ギア・アンティーク
私がこのゲームに触れたのは、ソードワールドよりずっと後のことである。なので、ソードワールドの後に書くのが本当なのだろうが、前にも書いたとおりソードワールドに悪戦苦闘しているため、先にこちらを書くことにした。
伏見氏がデザインしたブルーフォレスト物語、そしてギア・アンティーク。どちらのゲームも当時は画期的なゲームだった。
- 作者: 伏見健二
- 出版社/メーカー: グランペール
- 発売日: 2008/08
- メディア: おもちゃ&ホビー
- 購入: 2人 クリック: 45回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
まずブルーフォレスト物語。当時TRPGで東洋といえば、AD&DのオリエンタルアドベンチャーやRQの“悪名高き”ランド・オブ・ニンジャ*1、そしてファイティング・ファンタジーのサムライの剣のように「外国人が考えるエセ日本+中国」っぽいゲームしかなかった。
当時デザイナーはブルーフォレストの世界観を「お米が食べれるファンタジー」と表現していたが、このゲームは“東南アジアっぽいどこか”を感じさせ、コレジャナイ感を払拭しつつも、西洋的なファンタジーとはどこか違った東洋的な雰囲気を醸し出す、画期的な世界観を持っていた。
そして、ギア・アンティーク。こちらはスチームパンクRPGだ。
ドラマCD ギア・アンティーク ?ルネッサンス? 紅玉の少女
- アーティスト: ドラマCD
- 出版社/メーカー: アーツジャム
- メディア: CD
- この商品を含むブログを見る
まず、スチームパンクというジャンルそのものがTRPGにおいては珍しい。今に至るも、ギア・アンティークを除けばキャッスル・フォルケンシュタインとテラ・ザ・ガンスリンガーくらいしか存在しないのではないだろうか?(同人誌としてなら他にもある) 時代設定的にはクトゥルフも近いが、クトゥルフはスチームパンクにつきものの「蒸気機関で動く、よくわからない機械」の出番はほぼまったくなく、パンクはともかくスチームの要素はないといえる。
ギア・アンティークの良かったところは、当時他に類を見ない世界設定を持つタイトルでありながら、プレイヤーに説明を求められた時「ラピュタみたいなのができるゲーム」と一言言えばほぼ説明ができてしまうところだ。厳密にはラピュタがスチームパンクに当てはまるかどうか微妙ではあるが……(今だとむしろ大友監督の「スチームボーイ」を挙げるべきかも)。
ギア・アンティーク自体、「わけのわからない機械」は登場するが、それそのものを発明したり製作したりするルールが追加されたのは最後の方(追加ルールセット2)であり、むしろ幸運の風に身を任せるのがルールの肝であるあたり、スチームパンクの忠実な再現というよりはラピュタ的なものの再現のほうに重きを置いているように見えた。
閑話
余談だが、ギア・アンティークの舞台となるマキロニー地方は、ブルーフォレストの舞台であるシュリーウェバ地方と同じ星の上にあり、タイトルを横断して巨大な一つの世界を形作っている。この設定は、商業展開されたTRPGでありながら中二病的大風呂敷を展張しているという意味で、菊池たけし氏の多元宇宙設定と双璧だった。*2
当時公開されていた情報では、マキロニーやシュリーウェバの存在する惑星には十二人の神々がいるとされていた。法王ダーマチャキが守護するマキロニー。森王ナウマニカが守護するシュリーウェバ。地方1つにつき1タイトルだとすれば、惑星全体をフォローするために12タイトル製作しないといけないことになる。
ただ、あの頃順当に2タイトルリリースしていた伏見氏と、最初の1タイトルであるセブンフォートレスですら悪戦苦闘し、後続作品が出る兆しもなかった菊池氏を比べると、どちらかといえば伏見氏の方が風呂敷を畳み得るのではないかと思ったものだ。
それがまさか15年後にこんな状況*3になろうとは……。
閑話休題
さて、私自身はブルーフォレスト物語は数回しか遊んだ記憶がないが、ギア・アンティークは何回も遊んだ。うち数回、今のプレイグループでのセッションはマキロニーを舞台にしたものだったが、その前のプレイグループで遊んだセッションは公式設定をガン無視したセッションだった。*4
そもそも、何故ギア・アンティークを選んだかといえば、スチームパンクが好きだったからではない。自分たちで作ったオリジナルファンタジー世界の、年表の「先」を遊んでみたかったからだ。
あの頃、TRPGの舞台となる世界は「ファンタジー」であるか「スペースオペラorSF」であるかどちらかが多かった。それこそクトゥルフやルール・ザ・ワールド、東京モンスターバスターズといったいくつかの例外はあったものの、今では巷に溢れる「魔法やモンスターが存在する現代っぽい世界」などというタイトルは、あの時代にはほとんどなかった。*5
私や私の仲間たちは「何千年たっても中世のまま進歩しない」世界など御免だったけれど、中世から時計の針を進めようにも、対応してくれるシステムがない。その点、ギア・アンティークはスチームパンクでありながら、サプリの「アートアルケミー」を導入すると魔法も使えるようになるファンタジー的な要素を持ち、ちょうど好都合な世界に思えた。
しかし……初心者にもわかりやすく間口の広いギア・アンティークは、飽きられるのも早かった。何しろ戦闘に限っても、持っている銃器の種類以外ろくにデータに影響を与えない。
魔法のルールがバリエーションをもたらしてくれるかと思いきや、このルールはワースブレイドにおける操兵ルールと同様、魔術師のプレイヤー以外にはまったく楽しめないルールだった。魔術師が「“我伏して願う”だと成功率が何パーセントで……」とかカウントし始めた時点で、他のプレイヤーは「じゃ、漫画でも読むか」というモードになってしまう。
仕方なく魔法ルールだけブルーフォレストのルールを移植してみたりいろいろ試してはみたものの、結局しっくりこず、私たちは次のゲーム、GURPSに手を出すこととなったのである。
*1:言うまでもなく、回収騒ぎを起こしたゲームだからだ。
*2:あくまでも日本においての話。アレクラストもこれに近いかもしれない。井上純一氏のユグドラシル多元宇宙が商業ベースで発表されたのはアルシャードが初出であり、この時点ではまだ存在しない。
*3:菊池たけし氏の主八界はS=Fのサプリやナイトウィザードとしてすべて作品になっている。伏見氏は自費出版(?)のドラゴンシェルも含め、今のところ3つしか公開されていないし、今後増えることもないだろう。
*4:公式設定を使わなかった理由の一つは、ヴェルン卿が嫌いだったから。
*5:巷に溢れるとは言ったものの、ほとんどは「地球にファンタジー要素がやってくる」シャドウラン的な世界であり、「ファンタジー世界の文明が進歩して現代風になる」という世界観を持ち、TRPG化されているものとなると限られる。代表的なものだと「神曲奏界ポリフォニカ」など。