○○合戦

買った本を裁断は良い?悪い? "自炊"問題受け「ブラよろ」「もしドラ」作者同士が論戦


 心情的にはどっちの味方もしたくないんだけど(笑)、今回はどう考えても佐藤氏の方が分があると思う。


 というか、岩崎氏はわざと○○な人の振りをして「これが炎上マーケティング(笑)」と思ってるとしか考えられないんだけど。いくらなんでも心の底からこの主張内容を信じてはいないよね?
 もし、これを信じてるとしたら「マネジメントのいったいどこを読んでたんだよ」って話になる。そもそも岩崎氏は、この主張が正しければ自分の著作に対価を求めることにも正当性がなくなるってことがわからないんだろうか? 「所有」できないと主張する本を「販売」する、売買契約を結ぶってのは信義則に反する購入者への裏切り行為。本気でそれを主張するのなら、本の購入者は「所有権のない物品を販売すると称して代金を徴収した」といって出版社と作者を詐欺罪で訴えてもいいんじゃないだろうか? こんなの経済活動の基本中の基本じゃないの?*1
 だから彼の言葉がもし正しいとすれば「もしドラは本屋で買うのはやめて、図書館などで無償で借りて読みましょう。間違っても代金を払ってはいけません」ってことになる。


 論戦は明らかに明後日の方向に吹っ飛んでいるが(笑)、では「買った本をどう扱っても買った人間の自由」かどうか。


 まず、それを使って他人に損害を与えたり違法行為に使用したりしない限り、破こうが捨てようが本をどう扱おうが違法行為ではない。本来の話題である「スキャンを代行業者に代行してもらう行為が法に抵触するかどうか」はこのレベルの話。これはずっと前のエントリにも書いたが業者としてはかなり苦しいのではないかと思うけど、そこは裁判所が判断することだろう。
 次に、例えばiPhoneとかPSPとか、これらを「割る」行為は、違法行為ではないが「メーカーの規約」に違反する。つまり自分の所有物だけど使い方には一定の制限がかかるってことになる。電子機器以外にも取扱説明書などを用意して「○○以外には使用しないでください」と書いてあるものがある。これ以外の使い方をする場合は安全性が担保されなかったりメーカー保証が受けられなくなったり「自己責任」になる。もし使用に際して注意を喚起されている品物なら、何かあった時販売側はこれが主張できる。しかし、手元の本を見てみても、もちろん「破いたり一部を捨てたりせずそのままの状態でお使いください」などとは書かれていない(当たり前だが)。*2
 つまり、本をどうするかっていうのは(出版社も明記しておらず法にも抵触しない行為については)「作者の価値観(あるいはマナー)の問題」だということだ。例えば買った本をその場でビリビリ破いて読みだした人に対して、それを見ていた本の好きな人、あるいは様子を見に来ていた本の作者が「ちょっとそれはやめてよ」というレベル。従うかどうかはあくまでもその人の価値観の問題だ。岩崎氏の言ってることは言葉の細かい部分はともかくとして「俺がムカつくからそれやめろ」という主張以上の強制力をなんら持ち得ない。
 ただ……例えば、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」のように紙質までこだわって著された書籍について、作者が「スキャンして電子データで読むんじゃなく紙のまま読んでくれ、でないと私の伝えたいことが伝わらないんだ」という主張をするのであれば、それは非常に良くわかるのだが。


 それにしてもこの人、自分のことをジョブスと呼べとかいってる割に、随分考え方が古い(おかしい?)んだなあ。
 Amazonレビューもなかなか面白いことになっているので、リンクを貼っておく(購入を推奨するためではないので彼の主張に賛同できないのであれば間違ってもポチらないようにご注意を)。こんな本が200万部も売れるんだから世も末だよ……。


*1:だから、本書が「ビジネス入門書としてもお話にならないレベル」という書評には一定の説得力がある。自分が販売した本には所有権がないなんて主張する人間の経済論がまともなわけがない。

*2:しかし手元の本を細かく見てちょっと驚いたのだが、最近の書籍には自炊を除く代行業者へのスキャン依頼の禁止がはっきりと明記されているんだね。