拾い物の言霊の話

「盗む」←このコマンドってRPGに必要ないよな


 ありがちな話だけど、考えてみたら結構深い話だった。

 そもそも、RPGに「盗む」という能力はいつからあったのか。元祖CD&Dで既に「ピックポケット」という能力がシーフ(盗賊)の特殊能力として存在した。つまり、盗賊に盗むなというのは、こと源流だけを考えると魔法使いに魔法を使うなというのと同レベルの話という見方もできる。
 ところでD&Dに限らず、例えばソードワールドのシーフなどにおいても、盗む能力とはすなわち「ピックポケット/スリ」の能力である。これは、技能の説明文を読む限り、相手のポケットから物を掏り取る技能だ。言い方を変えれば「ポケットを持っている相手」つまり人間を対象にした能力であり、モンスターに対して使用することを前提とした能力ではない(使えないわけではないが)。
 どちらかといえば、ダンジョンよりシティアドベンチャーで使用することが想定される能力なのだ。その証拠、というわけでもないが、いずれのゲームでも「ピックポケットでいくらの金を掏り取れるか」の規準は明記されていない。それはシナリオの展開で決まるので、基準を用意しづらいのだ。まして、コンピュータが判定を行うCRPGにおいて、この能力を再現するのは非常にハードルの高い話である。


 実際、D&Dの再現を目標にしたと思われるウィザードリィの盗賊は、少なくとも初代では盗みに関する能力は一切持っていない。D&Dでいうところの「ファインドトラップ」「リムーブトラップ」に特化した職業であり、他の能力が追加されたのは後続作品である。
 そして、再現が難しかったためか、FF1やDQ3といった職業システムを導入した日本の黎明期のCRPGにおいて、盗賊は削られてしまった。D&Dの基本4職業の中で唯一である。DQ3に盗賊が追加されるのは、移植版からだ。


 ところで、D&Dのシーフの特殊能力はピックポケットとファインドトラップとリムーブトラップだけではない。CD&Dをプレイしたことのある人には同意してもらえる人もいるかと思うが、恐らく普通にダンジョンシナリオをプレイしていれば、一番出番が多いのは「ヒアノイズ(聞き耳)」か「ハイドインシャドウ(陰に隠れる)」からの「バックスタブ(背後攻撃)」ではないだろうか。
 当然だが、ダンジョン内で普通の人間を相手にピックポケットをするシチュエーションはそれほど想定できない。むしろ普通の敵相手に物陰から襲い掛かる方が想像しやすいし、状況もよく発生する。ファインド・リムーブトラップやオープンロックやクライムウォールの有用性は、DMがどれくらい罠や鍵つき扉や(登る意味のある)壁を登場させるかによるが、戦闘をしないDMはほとんどいないはずだ。
 何が言いたいかというと、初代ウィザードリィにしても、例えばFF3にしても、なぜ数あるシーフの能力からわざわざ「ファインドトラップ」や「リムーブトラップ」、「ぬすむ」を選んでゲームに採用したか、ということである。たまに不意打ちで大ダメージを与える代わりに、軽装の鎧しか装備できない戦士系職業、という方がゲーム的な処理も軽かったのではないかと思うのだが……。やはり「盗賊」という名前があったからだろうか。


 その意味では冒頭の指摘も、あながち見当違いとは言い切れない。盗賊系職業、あるいはキャラクターに、ぬすむではない個性づけの方法もあると思われるからだ。もっとも、そのキャラクターを「盗賊」と認識できるかというのは、また別問題だが……。


 ちなみにウィキペディアの記述も、なぜこれに独自研究タグがついていないのか不思議なほど主観バリバリの説明になっている(笑)。