先日チラっと書いた、ドルアーガの塔40周年記念で出版されたバビロニアン・キャッスルサーガの設定資料集を読み返していて気づいたことがある。スーパーファミコンで発売されたブルークリスタルロッドまでは、遠藤氏が完成形と呼ぶPCエンジン版のドルアーガの塔のオープニング以外、背景設定は公開されていなかったと思っていたが、実際にはファミコン版のカイの冒険のオープニングでかなりの設定が明かされていた。ファミコンを持っておらず、カイの冒険についてはおもちゃ屋の店頭で数回試遊した程度だったので、オープニングの存在を知らなかったのだ。
カイの冒険のオープニングで判明することとしては、バビリム王国の国王でありギルの父親の名前「マーダック」や、スーマール帝国の皇帝の名前「バララント」などがある。ちなみにこのオープニング、PCエンジン版ドルアーガのオープニングと同じメロディを、不安をそそる曲調に変調していて、よくできている。
あと、オープニングや設定を読み返していて思ったのが、「色々な意味で、ドルアーガの塔はやはり普通のRPGとは違う」ということだ。というのも「敵と戦って経験を得て成長する」という要素がこのゲームにはない。ギルの能力は、PCエンジン版ドルアーガの塔のステージの間に挟まる成長画面にも「勇気を力に変えましょう」とはっきり書かれており、戦いの経験を得て成長しているわけではないのだ。
他にも気づいたことはいくつかあるが、例えば、女神イシターはギルを守護しているようでいて、実は塔を登り始めるまでのギルには一切力を貸していない、とか。彼女の行動も割と謎であり、塔が倒壊した時に重傷を負ったギルのもとを訪れ「カイをドルアーガのもとへ向かわせた」と告げるシーンがあるが、体も動かせないギルにわざわざそのことだけを伝えに来た理由は不明である。知らせないのは不実だから、ということなのだろうか。
その後、実際にギルに力を貸したのは謎の人物だが、続編の展開を見る限りこれはアヌ神だろう。こちらはこちらで、スーマール帝国の野望をくじくために塔を破壊したはいいが、被害者であるはずのギルまで巻き込んでしまい、しかもイシターの命を請けたカイが失敗したので、慌ててフォローしたようにしか見えないのがちょっと面白い。
続編の展開を見るとわかるが、基本的にはイシターの方が積極的に人間に力を貸そうとしており、アヌ神が一歩引いた視点から人類を見ているようだ。とはいえそのイシターにしても、直接ドルアーガを倒そうとはしていない。可能な限り人間の運命は人間自身に切り開かせようという意志が感じられる。
60階からロッドを持ち出したのは……
そしてもう一つ。このデモの中で、ゲーム内の事実とは異なることが述べられている点が1点ある。それは「ドルアーガが塔の最上階にブルークリスタルロッドを隠した」となっている点だ。ご存知の方もいるかもしれないが、実際のロッドはドルアーガの塔の58階にあり、最上階の60階には存在しない。
これは恐らく製作者の間違いではない。もし本当にブルークリスタルロッドが60階にあったら、このゲームは詰みである。なぜなら、ドルアーガを倒すためには(かつての女神イシターがそうしたとおり)ブルークリスタルロッドが必要なのに、それがドルアーガを倒さないと到達できない60階に存在するということになるからだ。逆にいえば、ドルアーガの視点では60階にブルークリスタルロッドを隠し、その入り口を自分が守るというのは合理的である。
しかし実際には、ブルークリスタルロッドは58階にある。そして、中間デモでの会話を見る限り、これを60階から持ち出したのはサキュバスではないかと思われる。彼女は57階で現れ、正体を見破ったギルに対して「ドルアーガの心を解放するためにブルークリスタルロッドを任せる」と言い、その直後のフロアにロッドが存在する。この杖がなければドルアーガを倒せなかったわけで、彼女の言ったとおりになったのである。
ところで、ドルアーガの塔におけるギルの力、カイの冒険におけるカイの力は、いずれも勇気を身軽さに変えたり、力に変えたりするイシターのティアラやアヌ神の武具の力である。では、帰り道のイシターの復活でカイが暴れ回っていた、あの力はなんだったのかといえば、それはイシターの復活の開始数秒を見れば分かるように、ブルークリスタルロッドそのもののパワーであると考えられる。
このゲームだけはギルとカイが経験によって成長していくため一般的なRPGに近いが、使えば使うほどロッドの力が増していく、と言えなくもない。ティアラの力だけでは敵を攻撃することもできなかったカイが、杖を手に入れただけであれだけ強大な力を振るうことができたわけだから、ブルークリスタルロッドの力恐るべし、である。続編で、成長によって得た分も含めて「この力は人の手に余るから天界に返そう」と決めたギルとカイの判断は非常に興味深い。