さて、先日のエントリはいわば前菜で、今日のエントリが主菜である。「事故が起きなかったが失敗したセッション」の話だ。
あらかじめ断っておくが、以下のエピソードは「ルーラーである私」の失敗談である。最初は特定のプレイヤーに関するエピソードのように読めるかもしれないが、読み進めば私が何を言いたいかお分かりいただけると思う。
今回は結構闇の深い話なので、一応折り畳むことにする。
今度のエピソード、時期としてはトーキョーNOVA・レヴォリューションが発売され、トータルエクリプスのリプレイが出て革新的な遊び方が普通のプレイヤーにも広がっていた頃の話。私の所属していたサークルと別のサークルが交流会を行うことになった。
当時、私と仲間たちはいろいろなプレイグループの人たちとトーキョーNOVAを遊びそのノウハウを交換し合っていた頃で、蜂巣さんや中村やにおさん、夏瀬さんや黒野さんといった、後に楽しい体験を共にした人たちと知り合ったのもこの時期である。
その勢いのまま、他サークルと交流会をやろうということになったのだが、最初の不運として卓分けの結果、私自身がルーラーをやり、プレイヤーが全員先方のサークルメンバーという卓が立つことになった。本来であればメンバーを半々にするべきである。様々な事情からそれがかなわなかったのだが、私から見るとプレイヤー全員が相手サークルの文化なのにルーラーが外から1人で飛び込むような形になってしまった。
先方のサークルにはOBらしき人が1人おり、セッション開始前から「自分がいかに気に入らない依頼を蹴飛ばしてきたか」とか「経験の浅いルーラーたちを教育してやった」とかそういった武勇伝が止まらない人だった。ちなみに、この後様々なコンベンションを経験してきた自分の体験からいうと「セッション開始前に気に入らない依頼を蹴った武勇伝を語るプレイヤー」は「自分が気に入らないゲームやゲームデザイナーを初対面の相手に向かって扱き下ろすプレイヤー」と並んで警戒対象である。このプレイヤーをプレイヤーAとしよう。
なお、この時プレイしたのは前にブログで書いたことがある「見知らぬ隣人」というシナリオである。前のエントリを遡っていただけるとわかるのだが、過去には見知らぬ隣人というシナリオを使ったセッションで、トーキョーNOVAで上から指折り数えるほど面白い体験をさせてもらった。なので、ここで名前が出てくるというのは奇妙に思われるかもしれないが、このシナリオは私にとって「最高の体験と最低の体験を同時にさせてくれた」という非常に変わったシナリオなのである。
まず、プレイヤー全員がキャストの持ち込みを希望していた。ルールブックにサンプルキャラクターが掲載されている今であれば全員サンプルキャラクターでプレイしたと思うが、当時のルールブックにはサンプルキャラクターはなかった。新規にキャストを作らせてもよかったのだが、プレイヤーBCDのキャストは何ら問題なく、プレイヤーAにだけ作り直しをさせると他のプレイヤー3人が手持ち無沙汰な時間を過ごすことになってしまう。
ただし、プレイヤーAのキャストはそれを迷わせるぐらいには強烈なキャストだった。使用経験点は700点。使用報酬点が1500点で、報酬点を手持ちの武器の「改造」に注ぎ込んでおり、切りつけるとダメージが20──このゲームでは日本刀で切りつけた時のダメージが5とか6とか──要は触れただけで相手は死ぬ状態だった。また、そのプロファイルシートには、私の知らないルールブック外のゲストのコネクションがずらりと並んでいた、彼らがどのようなパーソナリティーなのか全くわからない。
だが──私は頭の中で計算した。確かに改造した装備は非常に強いものの、戦闘系の技能は全く持っていない。スタイルはフェイト、フェイト、タタラで、戦闘系のゲストから攻撃を食らえば、恐らくキャストAからの攻撃を受ける前にキャストAに攻撃が当たって死ぬだろう。武器を警戒して持ち込みを禁止するほどではない。
また、この時期私は色々なプレイヤーの人たちと卓を囲んだという根拠のない自信に満ち溢れていたし、何よりNOVAシステムの革新性とその許容力の高さを信じ切っていたので、この程度のキャストなら制御できると思い込んでいた。──正直言って、かなり考えが甘かったといわざるを得ない。
プレイヤーAは、セッション前に(自慢話交じりであるが)自分はどういう条件でなければ依頼を受けないというのを連呼していたので、シナリオの修正も事前に済んだ。プレイヤーとしてはかなり強化したキャストのつもりだったのだろう、ダメ元の提案だったのか、私が「持ち込みを許可する」と言った時意外そうな表情を浮かべた。
