「ローナンバーのPCは、制約が強い」……FEARのゲームの中でも、特にダブルクロスについては、この傾向が強いと私は考えている。
ダブルクロスというゲーム自体、鈴吹社長がいうところのビッグゲームではなく、PCは全員「オーヴァードという特殊な人間」という設定で始まるゲームで、中でもキャンペーンのお約束とでも呼ぶべき形式がある。
それは、前版ルールブックの巻頭マンガ「もうどこにもいない君のために!」で示されたような組み合わせだ。PC1は何らかのきっかけでオーヴァードになった元一般人の学生。PC2は同じ学生だが、以前からオーヴァード。PC3はUGN支部長だったりするが、PC2とは同じ組織に属する知り合いで、日常生活はPC1と共有していない。
そしてPC2とPC3が、立場は違えどPC1を導いていく、というのが物語の一種のテンプレートになっている。もちろん、すべてのキャンペーンがこの形式に則っているわけではないが、世界設定上似たような傾向のキャンペーンが多くなりがちだ。そうなると、PC①にはシナリオ上の制約がかかりやすく、それがハンドアウトに反映してくるために、こういう印象になるのだろう。
ただ、鈴吹社長が意図的に無視しているのか、それともそうでないのかはわからないが、動画で言及されていない事情がある。それは、動画の中では「セッション中、PC1の『行動』にGMからの制約が加わる」という観点で話が進んでいるが、私のプレイグループだと、むしろ問題になったのは「PC1の『キャラクター作成』に制限が加わる」ということの方だった。
先ほど述べたとおり、ダブルクロスだと分かりやすい。PC1が「元は一般人の学生で、シナリオ中にオーヴァードに目覚めた」というハンドアウトを渡されると、プレイヤーが「ラピュタに出てきたドーラみたいな豪快な老婆で、表向き運輸業を営んでいるが、裏ではトラックに積んだ得物を使ってジャームを狩る仕事人」という設定のPCを使用したいと思っても難しいだろう。
この傾向は、ダブルクロスに限らず存在する。トーキョーNOVAでも、シナリオヒロイン──これはヒロインとついていても必ずしも女性とも限らないし、それどころか人間とも限らないと断りがあるけれども──それでもやはり、プレイヤーが若い男性であることが多い関係上、若い女性を動機づけにする方がわかりやすい。
そんなヒロインとの交流を描くにあたり「キャスト①はファラウェイという幻覚効果のあるドラッグの常習者で、自分はシャーロックホームズだという妄想癖があり、持っているぬいぐるみにワトソン君と話しかける、常に目がガン決まっている10歳程度の女の子」と言われると、難色を示すルーラーが多いのではないだろうか。
あるいは「自分は地上にアバターを投影しているだけで、正体は南十字星です」なんていうキャストの場合も、典型的なキャスト①枠に嵌めるのは難しい(ちなみに、上記のキャストは全て実際にセッション中に遭遇したことがあるPCだ)。
しかし、動画で言われているように、一旦セッションがスタートしてしまえば、上記のようなぶっ飛んだ設定のキャストも、割とDMの意図を察して行動してくれる。つまり、こういうケースの場合問題となるのは、セッション中の行動ではなく、セッション前にキャスト作成に制約が加わることの方なのだ。
それと、トーキョーNOVAのキャストナンバーについてはもう1つ付け加えたいことがある。「トーキョーNOVAでは、全てのキャストナンバーが依頼代行型の導入であることが多い」と語られていることについてだ。
私の記憶の範囲だが、NOVAにハンドアウトが導入された当初、ローナンバーとハイナンバーはどこで区別されていたかというと、ローナンバーはブラックハウンドやナイトワーデン、千早重工のようにシナリオごとの所属組織が決まっていたことが多い。所属組織の都合とシナリオ上のミッション、あるいは他のキャストとの齟齬をどうやって埋めるか、という調整がキャストの主目的だった。
これに対してハイナンバーは、フリーランスで所属組織は特定されないというパターンが多かった。だからPC5枠は、ブレカナだとグラウディシア騎士団で、アルシャードだとエクスカリバーと言われるが、トーキョーNOVAだと特定の組織名で呼ばれず、ただ「殺し屋系導入」なんて言われていた。要は、暗殺を請け負うようなキャストであればどんなキャストでも良い。ただし冒頭の依頼は受けてくれ、というのがハンドアウトの内容だった。
ここまでつらつら述べてきたが、実際私自身がどう対処していたかというのをここで書いておこう。他人の参考になるかどうかわからないが……。
私がしばしば解決方法として使っていたのは、キャンペーン専用の方法になるけれども「PCごとにそれぞれ当事者性の高いNPCを割り振ることで、結果的にPC①が持ち回りになる」という方法だった。これは、恐らく動画の中で言われている「PC①を持ち回りにせよ」というのとは全く違う意味になる。
NOVAの例になるが、第1話のキャスト①はフェイトで、行方不明になった恋人を探す人物が依頼人(シナリオヒロイン)として登場する。キャスト②はクグツで、恋人が所属している会社から、その人物が持ち去った研究成果を探し出すように、と言われる。
第2話になると、1話に脇役で登場した、キャスト②の親友であり同僚が事件に巻き込まれ、失踪する。ハンドアウトはこの親友を探すというもので、依頼代行型の導入の形を取らず、ナンバーもキャスト②がキャスト①に変わる。
そして第3話では、第1話のキャスト③のプレイヤーが申し出た設定を拾い、敵となるゲストが実はキャスト③の親の仇だったという設定にして、今度はこちらがキャスト①になる(依頼代行型の導入ではない)、というような感じだった。
と、ここまで書けば、過去のエントリをご覧になった方には、私が「プレイヤーの面子を見て、セッションごとにシナリオを当て書きする」と言っていた意味が分かっていただけるかもしれない。上の例のキャスト②もキャスト③も、プレイヤーが前のシナリオから連続参加し、かつ同じキャストを継続使用するのが前提のシナリオになるからだ。