闇の騎士、還る


ダークナイト ライジング Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

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 表題はトーキョーN◎VASSSのタイトルなんだけど、今日はその話ではなくて映画「ダークナイト」と「ダークナイトライジング」の話。友人がダークナイトを観たというので話した内容をちょっとまとめてみる。


(この先、ストーリーの結末についてのネタバレあり)












 ダークナイトを観た最初の感想は「すごい映画だ」というものだった。「すごい」けど「好きではない」。正直、あんまり気分が悪くなって途中で一回退席する派目になったくらいだ。映像技術、俳優の演技、どれもすごいけど、見ててカタルシスは全然ない。私が常日頃いう「バッドエンドは星2つ減」はTRPG → ゲーム → その他の順に許容度が増すので、映画でバッドエンドならTRPGとかよりは「まだマシ」なのだが、それにしてもダークナイトのストーリーは、「ヴァージン・スーサイズ」と観たときと同じくらい無常感に襲われた。出来がいいだけに、「なんで!?」という思いも強かった。
 だって、あの結末はどう考えても「ジョーカーが勝った」としか思えない。彼のプランは破れても、結局デントはトゥーフェイスになり、バットマンは街を追われる。レイチェルは命を落とし、ジョーカーは生き延びる。

 同じアメコミで「悪役(ここではあえてヴィランとは言わないでおく)が最後に勝つ」というと、前にエントリで書いた「X−MENファーストジェネレーション」とか「ウォッチメン」とかも思いつくけど、ウォッチメンは「悪役(オジマンディアス)が自分の命を犠牲にして目的を達した」(そもそもこの作品は、ロールシャッハとオジマンディアスのどっちが「悪」か判断しづらいが)、ファーストジェネレーションは「全てがあるべき場所に納まった」というエンディングなのでカタルシスはある。ダークナイトのエンディングはそれらとはまったく違うものだった。

 で、最新作の「ダークナイトライジング」を見た私の第一印象は「いや、これダークナイトでやれよ!」というものだった。ダークナイトライジングは前作とは逆で、プロットのあちこちに粗が目立つけど全体として見るとカタルシスはある。バットマンはついに「ヒーロー」としての呪縛を逃れ自分の幸せを手にし、後継者たるロビンも登場する。ヴィランの企みは挫かれ、ゴッサムは一時とはいえ安息を手に入れる。これこそダークナイトに必要なエンディングだったはずだ。
 それだけに、ライジングのプロットの穴は残念だ。代表的なのが、ブルースが奈落から這いあがってからゴッサムに戻ってくるまでの描写がないところ。「散々戻ってこれないって言ってたじゃん! ご都合主義の少年漫画みたいに、描写したいシーンだけ設定してあとテキトーにやってるだろ!」と言いたくなる。他にも伏線の足りてないところがいくつもあり、脚本の「完成度」でいえば、ダークナイトの足元にも及ばない。そこがライジングの評価が二分される理由だと思う。
 それでも私は「どちらが好きか?」と言われればライジングに軍配を上げる。特にラスト、ジョン・ブレイクの正体が明らかになるシーンはぐっときた。ダークナイトでブルースが選んだ道を生かしつつ、未来に希望を持てるエンディングにするという難題に、一番エレガントな回答を出したと思う。バットマンは何のために戦ってきたか? そう、このためだよ! と言いたい。
 だからこそ、名作と呼ばれた前作にこそ、このエンディングが必要だった、と思う。これは、演じていたヒース・レジャーが亡くなったという不幸も無関係ではないとはいえ、今回のベインは迫力ではジョーカーに遥かに劣っていた。「もう一人の悪役」も、本来であれば登場しているはずのビギンズでその存在さえ匂わされていなかったため「今更そんなこと言われても」という気分になるし、ジョーカーが出せないための苦肉の作だととられても仕方がない。 
 本来であれば、双方のプロットを合わせて一つの作品にできれば理想だったのだろう。ライジングはダークナイトの辻褄あわせをさせられたとも言える。ライジングと合わせて考えればダークナイトの評価も上がるし、ダークナイトのあのラストに繋げざるを得なかったと考えれば、ライジングに無理な部分があるのも仕方がないという気分になる。


 ダークナイトダークナイトライジングはそのタイトルが示すとおり、一枚のコインの表と裏だ。二作を連続して見るとバットマンの抱えていた闇が一応の解決をみる。それは決して手放しの平和でも安穏たる救済でもないけれど、「未来に希望が繋がれた」ところで終わるというのはアメコミ作品のエンディングに非常に相応しいと私は思う。