ただし認める代わり、一つ条件をつけた。「このプロファイルシートに並んでいるゲストコネクションについてはルールブックに載っていないゲストなのでどのような人物なのかわからない。よって、私にはロールプレイ、演出ができないため、舞台裏判定でのみ使用許可します」と。プレイヤーAは了承した。しかし、ここで了承した理由は後で判明する。
前に書いた見知らぬ隣人の説明を読み返していただくと分かるのだが、このシナリオはかなり特殊なシナリオである。推奨スタイルの神業についてはセッション中でほぼ使い道が決まっており、指定された使い方で神業を使わない限り真相にも行きつけないし、グッドエンドにも到達しないという作りになっている。
ところが、プレイヤーAはセッション開始直後にプレイヤーCに向かって「お前実は真相を知ってるんだろうと言って『真実』を飛ばします」と宣言した。もちろんプレイヤーCはメタなレベルで何も知らない。そしてプレイヤーCはこれをキャンセルするためにチャイを使い……と神業の応酬が発生し、効果がないことが分かりきっているのに、キャスト同士のじゃれあいで神業を半分使い切ってしまった。
私はセッションを進めながら頭の中が?でいっぱいだった。敵を倒すにも真相にたどり着くにも神業はどうしても必須な決定打なのに、なぜそんな無駄打ちができるのか? これはトーキョーNOVAならではというより、例えばダンジョンズアンドドラゴンズやソードワールドで仲間に向かって切りつけるプレイヤーがいるかというのと同じレベルの話だと思うのだが……先方のサークルがどのような文化でプレイしているのか、この時点では全く理解できていなかった。
やがてプレイヤーAは、プロファイルシートにあるゲストを呼び出して神業を使わせ、セッションを進行しようとし始めた。「このプロファイルシートに書いてあるこのEという人物は、自分に心底惚れ込んでいる女性フェイトなので、呼び出せば『真実』を代わりに使ってくれる」というのだ。私は表向きは平静を装いつつ、こう答えた。「セッション前に言ったとおり、コネクションについては舞台裏判定でしか使用できないので、舞台表でゲストキャラクターを呼び出すことはできません」と。また「同様の理由で神業も演出が必須なので、演出が不可能な舞台裏の判定で使用させることはできません」と。
答えつつ内心で私は愕然としていた。各キャストに3回しか与えられていない神業をオープニングのPC同士のじゃれ合いで消費したのはこれが理由だったのか、と。つまり、これまではシナリオ上の進行で困ることがあったら全部ゲストを呼び出して、神業を使わせて解決させていたから、シナリオの進行に困ることがなかった、とそういうわけだ。
神業はプレイヤーズコール。つまり数値的な効果を持たず、ルールの範囲でプレイヤーが言った通りの効果をもたらす。それにしても、天罰もM&Aも真実も全部好きなだけ使い放題というセッションは、果たしてトーキョーNOVAのセッションといえるのか。というのが、ルーラリングしながら私の中を占めていた疑問だった。
ちなみに、プレイヤーAに「もしかしてこのコネクションは全員女性なんですか」と質問したところ、その通りという自信満々の答えがかえってきた。要は今のなろう系でいうところのハーレムシナリオである。自分に心酔しているNPCがたくさんいて、自分のために神業も命も捨ててくれるという。当時はまだなろう系という言葉はなかったので、シティーハンターとか課長島耕作とかそういうのが元ネタだったのかもしれない(もちろんルール通りに処理するなら、コネ判定は単に連絡が取れるというだけの効果であり、「自分の望む行動をさせる効果」などはない)。
実際、プレイヤーAは経験点700点、回数で言うと100回近くセッションを経験しているはずなのだが、先ほどゲストを登場させようとしたことからも分かるように、舞台裏判定という言葉を知らなかった。それどころか情報収集判定のやり方も知らなかった(フェイト×2なのに!)。これはダンジョンズアンドドラゴンズでいうと「レベル20とか30の超高レベルキャラクターが、命中判定は知ってるけどセービングスローを知らない」というレベル、あるいはソードワールドでいうなら「戦闘技能はレベル15だけどセージ技能は1回もダイスロールしたことがありません」とか、そういうレベルである。驚き以外の何者でもなかった。しかもプレイヤーBCDは完全にプレイヤーAを接待しており、要はプレイヤーAを喜ばせて活躍させてあげるためだけに行動しているという状態である。はっきり言って普通ではない。
