チェイスルールの話

 上のエントリの続きの話。機会があったらと書いたものの、時間を空けると忘れそうなので……。なお、主にNOVAの話であり、他のゲームに応用するのは……結構きついかも。


 チェイスの話をする前に、まずチェイスの定義をしておこう。実は最新のNOVA・Xにも、チェイスの定義そのものは書かれていない。ルールブックの記載は「ヴィークル同士の競争や追いかけっこがチェイスである」となっているが、実はこれだと十分ではない。その後の「逃走」「追跡」「勝利の結果」「敗北の結果」から定義を逆算すると「逃走側が逃げ切ることで条件を達成し、追跡側が追いつくことで条件を達成できるものがチェイスである」となる。
 ここで違和感を覚える人も、中にはいるかもしれない。そう、先ほど挙げた「映画的なチェイスシーン」のうち、いくつかは明らかにこの条件から外れるのだ。
 例えばアイアンマン2終盤の、アイアンマンとウィップラッシュのドロイドの空中戦闘シーン。明らかに追いかけっこを演じているが、これはチェイスではない。なぜなら、逃走側(アイアンマン)の目的はドロイドの殲滅で、逃げ切っても条件を達成できない、むしろ悪化するからである。似たようなことは、アベンジャーズ2の冒頭シーンでも言える。ジープやバイクを駆使したチェイスシーンに見えるが、これはヒドラの秘密基地に乗り込む潜入シーンであり、基地そのものはもちろん動いていない。守備隊と追いかけっこを演じているが、アベンジャーズの目的は敵から逃げ切ることではない。
 マーベル以外の映画を挙げよう。スターウォーズ旧三部作最後で繰り広げられた「エンドアの戦い」。イウォーク族と帝国のスピーダーが入り混じったスピード感溢れるチェイスに見えるが、これもどちらも「逃げても目的を達成できない」。すなわち高速移動しているのは「敵の攻撃から逃れるため」であり、あれは「ヴィークルを使った戦闘の演出の一部」なのだ。ヴィークルが高速で移動しているだけではチェイスにはならないのである。

理由が必要なのは……

 こうして考えると、チェイスの場合、イニシアティブを握っているのは「逃走側」である。「追跡側」は「逃走側」とコンフリクトしていれば、逃げられれば追わざるを得ないのでそれほど問題ではない。逃げる側に「戦うのではなく、あえて逃げる」理由がないと、そもそもチェイスが成立しないのだ。
 再びスターウォーズの例を挙げよう。旧三部作「新たなる希望」のラスト。あれはチェイスシーンである。もちろん、逃走側がルークで、追跡側がダース・ベイダーだ。ルークは逃走を成功させ、デススターに魚雷を打ち込むのが目的。ベイダーの打倒が目的ではない。逆に、ベイダーはルークに追いつき、撃墜するのが目的ということになる。ここで、チェイスを成立させるために、いくつかの条件が設定されていることにお気づきだろうか。
 一つは「時間制限がある」こと。もう一つは「ベイダーは強大で、今のルークでは勝てない」ことだ。この条件が設定されていないとどうなるか。ルークは取って返してベイダーを撃墜し、その後で悠々とデススターを破壊しに行けばよい。
 これは、スターウォーズだからこうなる、わけではない。チェイスならどのような場面でも生じ得る。

キャストが逃げる場合

 まず、逃走側がキャストである場合。「戦うのではなく、あえて逃げる」理由にはどのようなものがあるだろう。
 戦うことができない状況である、というのは考えられる。例えばキャストが集合していないとか。ただしこれは、登場判定のあるNOVAではキツい。キャストの合流は簡単にできるはずだし、むしろRLがそれを許可しないならその理由が必要になる。
 あるいは、被保護者、もしくは重要なアイテムを運んでいるから、とか。しかしその場合も「クライマックスまでにそれらを安全な場所に移送する」条件を考えないと、クライマックスフェイズも同じ理由で戦闘ができない、ことになりかねない。
 例えば、キャスト側ではとても勝てない超強力なウォーカーを登場させ、特定のプログラムで弱体化することにし、そのプログラムを完成させるためにタタラの元に向かう途中、件のウォーカーが襲ってくる、なんていう筋書きもあるかもしれない。

ゲストが逃げる場合

 逆に、逃げる側がゲスト側である場合。これは「単独行動していた敵が仲間の元に逃げようとする」というのはいかにもあり得る話だ。ところが、今度は何が問題になるかというと、チェイスを成功させても、敵の合流を阻止するだけで、実際にはそこで戦闘になるだろう。すると目の前にいるのは「こっちを見て逃げようとしたのに失敗した敵」であり、脅威と感じるのが難しくなるのだ。そんな敵が実は強かったりすると「じゃあなんでそもそも逃げようとしたんだよ」という話になってしまう。
 その場では何らかの理由で本気を出せず、逃げるしかなかった、というのもあるかもしれない。ガンダム0083のガトーのような感じか。あるいは「逃げることによって事情が変化し、キャストたちにとって非常に不利な状況となるのを待つ」とか。


 逃走側、追跡側、双方の事情を考えてみたが、これらには共通点がある。「シナリオで動機付けを与えないといけない」のだ。これは、キャストでもゲストでも変わらない。シナリオで「戦闘ではなく、あえて逃げる」理由をあらかじめ用意していないと、アドリブ的な展開は厳しい。
 さらに、シナリオにチェイスを組み込むということはカゼがいないと辛くなるということでもあり、ハンドアウトに推奨:カゼを組み込むということでもある。これが戦闘なら、戦闘系スタイルを推奨に入れていなくてもクライマックスに戦闘を持ってくるのは十分あり得ることだ。


 要するに、チェイスをやりたければ、それ用のシナリオを作らないといけないということだ。言い方を変えれば、シナリオのスパイスとしてチェイスルールを生かすことができるなら、普段と違う面白いシナリオができるということでもある。

最後に補足

 トーキョーNOVA・Xのチェイスルールは、過去のそれより一歩引いた位置にある。独自のルールでなく、FS判定のヴァリアントの一つとして整理されたのがその証左だ。このエントリの冒頭で書いたとおり、ハリウッド的チェイスシーンを再現したいからといって、必ずしもチェイスルールを使う必要はない。ヴィークルを使った戦闘を、それっぽく演出できれば用は足りるのだ。この手法なら、シナリオにあらかじめチェイスシーンを組み込んでいなくてもカゼのキャストにスポットライトを当てられる。
 今回の記事がカゼの特集でありながら、特段チェイスルールに触れられていなかったのは、公式も戦闘でカゼを活躍させる方向に一歩踏み込んでいるから、ではないだろうか。