笑いの日

ソード・ワールド2.5 ルールブックII (ドラゴンブック)

ソード・ワールド2.5 ルールブックII (ドラゴンブック)


 ソードワールド2.5の話。
 例によって辛口なので折り畳みます。嫌な人は回れ右でお願いします。











 実は、この間書いた部分の他にもツッコみたいところがいろいろある。最初はタイトルを「怒りの日2」にしようかと思ったが、もはや怒りを通り越して笑いが込み上げてきたので、今回のタイトルは「笑いの日」にさせてもらった。

行為判定の再挑戦について

 まずは、ルールブック44−45ページに記載されている「行為判定の再挑戦」ルールである。

 最初に誤解のないように断っておくと、私は行為判定の再チャレンジそのものは悪くないアイデアだと思っている。判定に失敗してセッションの進行が停滞したまま打つ手がないよりは、再チャレンジによってセッションが進行できるようにした方が、もちろん望ましい。
 ただ、問題はその「やり方」である。

 ルールブック44ページにはこうある。原文をそのまま引用しよう。

 『所要時間:一瞬』以外の行為判定において、代償やリスクを伴う行為判定は、失敗した後でも状況が許すなら、再びその代償を支払ったり、リスクを負ったりすることで、再挑戦が可能です。例えば、空気が悪く、10分間滞在すれば、ダメージを負う、または、負う可能性のある部屋で探索判定を行う場合、失敗後に再び10分の時間を掛けてこれを行うことが可能です。


 そして、次の45ページにはこうある。

 行為判定の中には、(時間経過を除き)状況が変化しないものがあります。たとえば、探索判定で隠された物品を探したとして、それに失敗しても、何も見つけられないだけで、物品は隠されたままそこに存在しています。そして、前述の代償やリスクを伴うものと異なり、行為判定を行ったキャラクター自身にも変化はありません。
 こうした場合に同じPCが再挑戦を行うときには、行為判定の所要時間が長くなります。


 ……は?
 いやいやいや。この左右のページを見比べて、違和感を覚えないっておかしいでしょ。

 だって、この文章をそのまま読むと「同じ『隠された物品を探す』探索判定であっても、空気が悪い場所で判定するとそのままの時間で再挑戦でき、空気のいい場所で判定するとより時間がかかる(探索判定でいうと1段階悪化のため、10分が1時間になり、所要時間は6倍)」ってことになる。

 想像してみて欲しい。例えば文献判定。同じ文献から同じ手がかりを探すのに、毒ガスが充満する部屋で探す方が、自宅の自室で探すより早く手がかりが見つかるのだ。
 もし、中学生時代の私だったら、宿屋の自室の椅子に(10分で1ダメージを受けるくらいの)剣山を敷いてその上に座り「ダメージを受けるリスクあるから、そのままの時間で再挑戦(1時間に6回判定)します!」とか目をグルグルさせながら主張すると思う。

 もちろん、言いたいこと、やりたいことはわからないでもない。リスクや代償を伴わない状況でそのままの所要時間で再挑戦できるのでは、最初の判定をさせた意味がない、ということだろう。
 ならば、MPや所持金を減らすなど、別の代償を支払うようにすればよいのだ(もちろんリスクがあろうがなかろうがどちらの場合でも)。左右のページを見比べただけで矛盾を生じ、私程度でも2秒で抜け道が思いつくようなルールが、理系デザイナーの視点から見て数学的に美しいルールだとはとても思えない。

 また、このルールを逆手に取った裏技もある。
 リスクがあるかどうかわからない状況(敵の追っ手が追跡してきているか、いないか不明な状況など)で、おもむろに「捨て判定」を行い、わざと失敗する(跳躍判定あたりがいいかもしれない)。次に、その判定への再挑戦を宣言する。すると、上記のルールに則る限り、GMは「判定にかかる所要時間を答える」という形で、その状況が「リスクのある状況」かどうか間接的に返答を強制されるのである(上の例で言えば、追っ手が来ているかいないかを答えなければならない)。明らかにおかしいだろう。


 なお言うまでもないが、実プレイでの実行を勧めているわけではなく、あくまでも一種の思考実験なので念のため。

所要時間を短縮して行為判定を行うことについて

 次にヤバそうなのが、49ページの「所要時間を短縮して行為判定を行う」である。
 私自身は元々、旧ソードワールドの魔法行使のルールにあった、精神力を多く消費することで範囲を拡大したり、抵抗しにくくするというルールが大嫌いだった。理由は簡単で、魔法を使おうとするたびにプレイヤーが期待値の計算を始めるため、セッションが停滞するからだ。しかも、時間がかかる割には物語そのものにはほとんどポジティブな影響を与えない。
 とはいえ、魔法のルールは魔法使いにしか関係ないし……と思っていたら、今回追加されたルールがこれである。行為判定はどんなPCもチャレンジできるので、理論上は全てのPCに影響が及ぶ。

 所要時間が「1分」以上の行為判定は、本来より所要時間を縮めることができます。所要時間の減少は、「判定の再挑戦・短縮の時間」の図を用います。この図で、1段階分の減少を行うごと、達成値に「−2」のペナルティ修正を受けて行為判定を行うことができます。このとき、一度に何段階下げてもかまいません。ただし、所要時間の最低値は「10秒」で、これより短くすることはできません。


 これ、実時間を表記してなければいいんだけど、このゲームは実時間を使ってるんで演出レベルですっごいバグる。例えば、基本ルールの登攀判定にこれを適用すると、なんと−6のペナルティを受けて判定に成功すれば「高さ19メートルの崖を10秒で登る」っていう凄い状況が再現できるし、罠を設置するのも相手を尾行するのもなぜか10秒で終了してしまう(そもそも高さを定めない登攀判定や距離を定めない尾行判定の所要時間がルールで決まってるのがおかしいのだが)。
 続く50ページのコラムには、探索判定の時間短縮について「10秒で行う探索判定であろうと、PCはその場に足を踏み入れ、怪しい場所に触れながら調査を行っています」と書いてるんだけど、デザイナー氏の10秒はどんだけ長いんだよっていう。10秒だよ? 10秒。


 なお、その50ページのコラム自体も割とアレで、要は「10秒に短縮して探索判定ができるからといって、既存の罠回避判定や異常感知判定と効果は変わらないんだから、いちいちやるな」という内容なんだけど……これ、やっぱり中学生時代の私だったら「それでもやる」と思うね。
 なぜなら、罠回避判定や異常感知判定は「GMがプレイヤーに明かさずクローズドダイスで行うもの」とされていて、探索判定は「プレイヤーが積極的に使用を宣言し、ダイスを振るもの」だから。一般論だけど、プレイヤーはGMをそこまで盲目的に信用しない。特に「させなくてもいい判定をさせてやった」なんてリプレイで書いてしまうような人がデザインするゲームでは。
 この二つを並列で論じてる時点で、この文章を書いた人はプレイヤーの心理がよくわかってないんじゃないかなぁ、というのが率直な感想である。