シティ・オブ・シーブス

ゲームのトラウマ晒してけ


 昨日一昨日と「ポート・ブラックサンド」や「ファイティングファンタジー」なんていう懐かしいキーワードを挙げたので、今日はゲームブックにまつわる昔話をしようと思う。


 ずっと昔、TRPGなんてものに触れるよりずっと前、書店で見かけた「アドベンチャーゲームブック」という聞き慣れないフレーズが、私とゲームブックの出会いだったと記憶している。当時、他にも恐らくゲームブックはあったはずなのに、まだ小学校低学年か中学年だった(はずの)私が、何故最初の一冊としてよりによって「盗賊都市」を手にしたのかは今もよく覚えていない。おいおい述べるが、表紙買いでなかったことは確かだ。
 まだゲームボーイもなく、ファミコンも持っていなかった頃だから「入手しやすさ」でゲームブックを手にとったことは恐らく間違いないのだが、結果的に私は生まれて初めて買ったゲームブックを「捨てる」羽目になった。「だから何?」とお思いかもしれないが、実は私は「趣味で買ったアイテムを捨てる」ことは滅多にないので、これは当時の私の行動パターンからするとかなり異例の行動である。


 捨てた理由は簡単だ。子供の頃ビビリだった私は、イラストが怖くなったのである。表紙も骸骨、挿絵も骸骨。どのイラストを見ても骨かおどろおどろしい怪物ばかり……。
 なんとも情けない話だが、イラストがふんだんに使われていたD&DやT&Tのルールブックには対してそういった印象が全く残っていないことを考えると、(それより多少幼かったとはいえ)やはり盗賊都市のインパクトは格別であったらしい。


 ただ、ずっと後年になってファイティングファンタジーのルールブックや設定資料集「タイタン」を読むにつけ、腑に落ちないことがあった。タイトルにもなっている“盗賊都市”ポート・ブラックサンドの支配者アズール卿は元海賊だが人間である。なぜ、盗賊都市は表紙から何から骸骨だらけだったのだろうか。幼心に「最後の敵も骸骨だった」と記憶していたのだが、アズール卿は骸骨ではない。
 なぜ、あんなに骸骨の印象が強かったのか……さらに時が経ち、インターネットという文明の利器を手に入れて、初めて謎が解けた。


 タイタンでもかなりのページを割いて紹介されている悪役「アズール卿」。インパクトが強いキャラクターだったので、てっきり「盗賊都市」の最後の敵はアズール卿だとばかり思っていたのだが、本当は違ったのだ。「盗賊都市」の最後の敵は「ザンバー・ボーン」というリッチ。リッチはアンデットなので自身は骸骨だし、もちろんスケルトンを使役してくるので骸骨も使う。幼少時の記憶もあながち間違ってはいなかったようだ。
 しかし、実のところザンバー・ボーンはポート・ブラックサンドには縁もゆかりもない。ただ、隠れやすいから使っているだけである。ザンバー・ボーンは別の土地を狙ってある策謀を巡らせ、それを阻止するために主人公は頑張るというのがあらすじなのだが、そのターゲットになっている土地は「盗賊都市」のストーリーには全然関わってこない。このゲームブックの舞台があくまでもポート・ブラックサンドなのは、著者がそれだけこの街を魅力的な場所としてデザインしたからだろう。
 ちなみに私にトラウマを植えつけそうになったこのイラストを描いた人は、後にスターウォーズのパドメやダース・モールをデザインしたり、ハリー・ポッターの製作に関わったりしたすごい人らしい。


 そう考えると、私は随分もったいないことをしてしまったことになる。とはいえ……幼かった頃の私にこのイラストはインパクトが強すぎた……。