ドラゴンへの道(後編)

 さて、昨日のエントリではDQXで21体のボスと戦った経緯を書いたけれども、ではなぜそもそも、そこまでしてストーリーを進めたかったかということについてははっきりとは書かなかった。


 一言で言えば、飛竜に乗りたかったからだ。


 実は、バージョンアップで飛竜が実装されたと聞いても、私は最初特に気にしてはいなかった。というのも、事前情報で「飛竜は“レンダーシア上空”というエリアでしか乗れない」と聞いていたからだ。レンダーシアというのは今のストーリーの舞台となっている大陸である。
 以前、バージョン1の頃にも「破邪舟」という乗り物が登場した。これはストーリーの進行上、ある場所からある場所を繋ぐ乗り物であり、いわば渡し舟のようなもので、自由に操作はできなかった。だから飛竜もきっと、ストーリー上どこかのダンジョンに行くためだけの存在なのではないかと勝手に思っていたのだ。実際フィールドを歩いていても、キラーパンサーやモーモンブランコ、魔法の絨毯は見かけるが、飛竜に乗っている人を見かけることはなかった。


 ところが、これは私の完全な誤解だった。


 ある時、既に飛竜に乗ることのできるフレンドとレンダーシアで待ち合わせをしたところ、彼女は遥か遠くの場所にいて、しかもルーラストーンを持っていないと言っていたにも関わらず、あっという間に私の目の前に現れた。
「なんでこんなに早く来れたの?」
「飛竜で来たんだよ」
 彼女はそう言って胸を張った(ように見えた)。
「飛竜ってレンダーシア上空ってところじゃないと使えないんじゃないの?」
「そうだよ?」
 お互いの頭上にハテナマークを浮かべること数十秒。
「飛竜って、真レンダーシア大陸ならどこでも呼び出せてどこにでも降りられるんだけど……知らなかった?」


 ──知らなかった! そういう乗り物だったのか! 道理でフィールドをいくら歩いていても見かけないわけだ!
 そして、実際に使ってみるとこれは素晴らしい乗り物、いやアイデアだ。DQXの中でもサポート仲間に次いで秀逸なアイデアだと思う。


*1


 夜に撮ったスクリーンショットなので周囲が暗いが、レンダーシア大陸を上空から鳥瞰図的に俯瞰しているのがわかると思う。いわゆるバードビューだ。ちなみに、全体マップは以下のとおりである。


http://ドラクエ10.jp/dq10_map_tl.html


 この大陸マップのどこからでも飛竜を呼べば上空マップに遷移し、好きなところに降りられるのだ。飛竜の操作方法はフライトシミュレーターに似ており、上で下降、下で上昇、左右で旋回する。この「操作方法が通常と違う」点も、特別な乗り物に乗ってる実感がしていい。


 このところ、FF11でもDQXでも、そしてたぶんFF14でも、いや、ほとんどのMMORPGで「便利だから」という理由からあちこちへのショートカット、ワープが実装されている。しかし、私はこのワープが好きではない。なぜなら、ワープでは「途中で誰かと出会う、コミュニケーションする」という可能性がゼロになるからだ。
 もちろん、えっちらおっちら歩かせるのが正しいとは言わないし、今はもうそういう時代ではない。だが、だからといって目的地まで瞬時に移動するのが全ての場合において必ず正しいとは、どうしても思いたくなかった。それは、失われた過去のロマンに過ぎないのかもしれないが……。


 そんなもやもやした気分を飛竜は吹き飛ばしてくれる。飛竜がいるレンダーシア上空はレイヤーエリアではなく、他のプレイヤーも行き来する。飛竜を取ったばかりで嬉しいPCもまだ多いのか、私が上のスクリーンショットを撮っている間にも何人かのプレイヤーが通りすがり、挨拶をしていった。
 コミュニケーションの要素をなくすことなく、目的地までの所要時間を減らす。しかもこのバードビュー視界は、今まで地面をはいつくばって歩いていた光景を上から見下ろすことができて、実に爽快だ。なお、スクリーンショット右下の村、左下の畑、右上の火山、全てちゃんとフィールドマップが存在する。
 「今まで自分が歩いていたところは、実はこうなっていたのか!」見慣れたマップもこの角度から見ると新たな発見がある。そして、今も入れない場所についても「ほー、この先こんな場所があるのか」とワクワクできる。私のように単純なライトプレイヤーは、ただ飛んでいるだけでしばし時間を忘れるほど楽しい。この「ストーリーを進めると今までとは違う乗り物に乗ることができ、世界を別の形で見れる」というのは、普通のコンピュータRPGの醍醐味であり、基本の面白さに忠実だともいえる。
 一度ヴァナディールもこんな風に自由に上空から見下ろしてみたかった。もしFF11のアドゥリンで飛空挺が自分で操作できるようになっていたなら、きっと自分は引退しなかっただろうな。そんな取り止めもない夢想すらしてしまった。


 飛竜の素晴らしさに比べれば些細なことだがいくつかの要望がある。一つは、既存の他のエリアでも飛竜を呼べるようにしてほしい。特に、初期エリアである五大陸だ。五大陸は、それぞれの種族の出身地と最終目的地までのルートを中心にした初期実装されたエリアで、五つの大陸は鉄道でしか繋がっておらず、陸路で行き来できない。そのために、土地と土地が繋がっている実感がなく、大陸全体への愛着が湧きにくい。飛竜で上から見下ろせるようになれば、単に移動の所要時間が減るというだけでなく、プレイヤーが大陸全体を空間的に把握することができるようになり、愛着も増すのではないかと思うのだが。
 もう一つ。これだけ便利なアイテムで、使える人間が頻繁に呼び出しているにも関わらず、上空を行き来するプレイヤーが少ないのは、やはりストーリークエストのボス戦の難易度が高いからではないだろうか。FF11のトゥー・リアやアル・タユ、あるいはそれ以上にハードルが高い。ある程度の難易度がないとカタルシスも感じられないと思うが、この素晴らしさを沢山のプレイヤーで共有できないのは残念だ。レベルキャップが85に上がって職業も二つ増えるとのことなので、そうなればもう少し難易度も下がるかもしれないが、もうちょっとハードルが低くてもよいのではないかという気がする。

*1:なお、スクリーンショットで翼を振り上げた瞬間を写しているのは、自キャラを見せないためです。実際には飛竜の背中に自キャラが跨っています。