今月のツッコミタイム(後編)

Role&Roll Vol.109

Role&Roll Vol.109


 さて、ツッコミ後半は「うちのファンタジー世界の場合は〜」である。前編はこちら

 今回の記事は、ちょっと乱暴に要約すると「中世の建物は建築技術が稚拙である上に石造りなので、思ったよりも部屋の広さは狭い」という内容になる。私は建築に詳しくないので、内容の真偽についてはわからないが、恐らく大きく間違ってはいないだろう。なので、ツッコミとしては以前の「図書館の話」のような事実誤認があるというよりは「金の比重の話」と同様「事実としては間違っていないが、どうやって実プレイに反映させるのか」という問題である。
 「うちの〜」も前回の「中世〜」と同じく、記事の内容をどうやって実プレイに反映させるべきかというサジェスチョンは記事内に一切ない。歴史的事実は事実として存在するが、それを実際のゲームでどのように扱うか、最終的にプレイヤーに関わってくるのはその部分だ。

 今回の記事の内容を「ルールに影響のある範囲で」実プレイに反映させようとした場合、主に以下の二通りのルール適用が考えられる。

1.中世の建物における通路は思ったよりも狭いので、前衛に立つことができる人数を少なくする(前衛に立てるのは一人だけ、など)

 一見すると、敵味方で前衛に立てる人数は同じなのでフェアに見えるが、実は明らかにプレイヤー側が不利になるルールである。
 まず前提として、多くのシナリオでPCは「戦闘の舞台となる場所」を選ぶことができない。防衛戦で、しかも敵を任意の場所に誘導できるようなシナリオならともかく、それ以外のシナリオは普通「敵のいる場所にPCが乗り込む」という形を取るだろう。その場合、戦闘に持ち込まれるシチュエーションはあくまでもGMが事前に設定したものであり、敵の数や状況をPC側が選択する余地はほとんどない。
 それを踏まえた上で「前衛に立てる人数を絞る」ことで有利になるのは「戦闘参加人数が少ない側」だ。前衛に立てる人数が少ないほど、前衛武器を持つアタッカーの攻撃能力を実質的に削ぐことができる。
 さて、PC側とGM側、どちらの方が人数が少ないことの方が多いだろうか。恐らく、一般的にはGM側の方が少ないはずだ(GM一人の処理能力で毎戦闘PCの人数を上回る数のユニットを管理するのは大変である)。ということは、ほとんどのシチュエーションで一方的にGM側が有利なルールだということになる。

 なお、もしあなたがSW2の標準戦闘ルールを用いているなら、前衛に立てる人数を制限するような選択ルールは基本ルールと矛盾してしまう(改訂版ルールブック1の乱戦エリアに関するルールを参照のこと)。参加人数によって強制的に乱戦エリアが広がるルールなので、制限外のキャラクターが近接戦闘に参加することを止めることができないからだ。記事内で紹介されているような狭い螺旋階段で、1メートルの間隔を開けて1列縦隊で階段を上るPC5人のパーティと、同編成で階段を下りようとするゴブリンの群れが接敵した場合を考えてみればわかる(奇妙に見えるかもしれないが、先頭の二人で乱戦エリアが成立した瞬間、9メートル離れている最後尾のPCと最後尾のゴブリンの間で近接攻撃が可能になるルールである)。

2.中世の建物における通路は思ったよりも狭いので、使用できる武器を小型のものだけに制限する

 キャラクター作成前に明言していたのであればまだ良いが、既に開始しているキャンペーンなどでこういうハウスルールを導入すると問題が生じる。この場合、先ほどのケースと違ってゲームごとに影響の度合いが異なるのがまたややこしいのだが。
 例えば、クラシックD&D(コンパニオンルールセットまで)や旧ソードワールドロードス島戦記などのルールで「今回から屋内ではトゥハンドソードやポールアームは使用不可とし、使える武器はロングソード、バスタードソードまでとする」と宣告されても、PCにはさほど影響はない。事前に買い物ができるチャンスさえあれば、それほどの戦力ダウンにはならないからだ。これらのゲームには武器の習熟に関するルールがなく、昨日までハルバードを振り回していた人間が今日からショートソード使いになっても、実データがそれほど変わらないのだ。特に必要筋力から打撃力が算出される旧ソードワールドは、キャラクターによっては武器が変わってもほとんどダメージが変化しない場合もある。このため、古いゲームではサブウェポンを持つのは冒険者の常識、なんて言葉も聞く。
 ただ、最近は多くのゲームに得意武器を規定する武器習熟度のルールがあるため、得意な武器がいきなり使えなくなるのは能力の一部を制限されるのと同義であり、その武器の習熟に払った経験点などのコストが無駄になる可能性がある。大型武器を使うのにスキル習得が必要なSW2、武器ごとにスキルが設定されているD&D3rd、武器種ごとにマスタリースキルがあり命中判定にボーナスがつくアリアンロッドなどだ。これらのゲームでは、サブウェポンを持つことすら少ないかもしれない(習熟していない武器を使っても結局役に立たないため)。
 また、SW2やブレイドオブアルカナの場合、軽武器を得意とするクラスと重武器を得意とするクラスが分けられているため、特定の武器だけを限定すると、ペナルティを受けるクラスとそうでないクラスに大きな差が出ることになりかねない。


 もちろんどちらの選択ルールも、特定のシナリオの特定のシチュエーションで(例えば一つのシナリオの一つの部屋だけ、など)スポットルール的に導入するのなら問題は少ないだろうが、この記事を読んだGMが「中世の建物は狭いのが常識だから」とキャンペーンのすべてのシナリオでPCの能力を制限すると、プレイヤーとしてはかなり辛い。
 結局、一番穏便な運用は「演出レベルに留める」というものだろう。例えば「依頼を受けに行った領主の館で、領主の部屋なのに天井が低く身を屈めないといけない」とか「旅の途中で立ち寄った傭兵団の駐留する城で、階段ですれ違えないのでPCたちが通り過ぎるのを待つ傭兵の姿を演出する」などだ。雰囲気付けとして今回の記事の内容を役立てるなら、この範囲での反映が一番望ましい。ダンジョンなどでは通路が狭く天井が低いということは十分承知しつつ、PCが振り回す武器や戦闘時の配置には影響を与えることはない、とするのだ。現実味のないルール適用に思えるかもしれないが、結果的には一番その他のルールと齟齬を起こさずに済むはずだ。