戦車レースの光と影再び?(1)

Role&Roll Vol.89

Role&Roll Vol.89


「戦車レースの光と影」というのは、何年か前のJGCの配布パンフレットに掲載されていたSW1.0のシナリオのことである。
 そのあまりにもアレな出来に当時の私と友人たちは驚愕し、テストプレイまでしてアレっぷりを再確認したものだ。そして、まさかあんなシナリオがこの世に出ることはもう二度とあるまいと思っていたのだが……。

 今回ご紹介するシナリオ「ザルドルの闇に沈む」と「デリーレの谷に惑う」は2部構成である。ロールアンドロールの前号に前編が掲載され、今号に後半が掲載されている。実は前号の段階で超絶ツッコミを入れたかったのだが、もしかしたら後半で盛り返すかもしれないと我慢していた。……が、もちろんそんなことはなかったので安心してレビューする。
 なお、このエントリはネタバレ上等であるため一応隠しておくが、もしこのシナリオをプレイしようとしている人がいたとしたら考え直した方がいいと念のためアドバイスしておく。











 まず、このシナリオの作者は清松先生である。
 概略は次のようなものである。一人の男が出稼ぎ先で行方不明になり、家族から捜索依頼がくる。PCたちは彼の後を追っていくうちに様々なトラブルに巻き込まれる……。

前編・ザルドルの闇に沈む

 このシナリオでは、行方不明になった男が自分とは無関係の麻薬取引を巡るトラブルに巻き込まれ失踪したことがわかる。……と、説明してしまえばこれ一言なのだが、シナリオは非常にややこしい作りになっている。
 まず、登場人物が多い(またこれか……)。ムーテス、クヌート、デクスター、ケイマン、ザケーロ、モス、アリエラ、リッチー、ドゥバルド、ガムレイ……名前の設定されている人物だけでこれだけいる。しかし、なんとこのシナリオのリサーチフェイズでGMから判定を示唆する場面はたったの2回しかない(一応、判定をさせてもよいとなっている場面があと一箇所ある)。うち一回はクライマックスフェイズでボスがいる場所を特定するための判定で、一応フェイルセーフが用意されている。実質、情報を得るための判定は1回しかないことになる。
 なお、今さらながら付け加えると、このシナリオはシティアドベンチャーである(!)。
 登場する場所も10箇所、人物も10箇所……ちなみにこれらは最初に併記されるわけではなく、○○から××がわかる、という形で芋蔓式に情報が判明していくタイプである。なのに判定はたったの2回。どうやって情報を得るのかというと……。

クヌートの仕事ぶりには、満足していたと答えます。
(中略)彼の行方を捜していることを告げたならば、協力を約束してくれます。
(中略)「ザケーロ」という名前を出して尋ねられたら、そういえば最近は姿を見なくなったなという答えを得られます。(略)

 全部こんな感じである。なお、情報収集項目のようなものは存在しない。
 この書式のどこがまずいかというと、まず判定がないので言った者勝ちになる点が一つ。そしてもう一つは、PCがその項目について聞かなかった場合のリカバリーの方法がどこにも書かれていない点である。シナリオには「全ての情報を得なくても先に進んでしまってよい」と書かれているものの、じゃあどれが必須でどれがなくてもよいのかは書かれていない。

 一番端的に現れるのが「アリエラ」である。この人物は、麻薬について調べている帝国の特別調査官という設定だ。しかし、彼女についてのヒントは失踪した人物が残した彼女の逗留先と彼女の名前のメモだけである(それも、必ずしもわかるとは限らない)。そのため、PCたちが手がかりを求めて彼女の元を尋ねる可能性は高くないと思われる。何しろメモにはアリエラが味方か敵かも記されておらず、またシナリオ中には彼女の正体を知るための手がかりや判定が他にないからだ。また、仮に正体を知っていたとしても接触を図るかどうか微妙である(帝国のスパイにわざわざ会いたがるだろうか?)。
 彼女から得られる情報は必須ではないため、会わないままクライマックスフェイズまで行くことは可能だ。ちなみにその場合どうなるかどうかシナリオにはこう書かれている。

 アリエラを登場させる機会のないまま、事件が解決されてしまった場合、最後に登場させてください。彼女は、PCたちをさんざん褒めそやしたあと、勝手に上記の金額を報酬として置いていきます。

 

 ……はぁ?(笑) なんで(PCにとっては)依頼人どころか関係者ですらない人間が、部外者にわざわざ報酬を置いていくわけ??
 確かにこのシナリオは前編であり、依頼内容を完遂していないため、報酬が出ない。しかし、それならそれでアリエラを依頼人とするもう一つの依頼を用意すればいいだけの話だ。
 ちなみに、どうしてやたらアリエラを絡ませたがるのかは後編でわかる。実は、アリエラは後編のガイド役なのだ(笑)。
 だったらなんで前編の段階でそう書かないんだ!

 また、このシナリオのクライマックスフェイズに到達するにはアリエラに会うか、有力者ガムレイというギルドの幹部に会って取引をする必要がある(なしで行こうとするとGMに強制的に制止される)のだが、先述のようにアリエラに会うには判定に成功する必要がある。そして、ガムレイは……なんとシナリオ中にそこへ至るルートが書かれていない。「別のNPCが紹介状を書いてくれる」とあるのだが、「PCがシナリオを進めるにはガムレイに会うことが必要だ」という情報を持っているNPCがいないのだ。そのため、シナリオ中に明記されていないにも関わらず、プレイヤーは自分の知識から、なんら情報を提示されることのない「ギルドの幹部に会う」という選択肢にたどり着く必要があるのである。
 ちなみに、なぜ他のNPCがガムレイの存在を示唆してくれないのか、その理由はまったく不明である(幹部は別に隠れているとか居場所を秘密にしているというわけではないので)。