因縁の不死身同士


 公開早々に見てきた。マーベルの映画を見るのは、劇場はおろか自宅でも、スパイダーマンのノーウェイホーム以来だ。このところ評判の低い作品が続いていて、鳴り物入りのこの作品がダメなら、もうマーベルも終わりだろうと思っていたファンは多いのではないだろうか。
 以下ネタバレを含むので折り畳む。














 感想を一言で言うと、X-MENシリーズのフューチャー&パスト、スパイダーマンシリーズのノーウェイホームでやろうとしたものを、デッドプール風味に味付けするとこうなる、という感じ。では3作品を並べて評価するとどうなるかというと、私の中ではフューチャー&パストやノーウェイホームの評価を超えるところまではいかない。
 マーベルのファンとして一番最初に気になるのは、この作品を見るのに、一体どれだけ過去作を見れば予備知識として十分なのか、ではないだろうか。直接繋がっているのはもちろんデッドプール1と2だが、その他に(登場人物的な意味では)X-MENZEROとも大きな繫がりがある。あと世界観的にはドラマシリーズのロキだろう(TVA絡みなので……)。
 単に登場人物というだけでいうと、X-MENの新旧シリーズの登場人物やファンタスティック4、ブレイド、ローガン、そしてエレクトラまで登場するので、マーベルの過去作品をまんべんなく見ていないとすべてのクロスオーバーは理解できないかもしれない。とはいえ、例えばエレクトラのことを知らなかったとしても「マーベルシリーズで続編が出てない作品の登場人物なんだろうな」ぐらいの認識でも問題ない。逆に旧ブレイドシリーズの熱狂的なファンは、あのシーンでの再登場が嬉しいのではないだろうか。
 トードやセイバートゥース(それも旧作)、アザゼルの出演はゲスト出演的な感じだったが、パイロやローラは非常に美味しい役どころだ。ガンビットは自分が知っている姿と違うなと思ったら、どうやら没になった単独シリーズの設定で登場したらしい(さすがにそこまでは追いかけてないよ……)。
 ちなみにカメオ出演していたキャラクター全員は分からなかったんだけど、上にあげたキャラクターの他にジャガーノートとデスストライクは出ていた。一瞬だったし、多分見逃したキャラクターもいるはずだ。


 「旧作に別の視点を加え、新しいシリーズに繋げる」……よく似たコンセプトの3作品の中で、なぜデッドプールの評価が一番低いかというと、単純に悪趣味なシーンが多い(ローガンの墓を掘り返し死体を武器にして戦うとか……)のが私の好みとは合わない、というのもある。しかし前の2作品、つまりフューチャー&パストやノーウェイホームは、ストーリーがあり、それに不自然ではない形で過去作品の清算が絡む形だったけれども、本作は本筋のストーリーが、過去作品の負債をなんとかする方に力点が置かれているように私には見えた。だから、本作のデッドプール自身のモチベーションは、ありきたりと言ってしまえばそこまでのものだし、ストーリー上も本当の主人公はむしろ「『ローガン』になれなかったウルヴァリン」の方。途中からはウルヴァリンの方に感情移入していた。にもかかわらず、ウルヴァリンの境遇は台詞だけで、さらっと流されてしまった感じがある。
 物語の舞台となったマッドマックスっぽい「奈落」も、本作のためにだけ作られた舞台で、存在自体が「見捨てられた作品の行きつく場所」というメタ的な場所であり、世界としての広がりは見えない。キャプテンアメリカと見せかけてヒューマントーチが出てくるところとか、ポストクレジット後の話のオチなんかも面白くはあったけど、あくまでもメタ的な面白さ。それがデッドプールらしさと言えばそこまでだが、前述の作品に比べると正道な面白さは一段劣る。


 反対に、非常にインパクトがあったのが今回のヴィランの「カサンドラ」。最初は「こいつ何者だよ」という印象だったが、立ち位置的には明らかに悪墜ちしたプロフェッサーX。能力はプロフェッサーXとほぼ同じだが、セレブロがないので、遠隔でテレパスを使うことができず、接触して相手の脳に指を突っ込んで相手の記憶を読むという、非常にえげつない演出のキャラクターだ。
 個人的には、ここまでやるならジェームズ・マカヴォイに悪堕ちして出て欲しかったが、ドクターストレンジ2で旧プロフェッサーXが脇役として出てきて殺されるシーンがあったようだから、これ以上プロフェッサーの出番を増やすわけにはいかなかったんだろう。
 そして、今回ドラマシリーズロキから登場し、もう一人のヴィランとしての役割を果たすTVA。出てくると必ずマルチバースが関わってくることになるのであまり好きではなかった。デッドプール自身も「マルチバースは失敗!」と自虐していたが、今回も結局ラストに後始末だけつけていき、舞台装置として非常に安易に見えてしまう。彼らが使っているスマホだけはガジェットとして魅力的だったけど……。
 あとは、今作で初めて出てきたらしい「アンカー」の設定も描写不足で、今のままだと「不死身のウルヴァリンデッドプール以外の人物が『アンカー』になっている他の世界は剪定必至やんけ」としか見えない。それとも、ロキでしか明らかにされていない設定があるのだろうか。


 最期にデッドプールの「また会える?」という質問に「多分、もうない」と答えるウルヴァリンは渋くて好きだったが、その後2人でパーティをしてるので肩透かし感が凄かった。それがデッドプールらしさ、なのだろう。
 ここまで割と色々書いてしまったが、それはあくまでも、比較対象が神作だからだ。本作で特に好きだったのは、最後に登場したTVAの職員(名前不明)がウルヴァリンに向かって言った「過去があって、今のローガンがいる。修正すべき過去はない」という台詞。フォックス版の「ローガン」が好きな人のために、完結したその作品については在り方を変えることなく、マーベル版のX-MENが見たい人のために「サイテーで最高のウルヴァリン」という伏線を残すやり方は、上手いなと思った。スタッフロールでフォックス版のメイキングシーンを見せたのも、マーベルなりの旧作へのリスペクトが見える、憎い演出だ。黄色いコスチュームにちゃんと意味があったのも良かった。


 ただ……ある動画主が感想で述べていたが「この作品は特殊すぎて、これが面白かったからといって、マーベル復活と祝っていいのかは疑問だ」という意見には賛成だ。このやり方は一種の反則技だし、デッドプールにしか使えない。真にマーベルの未来を占うのは、この後に予定されているアベンジャーズの続編の出来如何だろう。