長文注意

 先日ちょっとエントリで取り上げたことについて友人と話したので追記したいと思う。このブログはただでさえ「個人的には」を連呼するブログなのだが、今日これから述べることについてもあくまでも私見であること、そして特定の個人についてどうこういうことが目的ではなく、あくまでも一般論であることをお断りしておく。

TRPGにおいて「プレイヤー知識」を元にルールにない処理を行うのは有りか? 無しか?

 無しである。ただし……。


 昔のTRPGには、この手の話が尽きなかった。有名な話では「粉塵爆発」「首ナイフ」などがある。

【粉塵爆発】
(俗語:TRPG
 大気中にある一定濃度の粉塵が浮遊しているとき、火花などが引火して大爆発する現象。石炭の微粉末による炭塵爆発が代表的だが、小麦粉や砂糖でも起こりうる。
 「火薬がないのに大爆発」というインパクトがうけて、サバイバルを扱ったフィクションではしばしばこれを狙って発生させる戦術が登場する。その影響で、TRPGでも粉塵爆発の発生を狙うプレイヤーは多かった。特にファンタジー世界を舞台としたTRPGでは、火薬なしで起こせる粉塵爆発は非常に魅力的に映ったのである。
 GM側からは、プレイヤーの発想は極力尊重したいと考える一方で、ファンタジー世界には粉塵爆発を分析・再現する知識は存在しないだろうという反論、また、魔力を消費しての爆発呪文などと同等の威力を、小麦粉の袋で安易に叩き出されてはゲームバランスが崩壊するという不安が存在した。
 決定的な解決方法は未だ存在しないが、『異界戦記カオスフレア』にはそのものずばり《粉塵爆発》という特技が、また『迷宮キングダム』には、なぜか爆発物として機能するアイテム「小麦粉」が登場する。一連の論争を踏まえたギャグであると同時に、ルール上で明確に定義することで、安易な粉塵爆発狙いを封じているとも考えられる。
 なお、現実の粉塵爆発の発生しうる濃度は偶発的であり、乱暴にやっても成功することは少ない。

http://www16.atwiki.jp/takugedic/pages/33.html#funjinbakuhatu


 プレイヤー知識とキャラクター知識を混同する、という問題については「ルール外の処理を求めて有利に進めようとするケース」と「ルールに則って有利に進めようとするケース」の二種類がある。標題に挙げたのは前者であり「粉塵爆発」に近い。粉塵爆発についてルールには規定がないにも関わらず、爆発が起き得る状況をプレイヤー知識を動員して再現し「これで爆発が起こるはずだ」と強弁するというタイプだ。


 ここでは粉塵爆発を例にとって話を進める。


 粉塵爆発が問題となる理由は大きく分けて2つ考えられる。一つ目は「ルールに規定がない」もう一つは「現象そのものが一般的なファンタジーRPGにそぐわない/明らかに現代の科学知識があることを前提としている」。


 「ルールに規定がないのだから却下する」というのはある意味で正しい。しかし、TRPGのルールはゲーム中に発生しうる全ての状況を網羅しているものではない。当然、弁の立つプレイヤーからは「じゃあ、ルールブックにはモンスターが呼吸するというルールがないので全員窒息死ね」などという反論がくるかもしれない。ルールにない事象については、私はあまり好きな言葉ではないが「常識の範疇で」GMの判断に任されることになる。
 私が「ただし」と書かざるを得なかったのはそのためだ。GMとプレイヤーのコンセンサスが得られていれば、ルールに規定されていない事象も認められる。例えば、PCがいちいちトイレに行くルールを記述しているルールブックはほとんどないが、記述がないからといってPCはトイレに行かないと強引に主張するプレイヤーは滅多にいないだろう。


 ここからが本題だ。粉塵爆発だけでなく、プレイヤー知識を動員してルール外の処理を求めてくるプレイヤーは、GMにコンセンサスを求めている。用語時点にも書かれている「プレイヤーの意思をできるだけ尊重する」という点を逆用してくるわけだ。*1GMがそれを認めたら、その時点でコンセンサスが得られたことになり、粉塵爆発は成立する。


 果たして、GMはプレイヤーの提案を認めるべきか?


 先程2つ目の理由に挙げたとおり、粉塵爆発という現象そのものは、一般的なファンタジーRPGの情景にはそぐわない(爆発を起こすことで敵にだけダメージを与えたいというのは、明らかに火薬の存在を念頭においている)。ただこの主張も、裏を掻こうとするプレイヤーはいる。いわく「魔法があるんだから、中世ヨーロッパよりファンタジー世界の方が科学的知識は豊富なはず」「『偶然』爆発が起こるような状況を作るのは知識がなくてもできるはず」など。


 一つの判断材料として、プレイヤーが何を求めているのか、が挙げられる。ゲーム上で起こる事象が同じであれば、状況によって異なる判断をするのはアンフェアに見えるかもしれない。しかし、その提案がなされた状況によって、行動の持つ意味は大きく異なってくる。


