ここまで言っといて

エンタメの未来が危ない!作家・有川浩が決意の緊急提言「新刊本を買う意味」


 この人本当に、古本屋やレンタル本屋や図書館のせいで本屋が寂れてるって思ってるんだろうか。あるいは違法ダウンロードのせい?
 まさかね。わざわざ「リアル書店」ってつけてるんだから、本当に念頭に置いてるのは「リアルじゃない本屋」つまりアマゾンのはずだ。なぜ本文中で一言も触れられていないんだろうか。大人の事情ってヤツかな?


 実は、私がこの記事を読んで一番驚いたのは、コロボックル物語の新刊が「既に出ていた」ことだ。
 私はリアル書店に足を運ばないタイプではない。アマゾン常連の友人に笑われるくらいには──つまり、平均して週1回程度は書店を巡っている。そして本を買うときは古本ではなく、新刊を購入している。そんな私でも、店頭の新刊のスペースにコロボックル物語が並んでいるのは一度も見たことがなかった。これは読者である私の怠慢なんだろうか?
 コロボックルシリーズは子供向けの本だ。もし児童書のコーナーに置かれていたのなら私が見かけることはないだろう。逆に言えば、売る側としても「昔コロボックル物語を読んでいた、かつて子供だった大人たち」である私のような人間は最初からマーケットの対象外だったということになる。そうでなく普通に大人向けの本として売っていたのなら新刊のコーナーに置かなかった書店側の問題だが、とりあえず私が普段回っている本屋の数は一軒や二軒ではないとだけ言っておこう。


 そしてもう一つ付け加えるなら、この記事を読んでコロボックル物語の新刊の存在を知り(私の知っているリアル書店にないとわかった以上)アマゾンで購入しようか逡巡した挙句、やはり辞めることにした。「佐藤さとるさんが書いたものでなければコロボックル物語ではない!」などと頑迷なことを言うつもりは毛頭ないが、図書館戦争といい、今回のコロボックル物語の新刊といい、作者のイデオロギーが押し付けがましいほど感じられるあらすじで、私には重過ぎる。佐藤さとるさんが個人的にどんな人だったかは知らないが、そのイデオロギーを文面から意識したことはない。私にとってのコロボックル物語とは、そういった「思想」を越えていった先にある、「無色ではないが透明」な世界だった。
 もちろん、これは私個人の見解で、人に共感してもらおうとは思わない。ただ、上の記事のような意見の発露を、自分のオリジナル作品である、例えば図書館戦争でやるのなら自由だが、人から借りたタイトルでそれをするのはどうなんだろうと思う。少なくとも私は、少年時代の思い出とともにあるコロボックル物語の新刊にまつわる記事で「作者の印税が10%」なんて話を目にしたくはなかった。それだけだ。