昨日のエントリについて

 昨日の続き。












 正直、昨日のエントリは最後の最後まで更新ボタンを押そうか迷ったくらい、TRPG業界では屈指の「闇」の一つだと思っている。本当は貼り付けたい動画もあったのだけれど、そんな気持ちも雲散霧消するほどドス黒い気分になるエピソードだ。この現代の日本で、思想統制よろしく書籍を抹殺するなんて、普通は考えられないことだから。*1
 で、友達と話していたら、結局TRPGのファンとTRPGリプレイのファンに乖離が生じたのではないか? という話になった。

 実は、昔から結構「リプレイ専」は実プレイをメインにしている人の間で話題になっていた。有名なのは「リプレイが好きでセッションに参加したプレイヤーが地蔵になる」という例だ。
 しかし、動画サイトが流行る前の「リプレイ」というのは公式が発行したもので、ゲームタイトルへの導線はメーカーが用意していた。リプレイの巻末にはルールブックの案内があり、リプレイそのものも(出来はともかく)実プレイへの誘導的な内容が含まれているものが多い。かつてのロードス島リプレイに端を発するTRPGの流行は、いわば「公式によって制御された」拡散だったのだ。
 しかし、今の動画サイトを基点とするTRPGの流行はそうではない。動画サイトにTRPGの動画をアップしているのは、系譜としては「同人リプレイ」の流れに近く、実プレイへの導線は時としてまったく存在しておらず、リプレイの内容も実プレイとはかけ離れたものも多々ある。ユーザー主導の流行という意味ではTRPGに限らずいろいろなジャンルで近年よくある話なのだが、同人的な作品がメーカーによる商業展開を超えて拡散し、制御しきれなくなっている。
 本当は動画作成者が実プレイへの導線を用意してくれれば望ましいのだが、真っ向からそれを拒否した朝霧某氏の例を挙げるまでもなく、そもそも同人展開である動画作成者にはその義理も義務もない。もちろん動画作成者の中にはかなり親身に実プレイへの誘導を行っていたり、明らかに実プレイを想定してプレイヤーのモラルにまで踏み込んだリプレイ動画を作成している人もいる。しかし、往々にしてそういった「実プレイに役立つ、あるいは実プレイをメインとするプレイヤーから見て親切な動画」は再生数が稼げず、ハチャメチャな動画の方が何万もの再生数を稼いでいたりする。
 何よりも、あれだけの動画再生数を誇る朝霧某氏が、実プレイにおいては明らかに迷惑プレイヤーとしか表現できないプレイングをし、対応できなかったGMを公共の場で腐していたという時点で、実プレイの上手さや巧みさとリプレイ動画の再生数の間には何の相関関係もないことは明らかだろう。

 例えば、メーカー自身が実プレイへの導線をちゃんと用意したリプレイ動画をアップするという方法も考えられなくはない。何より、動画リプレイ専の人間というのはそのほとんどがルールブックすら必要とせず、雑誌も公式のリプレイも購入しないという時点でほとんど業界に寄与し得ていないと思われるからだ。*2とはいえ、著作権的な問題など、実際に実行に移すにはハードルが極めて高いのではないかと思われる。

 そもそも動画サイトの卓上ゲーム動画というのは、先ほども書いたように「同人誌の延長線上」にあり、一部では実プレイの代替物として存在していたふしもある。マイナーすぎてメンバーが集まらないタイトルを、プレイする代わりに動画で作ってアップするという意味だ。その根拠というわけでもないが、前にも挙げたとおり卓上ゲーム動画で使われているタイトルには、現在ルールブックの入手が極めて困難≒実プレイのハードルが極めて高いものがたくさんある。ワースブレイドやMARS2、番長学園大吟醸なんて、あちこちのコンベンションに顔を出している私でもここ10年卓が立っているのを見たことがない。パラノイアも、動画が流行し始めるまで滅多に見なかった(マニア受けするゲームだったので皆無というほどでもなかったが)。
 そのマイナーな存在が、動画サイトの急成長とともに公式メーカーの展開を凌駕しかねないほどに注目を集める存在になってしまった、というのが現状なのだろう。昨日の友野氏のツイッターを見れば分かるように、公式メーカーもクリエイターも戸惑っている。クトゥルフ関係のサポート関係がいい例だ。クトゥルフ動画の視聴者をまともに取り込む気があるにしては、ロールアンドロールの連載はあまりにもマニアックすぎる。動画サイトのリプレイ動画視聴者という存在が業界に前例がないために、どうやって導線を作ればいいのかというノウハウがないのだ。
 友野氏は自分の著書を紹介していたが、実際パラノイアの動画を見て友野氏の著作に辿りつく人間がどれだけいるだろう? そこに公式の導線はないも同然だ。いまだどのメーカーも「動画から実プレイへ」という誘導はできずにいる。とはいえ、一部の動画視聴者たちが主張するように、そこに巨大な市場が存在する、とは私は思わない。商業リプレイと違って、無料のリプレイ動画を視聴した人間のなかで実プレイを望む人間はごく一部だろうからだ。再生数はほとんど当てにはならない。
 しかし、動画視聴者のほんの少しでも実プレイに誘導し、そこで楽しさを見つけてもらえるなら、元々の市場が小さいTRPG業界にとっては無視できない数になり得るのではないだろうか。


 私なんかには全然先の見えない状況だが、恐らくオンラインセッションについてのノウハウをツイッターで公開している小太刀右京さんなどにはもっとずっと先が見えているのだろう。
 そしていつか新しい入り口からこの世界を訪れた人たちの手によって、業界がもっと活性化してくれれば、というのが、私の願望であり、希望である。

*1:もちろん普通ではない状況でそういう作品はいくつもあったわけだが、TORGもまたそれらと同じ「封印作品」になってしまった。

*2:これは動画サイト視聴者の悪い傾向なのだが、例えばMAD動画の再生数を増やしただけで素材元の業界に寄与していると考える人間が時折いる。が、もちろん実際には無料動画を何百万回再生したところで、サイト主催者でもないメーカーには1円の利益もない。エルシャダイがいい例だ。