が返ってくるかもしれない。確かに、ヴァナディールの種族を伝統的なファンタジーの図式に当てはめると、能力的な面からは
「エルヴァーン → ドワーフ
「タルタル → エルフ」
「ミスラ → ホビット
という相関図の方がより近い。
 しかし、それは能力的な面だけだ。精神性についてはそれぞれ元ネタとなった種族となった種族のものがそのまま残っている。エルヴァーンはドワーフのように頑健な種族だがエルフのように誇り高い──そして、タルタルはその強大な魔力こそエルフだが、性格はホビット──いや、グラスランナーやフィルボルそのものだ。
 それのどこが問題なのか?
 グラスランナーやフィルボルが子供のような外見が表すとおり、トリックスターやトラブルメーカー的な役割を果たしても、すばしこいだけなので「しょうがないな、もう」で済む。しかしタルタルは違う。何しろ魔力では並ぶ者のない種族である。強大な魔力を「楽しいから」という理由だけで好き放題に振るわれたら、他種族からすればたまったものではない。
 エルフの排他性、神秘性、秘密主義と、その強大な魔力とは同じコインの裏表であり、本来切り離すことはできない。一般的なファンタジーRPGで小人族に強大な力が与えられていないのには、ちゃんとした理由があるのだ。
 FF11をプレイしている方は、もう私が何を言いたいかお分かりいただけたかも知れない。タルタルの母国、ウィンダス連邦の要人クラスは、この「魔力だけは強大だが精神性は小学生並み」というNPCのオンパレードなのである。一番有名なのはディシディアに出演を果たしたシャントット博士だろう。彼女だけならまたネタとして許せたとしても、ウィンダスには三博士を始めとしてそんなNPCがわんさといる。歴史を紐解いても、真面目に戦争しているつもりが相手にとってみたらただの悪ふざけだった、というのだから、エルヴァーンも気の毒だ。 
 ちなみに、タルタルで他人をバカにせず、己の運命に対し真摯に向き合う強い意志を持ったタルタルというと、星の神子とカラハバルハ、イルディゴルディ、アプルルくらいしか思いつかない。

 これだけならまだいい。少なくともタルタルは魔力に秀でた種族であるという設定だ。ならば魔力において抜きん出たという設定のNPCの存在は、腹立たしくてもまだ納得はできる。
 しかし、武神ことアトリトゥトリは魔法使いではない。純粋に格闘術の強さでヴァナディール最強の称号を与えられているのである。他の種族、特にガルカやエルヴァーンの立場はどうなるのだろうか。*1
 こう言うと、また「そのミスマッチが面白いんじゃないか」という人がいるかもしれない。そういう人は、もう一度ヴァナディールの世界設定を洗い直したほうがいい。「タルタルなのに魔法を使わず(使えず)、それ以外の力を使って活躍する」というNPCは他に少なくとも6人いる。*2ミスマッチが面白いのは一人か二人までだろう。それを超えたら食傷だ。
 加えて、これまた能力だけが強大で、性格が子供そのものだというのが、さらに小憎らしさに拍車をかける。そんなキャラはシャントット一人で十分だ*3彼らが外見が子供なだけで、年齢相応の落ちつきや風格を漂わせている(ランペール王やペリィ・ヴァシャイのように)のならまだ敬意も払えるのだが……。

(もうちょっと続く)

*1:今のところ、ヴァナディールのNPCのなかで最強の人物は、武力においても魔法においてもタルタル族である。これは邪推かもしれないが、シナリオ製作スタッフは「タルタルならば強力なNPCがクソ生意気な口を利いても免罪される」と思っている節がある。

*2:例えば、ルンゴナンゴ(グリモアの考案者にして獣使い。一人でサンドリアを滅亡寸前に追いやった)、ロンゴナンゴ(ルンゴナンゴの子孫、水晶戦争の英雄)、イルディゴルディ(召喚士AFクエストに登場する努力家)、プトリトゥトリ(武神の弟と思われる。ハイドラ戦隊のメンバーでマンダウの所有者)、クパルハルパル(片手刀レリック武器の所有者)、カパクク(格闘レリック武器スファライの所有者)。

*3:なお、小人族=子供のまま、なわけではない。ホビットやハーフリングは老化する。タルタルは「小人族であり」かつ「老化しない」のだ。