それは必要から生まれた

RPGでよくある昔の方が文明が発達してたって設定(リンク切れ)


 前の方でソードワールドに触れている人がいるけど、なかなか鋭い視点だと思う。

 初期のフォーセリア世界(ソードワールドの背景世界)は本当によく考えて作られていた。なぜ古代文明の設定があるかというと、それは「世界のあちこちにダンジョンが存在する理由付けのため」だった。


 TRPGの元祖、クラシックダンジョンズアンドドラゴンズの背景世界「ミスタラ」やアドバンスドダンジョンズアンドドラゴンズの「グレイホーク」、あるいは日本最初のRPGであるローズトゥロードの「ユルセルーム」には、いわゆる古代文明のようなものはない(あるいは、あってもほとんど冒険者には関わらない)。ルーンクエストの「グローランサ」には神知者とグバージ(だったかな?)という古代文明らしきものが発達した設定があるが、そもそも現存する「ルナー帝国」が文明の象徴なのでわざわざ登場することはほとんどなかった。

 フォーセリアは私が知る限り、「古代文明」が基本的な世界設定に組み込まれる形で存在した最初のゲームだった。

 冒険者がダンジョンに潜る。これは初代CD&Dから連綿と続く物語の図式であり、プレイヤーたちには周知の光景だ。しかし、そこには「そのダンジョンを作ったのは誰で、なぜわざわざそんなものを作ったのか?」という当然の疑問が生じる。
 まずCD&Dでいうと、ダンジョンを作るのは「高レベルになった冒険者」であり、なぜダンジョンを作るかといえば「溜め込んだ財宝を守るため」だった。そのために、D&Dではレベル9以上の冒険者が城や塔を建てて使用人を雇うルールが存在した。*1しかし、そこで「勇者30」みたいなキャンペーンシナリオをプレイするのは難しい。自分より遥かにレベルの低い財宝目当ての冒険者を迷宮に引きずり込んで捻り潰し、カタルシスを感じさせる、というシナリオはなかなか作れない。そのため、この路線を引き継いだゲームはほとんどない。
 ソードワールドではレベル1から最高レベルの10まで、冒険者冒険者であってその立場は変わらない。冒険者は高レベルになってもダンジョンを作ってその奥に引き篭もったりしない。とすると、ダンジョンは誰が作ったのか? その答えが「昔の誰かが作った」だったのだ。
 なぜ「今の誰かが作った」ではないかというと「強大なモンスターが人為的な形でダンジョンの奥に存在するのに、それらをコントロールする術が今は存在しない」という状況を作るためでもある。実際、ソードワールドではモンスター一覧に掲載されているモンスターを作ったり操ったりする能力は、ドラゴントゥースウォーリアなどの例外を除けばほとんど存在しない。
 財宝も同じだ。特にマジックアイテムについては、CD&Dの場合PCがマジックアイテムを作ることが想定されているのに(それを前提とした「神への道」がある)、ソードワールドではマジックアイテムをPCが作ることはできない。これも「既に失われた技術だから」ということで説明がつく。これが今も受け継がれる技術なら「PCがマジックアイテムを作って売り払って大儲け」できることになるし「どうして一般社会にマジックアイテムが広まっていないのか」という疑問に答えられない。

 PCに立ちはだかる障害としての迷宮。そしてそこに存在するモンスター。PCたちが手に入れるプライズとしてのマジックアイテムの希少性。これらに矛盾なく説得力のある理由付けをするための設定が「かつてこの世界には強大な文明が存在したが、今は失われた。彼らの築いた都市は遺跡となり、使役した使い魔がモンスターとなった。彼らは遺産として強力なマジックアイテムを遺した」という「古代文明の設定」だった。*2

 この「フォーセリア古代文明」の設定は、必ずしも「ゲーム上の現代より科学技術の進んだ文明」を意味するわけではないのだが、「滅びた古代文明」という設定を使うと「ファンタジー的な世界に、逸脱した科学技術の産物(飛空艇やら銃やら)」を登場させるのに非常に便利である。製作者たちがフォーセリアの存在を知っていたかどうかは判らないが、古代文明の設定はコンピュータRPGでも珍しいものではなくなった。
 そして、ソードワールドも2になって、マギテックと呼ばれる科学技術が「古代文明の遺産」として伝わるという設定になった。いわば、コンピュータRPGで一般的になった設定が逆輸入されたのだ。


ソード・ワールド2.0 ルールブックI 改訂版 (富士見ドラゴンブック)

ソード・ワールド2.0 ルールブックI 改訂版 (富士見ドラゴンブック)

*1:レベル9になると、放浪の冒険者を続けるか、領地経営をするか、どちらかの道を選べる。

*2:また、フォーセリアではもう一つ、冒険者が地下迷宮(というより、古代文明の遺跡)に探索に向かう動機付けとして「世界に迫る危機、アトンを滅ぼすためのファーラムの魔剣を探す」という秀逸な設定が用意されていたのだが、まぁこれはツッこむとリウイへの恨み言になってしまうのでここでは省く。