このシナリオでは、真相にたどり着くために「真実」が必須なので、じゃれ合いで「真実」を全て打ち終わってしまっては、絶対に真相にたどり着くことはできない。極めつけはプレイヤーDがクライマックスシーンに超遠距離から登場したい旨宣言して、「とどめの一撃」を使い、中ボスを即死させてしまったことである。プレイヤーたちは敵の手応えがなかったとみたようだが、それも当然。防御系の能力は真犯人と真犯人の腹心が持っていたので、真犯人にたどり着かない状態で戦っても敵には全く防御能力がない。だから手応えがないのは当然なのだ。そしてその中ボスが真犯人への最後の手がかりである以上、依頼人の正体を暴くことはもうできない、真犯人から「制裁」(盗聴)の神業の効果を受けたままだが、これを解除することもできない。
しかし──プレイヤーAは論外としても、やらかしてしまったプレイヤーDはともかく、プレイヤーBとCは責を負わなければならないような何かをしでかしたわけではないし、あくまでもプレイスタイルが違いすぎるだけだと考えると、これでバッドエンドを強要するのも申し訳ない気がした。そのため真犯人の存在にはセッション中触れずに、あたかもうまくいったかのようにセッションを終わらせることにしたのである。
セッション後に感想会があったのだが、例によってプレイヤーAは「俺がセッションをうまく回してやった」と自慢話を散々した挙句、後片付けも何もせずに先に帰ってしまった。
そんなプレイヤーAがいなくなった後、プレイヤーBCDが私のところにやってきて、質問があるという。「なぜ最初の推奨スタイルでイヌが非推奨スタイルだったのか?」と。セッション中の体験があまりにも衝撃的すぎて、そんなことどうでもよくなっていたのだが、確かにこのシナリオはイヌは非推奨である。なぜならこのシナリオの真犯人はNOVA軍であるため、この当時軍に絶対服従を強いられるブラックハウンドだと、真相が分かった後にキャストBをNOVA軍に突き出さなくておかなければいけなくなる可能性があったからだ。すなわち、プレイヤー間でコンフリクトを起こすために、非推奨としていたのである。
このことを説明すると、プレイヤーBCDは意外そうな顔というよりはやっぱりという顔になった。
「今回のシナリオって、もしかして真相全然わからないまま終わってます……?」トーキョーNOVAに慣れている人なら、「完全偽装」を使った依頼人の正体が分かっていない、イヌが使った「制裁」の効果も解除されていない、そんな状態でそもそも敵のゲストに向かって1回も「真実」が飛んでいないのに、シナリオの真相が明らかになって終わったと思う人は少ないと思う。しかし、非常に特殊な環境で100回もセッションをやってきた人たちが、それに気づいているというのは正直意外だったので、セッション外ではあるがシナリオの真相をネタバレとして私は話した。
一番ショックを受けていたのがプレイヤーDだった。中ボスから真犯人への手がかりを聞き出すというのが真相にたどり着くための最後のチャンスだったわけだが、このチャンスを自ら潰してしまった、と。改めてプレイヤーBCDと話してみると、彼らは情報収集判定のこともちゃんと知っているし、制御判定のことも登場判定のことも舞台裏判定のことも、全てちゃんと把握していた。
特にプレイヤーBは私より詳しい部分も多く、非常にルールの理解も深かった。ただプレイヤーAがいることによって、それを表に出すことができなかったのだ。プレイヤーAがいる間は彼に華を持たせるようなセッションしか許されなかったし、そのためにルールには忠実でないとわかっていても、そういうセッションしか行われることがなかったのだ。
ここに至って、私は初めてセッションの失敗を悟った。プレイヤーAはここでは問題ではない。彼のようなプレイヤーと楽しくルールに則ったセッションを行うことは、私の力量では不可能だった。しかしプレイヤーBCDにはこちらの意図はちゃんと伝わっていて、やる気もあった。プレイヤーAに振り回されてこそいたが、私は彼らを侮ってしまった。
そして、私は思った。プレイヤーAはこのプレイグループにいる限り、決して自分のプレイスタイルを改めないだろう。そしてトーキョーNOVAが本当はどのようなゲームかというのを知る機会もない。自分が見下している後輩たちは皆それを知っているにもかかわらず、だ。もしかしたら彼らは私に「王様は裸だ」という子供の役割を果たしてほしかったのかもしれない。しかし、ただの通りすがりである私には荷が重かった。
この時、どうすればBCDの三人を楽しませることができたのか。今なお私は答えを持っていない。