変節の理由


 昔……つまりまだトーキョーNOVAの革命を受け入れられていなかった頃は、ツクダ版のファンの多くが「この変貌には何か理由があるのでは?」と考えた。それまで「反体制派の不良警官」だったのがある日突然「バリバリの体制派でわからず屋の上司」になったわけだから、裏に何か隠された事情がある、と思うのは当然だろう。
 現に当時プレイされていたM2主催のトーキョーNOVAのメールゲームでは、レンズには秘密の目的があって、その目的を果たすまでは仮面を被っているのだ、という描写があった。
 ところが後でわかったところによると、このメールゲームの展開はTRPGのスタッフがまったく関知していない、つまり独断による展開だったらしい。ある程度自由にやっていいということだったのだろうが、レンズの描写に限らず重要NPCをあっさり(それも大量に)殺してしまうなど、そのやり方はファンの間で論議を呼んだ。
 そのメールゲームの最後の展開が「ブラックハウンドによるクーデターの決行」という、これまたとんでもないものだった。物語の展開としてはレンズがこういった行動に出る必然性はまったくと言っていいほどなかったし、彼の動機も目的もメールゲームのプレイヤーたちには謎のままだった。一説には「NOVA軍の進駐によって『日本』が支配することになったNOVAに自由を取り戻そうとした」らしい。
 もちろんそれを聞いたプレイヤーは、誰もが手を振りながら「ないわー」という反応だった。
 ブラックハウンドは“日本”の治安警察である。そのブラックハウンドが“日本”軍に対してクーデターを起こして何の意味がある? 「日本をアメリカの支配から解放する」といって在日米軍アメリカ大使館を占拠するようなものだ。支離滅裂で意味不明である。
 
 そして……である。メールゲーム終了後、TRPG版のスタッフはこのメチャクチャな展開を「なかったこと」にはしなかった。TRPG的にいえば「トンデモプレイヤーが口走ったトンデモ設定を全部拾った」のである。ここが凄いところだ。
 死んだNPCは生き返らなかったし(驚くほど沢山のNPCがリストから消えた)、クーデターは決行された。レンズの扱いはどうなったか? 簡単だ。支離滅裂で意味不明なことをした彼は、支離滅裂で意味不明な人間だ、という設定が追加された。
 しかし、レンズのやったことはまったく無意味ではなかった。彼の行動、そしてメールゲームのgdgdなストーリー展開を見て(たとえそれが反面教師的な意味であったとしても)遅まきながらオールドファンも気づいたのだ。「革命」の真の意味に。

 「革命」とは、何の脈絡もなく唐突に、今までなかったものが現れたわけではない。それまで隠されていたものが表に現れただけなのだと。そして、昔に戻ろうとする行為には何の意味もないのだと。