一昨日の続き

 一昨日書いたこのエントリについて、説明が足りなかったので、続きを。雑誌に寄稿するような影響力のあるサイトでなければ(そして広告サイトでなければ)目くじら立てるほどのことでもない気もするけど。


 まず「キャラクターシート」の定義から。大前提として、TRPGにおけるキャラクターシートとは「セッションにおいて使用するPC(プレイヤーキャラクター)に関する情報のうち、プレイヤー自身が管理すべき情報を記載したシート」となる。
 後段に違和感を覚えた人もいるかもしれないが、キャラクターシートに記載されているのはPCに関する情報の全てではない。「セッションにおいて使用するPCに関する情報」のうち「プレイヤーに管理が任されない情報」はGM自身が管理している。例えば、シナリオにおけるそのPCの立ち位置や、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)の反応などである。このことはルールブックに明記されていなくとも、キャラクターシートの存在そのものによって逆説的に定義されていると言ってよい。
 実は、小難しいことを言わなくても、こんな情景を想定すればよい。セッション中、GMが手を伸ばして、キャラクターシートの記載を勝手に書き換え始めるという状況を想像してみよう。TRPG経験のある方なら、それがどんなに異様に映るかわかると思う。
 
 GMは、セッションに関する裁量権を持っている。PCに関して、プレイヤーに任せたくない情報があるなら、キャラクターシートの記載を認めなければよいのだ。これは、ツールの先進性とは全く無関係の話である。「プレイヤーに任されているはずの情報が、GMによって一方的に勝手に書き換えられる」ことは、GMとプレイヤーの間の信頼関係にマイナスに働く。
 例えば「知らぬ間にアイテム欄にこっそり何かを忍ばせる」とは、つまり「そのことにプレイヤーが気づかなかった場合不利になる」裁定を想定しているということだ。「知らぬ間に呪いの魔剣を持たされていて、それによってPCが不利になる」とか、逆に「シナリオのキーアイテムをいつの間にか持たされていて、その存在に気づかないと戦いが不利になる」とか。
 この手の「プレイヤーとGMの騙し合い」的なプレイングは、TRPGにとって新しい可能性でもなんでもない、かつてシャドウランなどで流行したTRPG業界としては「昔通った道」である。それがなぜ今主流でないかといえば、これを実行し、GMとプレイヤーの信頼関係が失われると、セッションが物凄く停滞するということが経験から(それも、多くの不毛な経験から)明らかになったからだ。例でいえば、一回でもGMから不意打ちを食らったプレイヤーは、次はセッション中何があろうとキャラクターシート(が表示されているタブレット、か?)から目を離さなくなるはずだ。セッション中注意を払うべき情報は他にも色々あるにも関わらず、だ。
 また、このマスタリングの問題点は「一度でもそういった裁定を行ったGMは、プレイヤーの行動を制止する正当性を失う」という点にもある。不意打ちを食らわせたGMが、キャラクターシートを睨み続けるプレイヤーを注意しても説得力はないだろう。


 これは、後段の「不注意なプレイヤーに何か罰を与える」という記述にもかかってくる。セッションにおいては、プレイヤーの不注意に対してペナルティを与えるべきではない。理由は先ほどと同じ、プレイヤーが警戒し過ぎるとセッションが停滞するからである。そもそも、TRPGにおけるプレイヤーの不注意とPCの不注意は異なる。例えば、不注意でキャラクターシートのHP欄を書き損じたプレイヤーに対して、ペナルティとして戦闘で大ダメージを与えるべきだろうか? どう考えてもNOだろう。


 なお、セッション中に、意図的にセッションの進行を妨害したり、他のプレイヤーの迷惑になる行動を取ることは「不注意」ではない。「悪意」である。「悪意」にはペナルティを与えるべきだ。

紙とペンで再現可能か?

 さて、私は「やりたければ紙とペンで再現可能」と書いた。しかし、本当にできるのか? 私の考えた手法をここに記しておく。

 まず、セッション中、当該イベントが生じたところでおもむろにメモ用紙を取り出し、キャラクターシートに追記すべき情報(例えば「呪いの剣を入手した。手放すことはできない」など)を記入した上で、裏返してテーブルに置く。当然プレイヤーからは「これはなんだ?」と聞かれるだろうが、表にすることは許さない。で、その情報に関連するイベントが生じた時点でメモを表に返し、PCに対してそれを適用する。
 「騙し討ちじゃん! ツールを使うのと違うよ!」と言われるかもしれないが、この話、最新のツールを使おうが使うまいが「騙し討ち」の話である。一方的という意味では、キャラクターシートを無断で書き換えようが、開示できないメモを置こうが「アリバイ作り」に過ぎないという点では変わらないのだ。


 ちなみに本当のセッションで私ならどうするか聞かれたら、はっきりプレイヤーに対して「君は呪いの剣を手に入れた。手放すことはできない。そして、君のPCはそのことを自覚していない。その上で、演出は君の自由にしていいよ」と説明し、シートへの記載はプレイヤー自身にさせる。セッションは知恵比べではなく、プレイヤーに対してその情報を隠すことに意味を感じないからだ。
 前に書いたバッドエンドの話と同じだ。「面白ければプレイヤーは気持ちよく騙されてくれるはず」というのはGMの傲慢だ。自分が当事者となれば、よほど上手く騙さない限り、騙された方は不快である。TRPGの場合、GMとプレイヤーの情報量や裁量権には大きく差があるため、知恵比べを挑まれても一方的という印象が拭えない。「やられたやられたハッハッハ」と言ってくれるのは朝霧某の動画くらいだろう。

ツールの可能性

 と、ここまで書いただけだと、ツールが存在しても全く意味がないという話になってしまうので、電子ツールの利点も挙げておこう。

 まずは、ルールブックを電子書籍化することで、膨大な量のルールを持ち歩かなくて済む。これは前にも書いたとおりだ。

 次に、シナリオ固有の情報などについては、無理に電子ツールに対応しようとするとGMの負担が膨大になる可能性があるので、シナリオに拠らない部分、つまりルール共有の情報の電子化が考えられる。特に電子ツールの方が有用なのは「計算」だろう。紹介されているツールにあるとおり、キャラクター作成ツールは便利だ。キャラクター作成は計算を何度も行い、手間がかかるからだ。ただし、キャラクター作成はセッションの最初にだけ行うものなので、セッションの場に全員がツールを持ってくる必要があるかどうかは状況次第だ。
 また、FEARのゲームのように、特技を使用する際に複数の数値を参照して消費を決めたり効果を決めたりするのに、フリックだけで自動計算してくれるツールがあれば非常に便利だろう。特技や呪文の効果の視覚化、ワールドマップや装備のビジュアル化など、ゲームごとに共通で、セッションに固有でない情報ならば、イメージの共有化にかなり役立つ。
 実際にオンラインセッションなどで運用されているツールなどを見ると、キャラクターシートもさることながら、タクティカルコンバットに使うフィギュアやフロアタイルをデジタル化した方が役に立ちそうに思えるのだが……。