フィクションのファンタジー作品を見ていて、上の動画のようなことをチラッと考えたことがある。空を飛ぶデミヒューマンっていうと、天使のように背中に羽が生えた人間みたいなのが出てくる作品が多いんだけど、そうなると移動するための器官が翼と両足の二種類あることになることになる。鳥の挙動を考えると、前脚が翼に変化するなら、後脚は足ではなく手になるはずで、想像すると人間のシルエットからはかけ離れた種族になってしまう。
こう考えてくると、空を飛べるデミヒューマンのベースは、鳥というよりは、蝙蝠やモモンガのように、物を掴める前脚に被膜がついているタイプにした方が理に適っているのでは、なんて、オリジナルの世界設定を考えるときに想像したことがある。
TRPGにおける空飛ぶ種族
とはいえ、TRPGに限定して考えると、実際に空を飛べるデミヒューマンが登場するタイトルは決して一般的ではない。やはり「空を飛べる」というのが、他の種族に比べて余りにも有利になるからではないかと思う。
D&Dだと、今回調べてみて初めて知ったのだが、天使種族「アアシマール」が、レベルが上がっていくと空が飛べるようになるらしい。ただ、レベルを上げると飛べるというのは飛行魔法を使うのと変わらない気もする。映画でお馴染みジャーナサンのアーラコクラ族は、PCとして使うには未訳サプリメントが必要だ。
ソードワールド……というより、フォーセリアには、クリスタニアに「バードマン」という、鳥人の種族がいる。これは、神獣の部族がビーストフォームによって神獣の翼を生やして飛べるようになる、というのと違い、フォルティノに仕える「生まれもって空を飛べる種族」だ。また、同じクリスタニアに「ミュルミドン」という蟻人(厳密にはウィングドミュルミドン)もおり、こちらも空を飛べる。
2.0系だと、フィーやヴァルキリー、バルカンなど明らかに羽根を持っている種族は存在するものの、いずれも「浮くことができるが飛べない」「羽根はあるが飛べない」「PCとして選択可能な者は羽根を切られている」など、明らかに「PCは飛べない」ように設定されている。
アリアンロッドの場合は、フェイという追加種族の一部に、フェアリーなど飛行できる者が含まれる。
ブレイドオブアルカナの場合は……フルキフェルのうち「オオカミワシ」が空を飛ぶことができるのだが、名前のとおり三対の翼を持った狼の姿をしており、もはや人型の種族ではない。
D&D以外の海外のゲームでは、T&Tは空を飛べるフェアリーが選択できる(空を飛べる代わりに前衛が非常に厳しいステータスになるが……)。
ルーンクエストは鳥型の「ダック」がいるが、原型が鳥なのに飛ぶことができない(これとよく似たガープス・ルナルの鳥人、ミュルーンは滑空はできる)。
同じベーシック・ロールプレイだとストームブリンガーの「マイルーン人」が翼を持った人間である。これは原作に準拠している。
面白いのが「ファンタズム・アドベンチャー」。このゲームはデミヒューマンの種類がかなり多く、他のゲームなら敵として出てくるような種族もPCとして選択できる。ガーゴイルやマンティコア、そしてホークマンやバットマン、フェアリーなどが飛行能力を持つ種族だ(もちろん飛べない種族はもっと沢山いる)。
あれこれ列挙してしまったが、パッと思いつくのはこれくらいだ。細かく調べれば他にもあるかもしれないが、ファンタジーTRPG全体からいえば、空を飛べる種族は決して多くない。「レベルを上げた魔法使いが「魔法」というリソースを使って空を飛べる」という設定のゲームがあったとしたら「リソースも使わず最初から自在に空を飛べる種族」というのはやはり設定しにくいのだろう。
ドワーフもホビットもいないファンタジー
どうしてこんなことが気になるかというと、やはり原体験が大きいのだと思う。私のTRPG歴で相当初期の頃に触れたタイトルである「WARPSファンタジー」には、「有翼族」という空を飛ぶ種族が普通に存在したのだ。だから、空を飛ぶデミヒューマンが当たり前とまではいわないが、後発のゲームでも空を飛べる種族はそれなりに出てくるだろうと思っていたら、ほとんど登場することがなかった。

(ワープスファンタジー「ヒーローズレルム」より)
WARPSファンタジーにはドワーフもホビットもいない。代わりに出てくるのは有角族、有翼族、人魚族である。しかしこれらの種族は、他のファンタジーTRPGのPC用種族としては決して一般的ではない。
デザイナーの大貫氏は、新和版のCD&Dの翻訳を手掛けていた。並行してWARPSの展開を行うにあたっては、当然差別化を考えたはずだ。前書きには「日本のアニメーションドラマでファンタジー物が作られると仮定し、創造されるであろう世界が舞台」とある。当時はまだドラクエ3が発売された直後だ。この時、大貫氏はドワーフやホビットが出てくるファンタジー世界が一般的なアニメーションになるとは思ってもみなかったのだろう。
「何故恐竜は人間にならなかった?」ならぬ「何故有翼族はファンタジーRPGで一般化しなかった?」。私にとって「有翼族」の存在は冒頭の動画と同じ、「いつか来るかもしれなかった、しかし実際には来なかった、和製ファンタジーのもう一つの可能性」の象徴なのである。