彼らも偉大だった


 ローズ・トゥ・ロードモンスターメーカーRPG、クトゥルフの呼び声RPGを持ち、遊んだことのある人が「ウィザードリィの武器や防具名を見てもどんなものかまったく分からなかった」と語るのを見て、ふと思い出したことが一つある。

 確かに、RPGというジャンルがまだ黎明期だった頃、RPGで使われる様々な用語の具体的なイメージが掴めなくて苦労した記憶はある。ただ、ウィザードリィでチェインメイルやプレートメイルが登場したからといって、それらがどんなものかわからなかったということは、私にはなかった。
 動画製作者との違いはどこにあったのか、自分でも色々考えてみたが、どうやら「D&Dに出会ったかどうか」が大きいのではないかという気がした。動画製作者はD&Dを紹介するにあたり、雑誌記事を見せているだけでパッケージを見せていない。クトゥルフローズ・トゥ・ロードはパッケージを見せているのに、だ。詳細は動画内で述べられていないが、D&Dはあまり遊んでいなかったのではないかと推察できるのだ。

 何故そんなことを言うかというと、実は当時D&Dの日本語版スタッフは、日本のユーザーがRPGに関する具体的なイメージを掴みかねていることを把握しており、D&Dビギナーズガイドやレスキューガイドといった、D&Dに登場する様々な事象を集めた日本独自のビジュアルガイドをいくつか発売していた。私はこれを読んでいたために、ウィザードリィの用語を見ても、イメージが湧かなかったのは「ガーブ・オブ・ローズ」や「ソード・オブ・カシナート」といったウィザードリィ独自のものだけだった。D&Dと共通するもの、つまり古いスタンダードなファンタジーRPGで使われる一般的なアイテムやモンスターについては、大体イメージがつかめていたのである。

 なお。ビジュアルイメージという点では、日本で一番売れたTRPG(自称)のソードワールド(旧版)はほとんど役に立たなかった。ルールブック関連書籍に、関連用語についてのイラストがほとんどなかったからである。文庫本なので仕方ないと言いたいところだが、ハードカバーの完全版にもワールドガイドにも、チェインメイルのイラスト一つ掲載されていなかった。
 端的に現れているのが同じアレクラストを舞台にしたロードス島戦記だ。元のルールに準拠するならパーンとディードリットとエトとギムは全員鋼鉄製のプレートメイルを着ているはずなのに、ディードリットの鎧はレザーアーマーか何かにしか見えないし、エトの見た目は鎧どころかただの僧衣である。
 
 D&Dはビジュアルイメージを重要視していた。あの赤箱の表紙の、レッドドラゴンと対峙する戦士を描いたラリー・エルモア氏のイラストは非常にインパクトがある。日本語版のスタッフはその意をちゃんと汲んでいたのだ。
 当時の私は「イラスト集を出すくらいならデータを載せてほしい」などと思っていたが、それは間違いだった。ビジュアルイメージというのは、世界観を形作るのに非常に重要なものなのだ。私がそれに気づいたのは、天羅万象でビジュアルの重要性を力説する井上氏の言を目にしてからだったが。

 潰れてしまったが故に、後から色々と厳しい評価を受けることもある新和版CD&Dの日本語版スタッフであるが、評価されるべきこともちゃんとやっていた。むしろ、それゆえにこそその後の展開が惜しまれるのだ。