ところで、プレイヤーの退場で一番思い出深いのは、菊池たけしさんの「フォーチューンの海砦」の第一部と第二部の間で起きた、プレイヤー二人の退場劇。本当だったら「忙しくてプレイヤーが参加できなくなったから」とでも、いくらでも誤魔化せたはずだけど、菊池さんはRPGマガジンでわざわざ紙面を割いて「プレイヤーに不快な思いをさせてしまった、それは自分のマスタリングのせいで、誠に申し訳ない」とちゃんと説明したのだ。その経緯はウィキペディアにも書かれている。
この執筆者は触れていないけど、まず「事情を正直に読者に説明する」という行為そのものがすごく勇気の要る行為だ。たとえ商業リプレイとはいえ、実際はこういう形で空中分解したリプレイは他にもあると思うんだけど、赤裸々にそれを告白したのは私の知る限りこれだけだ。
この時期の菊池さんは一番辛かった頃ではないかと思う。正直に言えば、菊池さんはもう終わったと思っていた。まさかその後、年に何本ものリプレイを上梓し、サプリメントを執筆するライターとして華麗に復活を遂げるとは夢にも思わなかった。
ただ、この頃の辛い経験、いわばプレイヤーに逃げられるという屈辱の体験が、プレイヤーの発言を拾い、シナリオ展開を予想外の方向に持っていかれながらも、それを逆手にとって新シリーズ「デスマーチ」をスタートさせるという、災い転じて福となすエネルギッシュなマスタリング技術に繋がっているんだろうな。