タイトル以外全部間違い?

 前からよく人と「ダヴィンチ電子版の記事は酷いねえ」と話していたのだけれど、なんとなくツッコんだら負けかなと思って黙っていた。しかしTRPGをネタにされたとあっては、もう負けてもいいからツッコむしかあるまい。


まさかのブーム!? ニコニコ動画で盛り上がるTRPG動画


 決して長くはない記事なのに、徹頭徹尾ツッコミどころだらけ。タイトル以外ほぼ合ってるところがないというのが、逆の意味でスゴい。思いつく限り列挙してみる。


・TRPG関連書籍の売り上げって今も昔も公式に発表されたことはないんだけど、ニャル子アニメ化後に発刊されたクトゥルフTRPG関連の書籍はまだ10点もない。そんなに爆発的に売れてるならもっと発刊しててもおかしくないのでは? それにアークライトの最近の行動見てると、ブームと言われるほど売り上げが増えてるとは思えない。ロールアンドロールでクトゥルフ扱ってるページ数も全然増えてはいない。


・TRPGのリプレイが「クリアされたゲームの一部始終を記録したもの」!? TRPGのシナリオを「クリア」するって表現、普通使わないと思うんだけど。専門誌でも見たことない。


・TRPGで有名なタイトルが「クトゥルフ」と「パラノイア」というところで我慢し切れず吹き出した。それはニコ動だけの話。そもそもパラノイアのルールブックがどこで売ってるのか、このライターさん知ってるんだろうか?*1 安田センセー! この人ソードワールドのこと無視してますよ!


・「数年前まで冬の時代と呼ばれていた」ってこれも斬新だなおい……井上さんがBBのルールブックで日本最後のTRPG発言をしたのが1999年、安田センセーがJGCでTRPG復活宣言をしたのが2003年。もう10年も前の話だ。どこの誰が数年前がTRPG冬の時代だって言ったんだろう。*2この言葉、もちろん正式に定義づけされたことはないんだけど、一般的には(前に別のエントリでも書いたが)TRPG関連書籍の発刊点数が突如激減し、雑誌が次々と休刊した1998年くらいを指すのが妥当だと思う。


・「TRPGリプレイ動画とはあらかじめプレイしたゲームの内容を編集してドラマのように仕立て上げた動画作品」? 「面白いプレイ結果を公開するために作られた」? 私がニコニコ動画に頻繁に出入りしていてTRPGを趣味としていながら、なぜニコ動のTRPG関連動画を全然紹介しないのか、というのにも関係があるが、ニコ動のTRPGリプレイ動画のほとんどは「実プレイをしていない」つまり、製作者が一から考えた架空のリプレイであるケースの方が多いはず。*3東方やアイマスキャラを使用したもので、東方作品内でのお約束やアイマスキャラとしての性格付けが前提となっているものはほとんどそう。稀に「実際にプレイしたリプレイで、特定のプレイヤーに特定のキャラを当てはめている」作品も見るけど(人狼とか)、やっぱり原作作品のキャラとはキャラ付けが外れていることがほとんど(そりゃ普通のプレイヤーに運命操作しろとか常軌を逸した貧乏キャラをやれとか言っても不可能だからね)。


・あと、この人が挙げている3つのニコニコ動画のうち、小鳥さんのGM奮闘記、それとミクの歌の元ネタになったと思われるアイマスパラノイア動画(これらは卓ゲm@sterタグの再生数最上位動画)は、第1回がニャル子のアニメ化より遥か前に公開されている。つまりニャル子のアニメ化とこれらの製作には何の関係もないし、クトゥルフ神話に注目が集まることとクトゥルフ以外の卓ゲ動画のクォリティにも因果関係は見出せない。


・「レッドドラゴン」はTRPGではない。TRPGに造詣の深い作者の三田誠さん自身が、あえて公式ページで違う用語を使っている。レッドドラゴンはTRPGだというのは原作に当たっていない完全な勘違いである。


http://sai-zen-sen.jp/special/reddragon/

RPF――「Role Playing Fiction」とは、「最高のフィクション」を生み出すためのシステムです。参加者は全員が一線級のクリエイター。TRPG(Table-Talk Role Playing Game)の手法を用いてFiction Masterが企画したオリジナルシナリオの世界で、クリエイターたちはそれぞれが一人のキャラクターを演じ、一丸となって「最高のフィクション」を紡いでいきます。


・ネット上のリプレイ動画を元にTRPGをプレイすることをこの人は軽々しく勧めているが、さっきも述べた通り「卓ゲ動画は必ずしも実プレイに基づいているわけではなく、原作作品のお約束が持ち込まれていることもある」ことは承知しておく必要がある。*4動画をきっかけとしてTRPGに興味を持つことは決して悪いことではないし、新規プレイヤーが増えるのは大歓迎なのだが「TRPGがルールに従って裁定されることを知らない」とか「思い通りのタイミングで思い通りのダイス目が出ないから怒る」とかされても、他のプレイヤーは非常に困惑する。実際(信憑性はともかくとして)某所の掲示板では、動画を見てコンベンションにやってきたと思しきプレイヤーが周囲に迷惑を掛ける例が幾つも報告されている。


・というか、この記事の筆者、どう見てもニコ動以外でTRPG知らないしプレイしてもいないよね? TRPGをプレイした経験があれば、卓ゲ動画が実プレイに基づいているかどうかなんてすぐ分かるはずなんだけど。自分自身すらプレイしていないのにブームktkrとか言われても……。

追記

 やっぱりやったことなかったんだ。そりゃそうだよね(笑)。



「リプレイなんて金を出して買うようなものではない、動画でタダで見れるのだから」とかいう意見をネットで見かけたことがある。この筆者がTRPGにお金を使っているかどうかは知らないが、少なくともお金を使えば得られるはずの情報をほとんど持っていないのは確かだ。この記事は「TRPGをプレイしたことのない人がニコ動の卓ゲ動画だけを見た場合、どういう勘違いをしやすいか」をわかりやすく表していると思う。
 で、私が卓ゲ動画を紹介しない理由もそこにある。どういうことかというと、原作動画としては面白くても、TRPGのリプレイとしては望ましくないというケースがままあるのだ。プロが書いたリプレイにはTRPGをプレイする上で役に立つ、あるいは必要なテクニックがふんだんに使われているが、卓ゲ動画でそれを表現できているものはほとんどない。また、作品によってはルールをほとんど無視していたり、都合のいい部分しか使っていない作品もある。しかしそれは、動画としての面白さとは別次元の問題なのだ。
 リプレイとしての面白さの核を原作の面白さに拠っている場合、それはあくまでも原作作品として面白いのであって、リプレイとして面白いとは言えないのでは? という疑問を私は抱いている。TRPGに思い入れがあるからなおさらそう感じるのかもしれないが。

*1:そもそも日本語版は未発売。有志が日本語に翻訳したものはある。

*2:もしかして元○○○副編の某とかですかね!

*3:実際、卓ゲ動画を見ると現在ルールブックが絶版で入手が非常に困難だったり、雑誌などでのサポートが遥か昔に終了しているゲームを使用したものがしばしば見受けられる。ワースブレイドゲイシャガールズウィズカタナとか、今は恐らく中古TRPGを取り扱う極々一部の店舗、あるいはネット通販などを用いないと入手不可能なはずだ。

*4:私が卓ゲ動画を紹介するのを諦めたきっかけとなったとある動画では「原作のキャラ付けがそうだから」という理由でプレイヤーの1人を完全に卓からハブるという展開になり、是非を巡って大論争に発展した。