 例えば、プレイヤーがただ単に「敵への攻撃手段として、大ダメージを与えるために粉塵爆発を起こしたい」とする。もっともあり得るのがこのパターンだが、これは却下すべきだ。なぜなら、そのゲームにおいては恐らく「ルールに則って敵に大ダメージを与える手段が他にも豊富に用意されている」はずだからだ。他のプレイヤーがルールに従っているにも関わらず、一人のプレイヤーがルールを無視して有利になろうという提案を認めるべきではない。また、他のプレイヤーも一緒になって悪乗りしている場合も結論は同じだ。GMが戦闘という通常の解決手段を用意している以上、プレイヤー知識を元にそこに抜け道を認めるというのは望ましくない。一度認めたら、同じ面子においては何度も何度も同じ状況が繰り返されるだろうから、ゲームバランスを理由にはっきりと却下してしまった方がいい。
 ただ、粉塵爆発を却下するか、ダメージを却下するかはGMによって違うかもしれない(提案したプレイヤーにとってはたいした違いはないかもしれないが)。「爆発自体起こらない」とするべきか、それとも提案を一部受け容れ「爆発は起きたが敵にはダメージは1ポイントも行かなかった(ルールにないから)」とするか(言い換えればただの演出で済ませてしまうということだ)。理想は前者だろうが、プレイヤーの意思を最大限汲むというのであれば、私は後者でも構わないと思う──一度だけなら。*2


 そうではなく、例えば「目の前に立ち塞がる閉ざされた扉をなんとかして開けたい」という状況だったとしたらどうするか。まず、GMが用意した他の解決手段はないのかどうか。ある場合は「粉塵爆発以外の方法で開けられるのでそちらを探して」と断言するのも一つの手だ。「爆発は認めるが開かなかった」としてもいいのだが、経験上、そういう場合プレイヤーは次の想定していない方法を探して悪戦苦闘しだす可能性があるので「今やろうとしていることは見当違いであり、正解は別にある」とはっきり言ってしまった方が上手く回ることもある。
 もし、自分が用意した「正解」より粉塵爆発の提案を採用した方がいいとGMが判断するなら、爆発によって道を切り開けたとしてもいいかもしれない。特に、それが「正解に辿り付けないプレイヤーの苦し紛れの最後の手段」だった場合、GMの設定している正解とプレイヤーの考えている状況に大きな乖離がある可能性が高い。その時はいっそ粉塵爆発を認めて、シナリオのブレイクスルーとした方がプレイヤーのストレスが少なくてすむかもしれない。*3
 ただし、繰り返すが一度認めると次に同じ状況を作り出された時に却下する理由がなくなる。そのため「理想は却下すべき」なのだ。


 もちろん上に挙げた粉塵爆発の例は、他のケースにも当てはまる。


 他によく聞く例としては「村の近くに住みついたゴブリンを退治してくれ → ゴブリンの巣穴で藁に火をつけて煙で燻し出す」というものがある。もちろんプレイヤーとしては戦術的に有利になるだろうと考えてこういう提案をするのだが、GMとしては「プレイヤーの提案をできるだけ採用したい」「しかし考えたダンジョンが全部無駄になる」というジレンマに陥る。
 そもそも、ファンタジーRPGにおいてPCたちが入手できる一般的なアイテムのみでゴブリンの巣穴が燻し出せるものなのか、それは先の例の「粉塵爆発がどのような条件で起きるのか」と同様、完全な正解を知っている者はほとんどいない。また、GMに正解を求めるのも筋違いである(知識のある者以外GMをやってはならないという結論になるからだ)。
 ゆえに「君たちの持ち物ではどうやっても燻し出すのは無理」)と却下してもいい(根拠はなくてもいい)だろうし、「他にも出口があるのか煙は洞窟内に滞留しないようだ → 効果なし」としてもいい。*4
 どのような処理をするにせよ、それをルールに基づき絶対に正しいと断言できる者は存在しない。「ゴブリンは麓になど行かないはず」「ゴブリンは窒息するはず」──それが正しいと立証できる者は誰もいない。ルールで処理できない行動の成否を巡って議論するのは無駄な時間だ──正解がどこにもないからだ。煙に巻かれたゴブリンの攻撃力が上がるか下がるか、どっちが正しいか証明できる人間がいるだろうか? どこにもいはしない。
 まして、自分の方が相手より知識があるから/経験豊富だから/専門分野だから/未訳のサプリを読んでいるから正しいなどと強弁するのはもっての外だ。GMに対してルール外の処理を求めたところ、GMが自分の知識不足を認めた上で却下した──これを糾弾するのは、GMからみれば理不尽以外の何者でもない。


 TRPGは自由なゲームだ。どんな行動でもできる。──この手の説明をする紹介記事は多い。未だになくならない。この「どんな行動でもできる」を誤解したプレイヤーが、GMの裏を掻く口プロレス技を仕掛けようと虎視眈々と狙い出すようになるのではないだろうか。TRPGはプレイヤーとGMが戦うゲームではない。GMがプレイヤーを言い負かしても、あるいはその逆になっても、セッション全体としては言い争いになった時点で「負け」なのだと言ってもいい。


 これは、決してごく一部の常識外れのプレイヤーだけの行動ではない。実は、昔は公式のリプレイですらこういうことは起きていた。(続く)

*1:もっとも個人的には、プレイヤーの意思をできるだけ尊重しろなどとプレイヤーが要求しだしたらもうその時点でアウトだと思うが……。

*2:プレイヤーの態度が望ましくないと考える熟練のGMなら「爆発は起きたが、それによってむしろPCが不利な状況に追い込まれた」とするもしれないが……それをやると報復合戦を誘発しかねない。

*3:とはいえ、そもそも「どうしようもなくなってしまった → 粉塵爆発、という発想自体がどうかとは思うが……。

*4:アドリブ型のGMの場合、粉塵爆発と同様、プレイヤーの提案を拾いつつもズルには報復しようとする可能性がある(昔「RPGなんて怖くない」という本で「アドリブマスターの方がシナリオがバッドエンドになってもいいと思う率が高い」というアンケート結果が出たことがある。)ので「別の出口から逃げ出したゴブリンが麓の村を襲う」とかそういう展開に発展するかもしれない。