適正な経験値とは


 これは非常に面白い質問で、ふぃあ通で取り上げられたのもよくわかる。
 質問文を厳密に読み解くと、例示されているのは「アリアンロッドソードワールドのようなファンタジーTRPGにおいて」となっている。それぞれのデザイナーのデザインポリシーというものがあるから、ソードワールドについてはふぃあ通で聞くよりSNEに聞いた方がいいのではないかという気がしないでもないが……。
 これに対し、アリアンロッドについては動画に出演しているのがデザイナー本人なので、動画内で語られているのがデザイナーにとっての正解、ということになる。個人的には、アリアンロッドはプレイヤー経験点制のゲームなので、動画内で述べられる鈴吹社長のゲームと同様、「判定なしでロールプレイのみ、短時間で簡単に終わってしまうセッション」には「報酬を与えるべきではない」と思う。
 では、なぜプレイヤー経験点の場合にはこういうケースだと経験点を与えるべきではないのか。もっと言うと、その経験点を持って他の場所へ行って経験値を使ってはいけないのか。この動画では述べられていないので、以下は私の経験からくる推測になる。
 社長がデザインしたゲームに限らず、ほとんどのTRPGにおいて、ルール処理が最も簡単なのは、キャラクター作成を終えた直後のPCを用いたセッションである。これはある意味当然のことだ。新しいTRPGを始めるとなったら、ただでさえ多くのルールを覚えなければならない。だから、多くのTRPGでは、プレイヤーが場数を踏むことで段階的にルールの範囲を拡張することができるようになっている。
 つまり、プレイヤー経験点を持っていない状態というのは、覚えるルールが最も少なくて済む状態だ。プレイヤー経験点制とは、「あなたはプレイヤーとしてこれだけの場数を踏んだから、これだけルールの適用範囲を広げていいよ」という目安なのだ。それなのに、判定なし、ロールプレイのみで短時間で比較的簡単に終わってしまうセッションに経験値を出した場合、セッションの経験がないのにその経験点を使ってルールの範囲を広げることができてしまう。慣れていないのにより高い山に登ろうとするようなもので、デザイナーとしては、それは推奨されない行為だ、ということなのだろう。
 もっとも、この「報酬」という言葉も微妙な表現で、質問だとこの後に「色々と困難や戦闘を経験していないのに、PCを成長~」という言葉が出てくるので、経験点ではないかという推察はできるが、厳密には報酬というのは経験点だけではなく、現金報酬やアイテムなども報酬に含まれるだろう。



 とはいえある意味で、こういう悩みは「誰もが通る道」だともいえる。私自身が最初にやったクラシックダンジョンズ&ドラゴンズの失敗談はこんな感じだ。
 このゲームでは、動画で述べられているような「あらかじめ経験点で下駄を履かせる」ようなハウスルールはどこにも記載がなく、プレイガイドでも推奨されていなかった。しかし実際のキャンペーンでは、PCがある程度のレベルに達すると、1セッションで手に入る財宝で得られる経験点でレベルを1上げるのは難しくなってくる。
 ただ、同じレベルで何度もセッションをしていると、プレイヤーだけでなくDMも飽きる。そしてどうしたかというと、本来デザイナーが想定している「1回のセッションでプレイヤーが入手できる財宝の量」をはるかに超える財宝を無理やり出して、PCのレベルを上げてしまったのだ(「恐怖の島」の「金鉱」といえば、わかるひとにはわかるだろう)。
 ところがそうなると、金が余りまくるのである。アイテムリストや武器リストを片っ端から買いまくってもまだ余る。旧版のベーシックルールやエキスパートルールの範囲ではマジックアイテムの売買ルールなどが用意されていないため、ソードワールドのように魔晶石を買い占めるような選択肢もない。さりとて折角手に入れた財宝を取り上げるのはプレイヤーからの抵抗感が強い。いわば、プレイヤーもダンジョンマスターも黄金の山の上で途方に暮れる羽目になったのである。