憎まれっ子は……?

アイマスをとりまくいろんな話


 ファンの目線から見て違和感を覚えた部分についていくつか。


「憎まれ役を買って出る」ことと「ファンの神経を逆撫でする発言を繰り返す」ことは似て非なるものであると私は思う。


 確かにアイドルマスター2の現状そのものの全責任が石原氏にあるとは思わないし、彼にそこまでの権限があるはずがないというのはもっともだ。
 しかし、製品の出来が酷いことそのものに対して、たまたまメディアに露出していた石原氏だけが叩かれることになったわけではない。それに近いのはむしろ坂上氏の方だ。石原氏の場合、アーケード版の頃から既に不具合の告知などで発言が不適切であることをファンから指摘されている。つまり「アイドルマスター2がファンから不評を買うことが予想されたのであえてメディアに露出した」のではなく「昔からファンを玩弄しているとしか思えない発言が多い」のだ。保守的なオタクには受けなくていい発言然り、ついてこれる人だけついてこい発言然り、支持してくれないとプロジェクトが終わるよ発言然り。要するに自分の舌禍が招いた事態である。
 もし石原氏の言動が自ら憎まれ役を買って出ているだけで、自分ひとりの意志ではないというのなら──このユーザーを馬鹿にしているとしか思えない発言は、プロジェクトアイマスに関わる全ての人々の総意であるということになりかねず──より酷く救いようのない結論が導き出されてしまう。私は、プロジェクトアイマスはそこまで腐っているとは思いたくない。
 そもそも、プロジェクトアイマスが予定通り順調に進んでいるのであれば「憎まれ役」なんていらないし、それを買って出る必要性もなかったはずだ。石原氏は単なる憎まれ役だ、というのは一見石原氏を擁護しているように見えるけれど、とりもなおさず「アイマス2は“憎まれ役”が必要な状況にまで追い込まれている」ことを暗に認めていることになる。


 ちなみに、私はアイマス2の現状を招いた「主犯」は、石原氏でも坂上氏でもなく、バンナム代表取締役副社長、鵜ノ沢氏であると考えている。彼がバンナムのゲーム部門にセクション制を導入し、不振を理由にアイドルマスター黎明期を支えた数々のクリエイターを鶴首したがゆえに、アイドルマスター2はあんなゲームになったのだとしか思えないからだ。


バンダイナムコHDグループ再建案を発表 現場の責任を明確化


 トピ主は石原氏を「アイマスの父親」と呼んでいる。確かに彼がアイマスで果たした役割は小さくはない。しかし、XBOX360版アイドルマスターにもアイドルマスターDSにも、石原氏は大きく関わっていない。それを作った人間の多くは既にプロジェクトに、そして会社に残っていないのだ(そして彼はテイルズシリーズで有名なディレクターの某氏同様、自分が関わらなかった作品のキャラクター、例えば星井美希などを非常に軽く扱う人物だという疑いがある)。


 そここそが最大の問題だ。


 根源はスクエニと同じだ。人材が足りない。その全責任を人事権を持たないであろう石原氏に負わせることは確かにできない。FF11でいえば、伊藤氏や藤戸氏がいかにユーザーに対して過酷なバージョンアップを強いたとしても、一義的な責任はクリエイターをリストラしまくった和田社長にある。
 しかし、だからといって残された人間がファンに対して暴言を吐いたという事実を免罪することはできないが。

 あと、これはもう何度も言っていることだが「自分でゲームを見て(プレイして)考えて語れ」というのは、ことゲームに関しては不適切だ。プレイする時点でゲームを買う=対価を全額支払い終えているシステムなのに、どうして自分が支持しないゲームに対価を支払えるというのか(その意味では、ゲームとアニメは少し状況が違うのかもしれない)。

 トピ主はまとめサイトのことについても触れている。例えば私もあちこちのまとめサイトを見ているし、その情報を参考にすることもあるけれど、こと9.18事件に限っていえば、その原因がまとめサイトにあり、サイト管理人の意見にみんなが流されたからだというのはどう考えてもあたらない。それは9月18日にTGSで何が起きたか実感として感じ取らなかった人間の台詞だ。


 あの日あの時、ジュピターのムービーが流れた瞬間、確かに会場は凍りついた。



 USTの生放送を見ていればあの瞬間の空気が感じられたはずだし、当時の動画はその後あちこちで見ることができる。9.18直後このブログで取り上げた動画にもあったが、UST鑑賞者が「一体会場で何が起きたんだ!?」と絶句するほどの変化がその瞬間起きたのだ。まとめサイトがリアルタイムで会場の空気を凍りつかせることなどできるわけがない。取り上げられたのはずっと後の話だ。9.18事件は間違いなく、バンナム自身がTGS会場で引き起こしたことであり、アニメに対する不信はその延長線上にある。引き金を弾いたのはバンナムだ。
 あの凍りついた空気を変えることができる最初の(そしてもしかしたら最後の)チャンスが、同日ファミ通COMに掲載された石原氏のインタビュー記事だったはずだ。しかし僅かな希望は彼の手によって粉々に打ち砕かれた。

 ユーザーコミュニティの広がりによって高い人気を得ていたコンテンツのクリエイターが、ユーザーコミュニティを自ら否定する。
 それが例えば東方のZUN氏のように、自分一人で作り上げた世界を自分で壊したというのならまだ納得できる。そうではなく、沢山の人間が作り上げたものを、去るしかなかった者たちから引き継いだはずの人間が、真っ向から否定する。
 これは憎まれ役を買って出たことになるのか? どう考えても違う。そうではなく、不信と崩壊を加速させただけだ。ちなみに彼はこの発言に対し、いまだ一言の釈明も行っていない(謝罪しろという意味ではないので念のため)。
 
 確かに、個性の強いクリエイターほど、あちこちで様々な発言をするものだ。アニメ監督の宮崎氏や富野氏もそうだろう。その発言に説得力があるか、あるいはそれが許容されるか否かは(内容そのものが非人道的なものであったりしない限り)発言内容のみならずその人物が何を作ってきたかによって左右される。ユーザーを内心で馬鹿にしていようが、問題発言をしようが、面白い作品を作ってくれる、あるいはユーザーに夢を見せてくれている間は許されることもある。

 しかしそれは、優れた作品を生み出している間だけだ。ユーザーの頭をぶっ叩いて夢から覚めさせてしまえばそうはいかない。ゲームをやってる間に腹立たしい発言の数々が思い出されてくるようでは、ゲームに没入できるはずがない。
 ならどうすればいいんだよ、と製作陣は思っているかも知れないが、私の答えは一つ。


 どうしようもない。


 この状況をひっくり返す、たった一つの冴えたやり方なんてない。地道に堅実な努力を重ね、徐々に信頼を回復していくしかないのだ。でなければ……このまま消え去るか、二つに一つだろう。
 道は険しく長く、そして暗い。バンナムとしてはこのままプロジェクトそのものをフェードアウトしてしまう方がずっと楽だろう。その可能性は決して低くない。だが自らの道を険しいものにしたのは、ユーザーの勘違いでもなければまとめサイトの管理人でもない。彼ら自身だ。他の誰にも責任を転嫁することはできない。