ルーンクエスト
ルーンクエストは、私のTRPG経験の中で少々特異な経験をしたゲームとして記憶に残っている。
前にD&Dの回で書いた「DMの引っ越しで次のDMに指名された」その日以来、私はプレイグループの中では牽引役になることが多かった。人望があったとか行動的だったとかそんな理由ではなく、ただ単に「何が何でもTRPGをやりたい」と一番志向していたのが私だったからだ。今のプレイグループはTRPGという共通項で集まったメンバーだから皆熱心だし詳しいが、最初にいたプレイグループ、次のプレイグループは「学校の友人の集まりでたまたまTRPGをやろうという話になった」メンバーなので、TRPGに対する熱意には温度差があった。
ルールブックを片端から集めているのも、雑誌記事を追いかけているのも、関連書籍をチェックしているのも、グループの中で私だけだったりすることも多かった。要は私がやりたいやりたいというから付き合ってくれた友人たちであり、私が何も言わなければ別のことをして遊んだであろうメンバーだったのだ。*1
そしてある日、私は日常とは違うTRPG体験を求めて、地元のTRPGサークルが主催するコンベンションに顔を出した。私が小・中学生の時代に、既に高校・大学生、社会人までを含む、それなりに規模の大きなサークルだった。彼らは私などよりもっとずっとTRPGにもそれ以外のことにも詳しかった。未訳のTRPGを翻訳したり、コミケが今ほどメジャーになる遥か前なのに同人誌を作っていたりした。
そのコンベンションでのTRPG初体験がルーンクエストだった。
- 作者: 桂令夫,グレイローズ
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 1992/10/01
- メディア: 大型本
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キャラ作成方法から世界観の説明まで、上げ膳据え膳の人任せ。主導権を「自分でない誰か」が握るセッションは、D&D初体験の時以来の経験だった。今から考えると、オーランシーやフマクティのいるメンバーでいきなり「ルナーの士官で参加したい」と言った私は相当な困ったちゃんだったはずだが、恐らくは初心者向けのサービス卓だったのだろう。*2
BRPのわかりやすさに感心したのもこの時だった。*3自分がこれからやろうとしている判定の成功率が目に見えてわかるというのは、プレイヤーから見ると非常に安心感がある。反対にGMから見ると「その行為にその成功率は担保したくないな〜」と思っても、マイナス修正を掛けると露骨に失敗を押し付けているようで、アンビバレンツを抱えるシステムではあるのだが……。
それ以後、私は何度かそのサークルに顔を出した。元々サークル外の人間(それも年下の)が来るのは珍しいことだったようで、すぐ顔と名前を憶えられた。逆に、私から見るとメンバーがコロコロ変わり、サークルの全容をつかむのは容易なことではなかった。そのサークルで遊ばれていたタイトルは、普段所属しているプレイグループではほぼ遊ぶことのないタイトルばかりで、毎回新鮮な驚きがあった。カルトミッションで人間関係が交錯するルーンクエスト、設定が難解なワースブレイド等々、玄人好みのタイトルが多かったように思う。
操兵の書〈第1巻〉西方操兵 (ワースブレイド ハンドブック)
- 作者: 伸童舎ワース・プロジェクト
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 1990/06/01
- メディア: 単行本
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また、シナリオにPC同士の大人の恋愛関係っぽいものを絡めるのも、当時の私にはとてもできない芸当で「年上って凄いなー」とぼんやり思ったのを覚えている。
ただ悲しいことに、ある時そのサークルの活動はふっつりと途絶えてしまった。
「みそっかす」だった私には、その時何が起きたのかはわからない。インターネットもメールも携帯電話もない時代である。サークルのHPなんてものもなかった。ただ定期的に開かれていたコンベンションが開かれなくなり、情報交換に使われていた地元のパソコンショップ(今はなき某所のJ&P)の交流コーナーにまったくメッセージが載らなくなった。
サークルのチラシで連絡先は知っていたが、目上の人の自宅にこちらから電話するのは憚られた。手紙を出そうか迷いつつ時は過ぎ、しばらく後になって地元のホビーショップで当時親切にしてくれた人とすれ違い、声をかけた。
「みんな忙しくなっちゃったからね」とその人は言った。「また何かやりたいとは思ってるから、その時にはぜひ来てよ」と。ただ会話を交わす中で、その人が新しく出たTRPGにほとんど触れていないことはわかった。どうやら同じホビーショップの別のコーナーに用があったらしい。
その頃の私には、まったく理解ができない話だった。プレイグループ内のTRPGに対する熱意の差に悩まされていた私には、あれだけの人数がいて、みなTRPGに対する意欲も知識もあるサークルは、まさに夢のような空間だった。それがどうしてTRPGをやらないなんてもったいないことになってしまうのか、さっぱりわからなかった。
今思い返せば、もちろん事情は察せられる。
あれだけの人数がいれば派閥も人間関係もあったろう。恐らく幹部の人たちの間で何かが起きたのだ。メンバーには女性もいたし、もしかしたら恋愛関係の何かだったかもしれない。恐らく私を気遣って、何も知らせなかったのだろう。その人に会ったのは、それが最後だった。
そして、今でもルーンクエストの名前を見るたびに、淡くほろ苦い思いが蘇るのである。