散文的に答えると「まず平等という概念そのものが、比較的近代になってから誕生したもので、中世ヨーロッパをモデルにするファンタジー世界では、同じ人間同士ですら格差があるんだから、人間とエルフで格差があるのは当然なのでは」と言えなくもない。
ただ、それだけだとどうしても、元ツイートに対するレスも含め「そう思うんならそうなんだろうお前の中ではな」にしかならないので、TRPGゲーマーとしてちょっと調べてみた。ずばり「有名なTRPGではどのように扱われているのか?」だ。
とはいえ、これも過去に書いたシーフや食事の話と違い、TRPGのワールドガイドで法律制度にまで踏み込むゲームはほとんどない。理由は簡単で、細かい法制度を描写しても、面白いセッションになる可能性が低いからだろう。そこを面白くできるとすればそれは小説などのジャンルであって、話が振り出しに戻ってしまう。
とりあえず、手元にあるファンタジーTRPGのワールドガイドを何冊か漁ってみたが、そもそも人間とエルフ、あるいは人間とドワーフのように、寿命が違うとされる種族が、一つの国家を形成しているという作品そのものが多くない。
そして、フォーセリアにも、アハーン大陸にも、エリンディル大陸にも、グローランサにも、タイタンにも、グレイホークにも、エベロンにも、TRPGの世界設定としての刑罰に関する記述は見つけることができなかった。*1とはいえ、これで「そんな設定のあるTRPGは、探した限りでは見つかりませんでした」なら、このエントリを書くこともなかったのだが……。
ミスタラにおける「刑罰」
唯一詳細な刑罰についての記載を見つけられたゲームが、クラシックダンジョンズ&ドラゴンズのミスタラ世界である。ミスタラの場合、なんと日本語訳されているカラメイコス大公国、イラルアム首長国連邦、そしてアルフハイムに、それぞれ別々の刑罰体系が用意されている。
もちろん、これにはページ数の都合があるだろう。ガゼッタシリーズは、ミスタラ世界の国1つについて1冊のサプリメントという形が取られているので、全体的なページ数が多く、説明に誌面を割くことができたから、刑罰にまで言及できたのだろう。上に挙げた他のゲームは、あくまでも世界全体のワールドガイドという体裁を取っているので、1地方の説明をするのが精一杯で、さらにその地方1つ1つについて、司法制度まで説明するのは紙面が足りなさそうだ。*2
ちなみに、3つの国の刑罰には、それぞれの国の個性がよく現れている。カラメイコスでは罰金、投獄、死刑という刑罰になっていて、投獄の期間は1日から30年まで幅がある。これに対してイラルアムでは、鞭打ちなど刑罰の種類は多彩だが、投獄について期間の設定がない。前後の記述などを見る限り、部族の風習などによって割と左右されるようだ。
そして一番面白いのがエルフの国である。アルフハイムでは投獄という刑罰がない。というより、警察組織そのものが存在しない。誰かが刑罰に値するような犯罪を犯すと、魔術師が容疑者に対してESPの魔法をバンバン使用し、相手の心を読んで犯人を特定する。人間の世界と違い、魔術師の世界では魔法が絶対であり、魔法で相手の心を読むことは推奨される。そして、対応としては追放されるか殺されるか、だ。これも、D&Dの世界のエルフがどのような存在かをよく表していると思う。
ちなみに、上に挙げたいずれの国も、種族によって刑罰の軽重が変わることは一切ない。よって、最初のツイートに戻るなら、相対的には人間が不利と言えるかもしれないけれども、例えばアルフハイムではそもそも、魔法の使えない人間やハーフリングは良くて魔法の実験材料ぐらいにしか思われていない。平等という概念とは程遠い世界設定である。
今回のエントリを書くにあたって、TRPGのワールドガイドを10冊ほど当たったのだが、これ以外に記載は見つけられなかった。GMからすると、刑罰に関する設定があった方が、PCが無茶をした時のための抑止力として働きそうと思う反面、実質的には罰金刑か死刑くらいしかセッションで生かすことは難しそうだし、それこそシーフの立場が危うくなる。
もし、今後他のワールドガイドを読んでいて、該当する記述のあるゲームを見つけられたら、続きを書くかもしれない。*3