二日連続で毒を吐く


 依頼を断るのに相応の理由があるならともかく、GMのスタイルや力量を図るため(=依頼内容の正当性に無関係)なんて理由でシナリオの導入を断られたら、そりゃGMは怒って当然だ。
 ってか、これを読むと「GMは依頼を断られても上手く捌けなければ力量がないと見なされる」ってことか? 冗談じゃない。GMだって楽しむためにそこにいるんだ。プレイヤーに力量を図られたくてそこにいるんじゃねえ。



 プレイヤーには依頼を断る自由があるかもしれないが、GMには二つ目の導入を用意する義務はない。上から目線の我儘を通すなら自分の行動に責任ぐらい持て。責任が持てないならやるな。

依頼を受けにくい、という状況は、GMが説明不足や準備不足でPCのモチベーションにフィットしてないのか、あるいはドラマとして故意に受けないという選択肢を用意してるのか、あるいはそもそもGM主導スタイルにしたいかじゃないかな。PLサイドからはそれを思い量る。
GM視点で受けてもらえないときは、ああ、PLはキャラ立てや行動目的の材料を欲してるんだな、もしくはGMとの距離感を探ってるんだな、と考える。


 これ、最初の話とは論点が違う。最初の話は「GMの力量を見るために断る」って話だったんだから。モチベーションがフィットするしないというのは基本的にゲーム内の話、GMの力量をどう見るかというのはゲーム外のメタ視点だ。
 逆にGMから見た時、常識的に考えれば「こいつのマスタリングがどれほどのものか知りたいから試しに依頼を断ってみよう」なんて人間とまともにコミュニケーションが取れるとはまず思わないだろう。

依頼は絶対に受けなければいけない?

 ちょっとクールダウンして、真面目な話をする。GMが提示した依頼に、プレイヤーは必ず乗らなければならないか?
 これは、実はどのゲームをやっているか、どんな状況かによって変わってくる。


 ああ、もちろん「GMの力量やスタイルを図るためにわざと依頼を断る」なんてのはプレイヤーの態度として論外だ。


 まず、大きく分けて「ハンドアウトとアクトトレーラーが存在するゲームか否か」だ。


 もし、ハンドアウトが存在するゲームで、ハンドアウトに依頼を受けることが明記されている場合、原則として依頼を断ることはできない。ハンドアウトに従うことはルールに明記されている。ハンドアウトに受けると書かれている依頼を断ることは、ダメージ3Dの武器でダイス6個振ろうとするのと同じ次元の話である。
 ただし、GMが認めるなら「結果的に依頼を受けることになることを前提として」いったん依頼を断るなどの「演出」はありだろう。
 また、ハンドアウトに書かれていなくてもアクトトレーラーに依頼を受けることが前提の予告が記されていた場合、GMは依頼を受けることが前提のシナリオを組んでいると表明していることになる。

 これにどのようなメリットがあるかというと、GMとの認識のすり合わせができるのだ。
 例えば、プレイ環境によって成功報酬や依頼の条件などに相違があった場合「GMはこの依頼を受けさせたいのか、それともわざと断らせたいのか、あるいはどちらでもいいのか」が見えにくいケースがあり得る。そんな時、ハンドアウトに依頼を受けると明記しておけば、これは受けることが前提で話が進むのだな=そこで迷うことは時間の浪費になる、とプレイヤーに知らしめることができ、無用の腹の探り合いなどをしなくて済む。
 逆に言えば、GMは「受けないと話が進まない依頼のオファー」についてはハンドアウトに明記すべきである。ハンドアウトに書かれていないことについては、プレイヤーは「事前に打診されていない事柄」として受け取るため、プレイスタイルなどによって如何様にでも動く可能性がある。
 ここで自作シナリオのハンドアウトを書くコツの一つとして「依頼を受けた時にPCがどう思ったか、どう感じたか」は書かないというものがある。実は、ハンドアウトにPCの「感情」まで書かれると「押し付けられた」と圧迫感を覚えるプレイヤーが多い。ハンドアウトには事実のみを簡潔に書き、心の動きや修辞的な表現は最小限にとどめるべきだ(公式シナリオやリプレイの多くはそうなっているはずである)。


 例を挙げよう。トーキョーNOVA「アウターエッジ」の扉小説だ(稲葉さんごめんなさい)。
 元情報屋で今は身を持ち崩したロートルが、なけなしのゴールドで娘一家の仇を討ってほしいと依頼してきたとする。この依頼を受けなければカルニセリア兄弟に絡むシナリオの本筋に辿りつけないのであれば「君は依頼を受けることにした」とハンドアウトに書くべきだ。なぜなら、今のNOVAではゴールド1枚では「手付けにもなりゃしねえ」からである。これは、依頼人が「目に一杯の涙を貯めた小さい女の子」で報酬が「ブタさんの貯金箱」であっても同じである。
 それがハンドアウトに明記されていれば、たとえ「手付けにもなりゃしねえ」額が報酬だとしても、プレイヤーが依頼を断ることはできない。「オレのキャストはキーがレッガーだからこんな依頼は受けないよ」は、ハンドアウトを選んだ以上許されない。
 ただし、ここでハンドアウトに「仕方なく受けることにした」とか「思わず同情して引き受けてしまった」まで書くのは適切ではない。「受ける」という結果が重要で、そこに至る演出はキャストごとに違ってよいはずだからだ。もしかしたらキーがレッガーのキャストは「このジジイからもっと搾り取れそうだ」と思ったのかもしれないし「ジジイはどうでもいいがカルニセリア兄弟が目障り」なのかもしれない。キーがフェイトのキャストでも「爺さんが可哀想」と思ったのか「娘一家の死の真相を解明したい」と思ったのか「かつて情報屋に世話になったことがあり、恩を返したい」と思っているのか、そこはプレイヤーが自由に演出してよい範囲だろう。ハンドアウトには自由度がないという人がたまにいるが、決められているのは結果だけで、途中経過は自由だ(だからこそ、その途中についての想像力を縛るような書き方はするべきではないのだ)。


 アクトトレーラーとハンドアウトがあるならこれらで認識のすり合わせができるため「依頼をわざと断って相手の力量やスタイルを図る」なんて行為は百害あって一利もないと言える。


 では、アクトトレーラーやハンドアウトがないゲームの場合は……?(以下次号)