そりゃ逃げるわ

Kickstarterと早期アクセスを利用した恐竜ゲーム スタジオヘッドが賃金支払わず完成前に失踪


 ゲーム業界では、かつては斬新なアイデア、いまや知ってて当たり前のように語られつつあるキックスターター。でも他の業界で考えたら、これほど異常な制度もないと思う。設計書すらできていない家に建築費用を払う持ち主がいるか? 企画段階の車をローン組んで前払いで買うオーナーがいるか?
 ゲームの制作費が高くなりすぎた。だから制作費用を制作前に回収しなくてはゲームが作れない、と制作者はいう。発想が逆じゃないの? 制作費が高くなりすぎたのなら安くするしかない。グラフィック? そんなものはPSPレベルでもDSレベルでも売れることをスマホ向けゲームが証明した。ゲーム会社の企画会議はグラが最新ハード並みのクオリティでないと通らないという噂も耳にしたことがある──そして実際、市場に出るゲームのラインナップを見ると噂は正しいとしか思えない──が、あべこべだろう。5万しか売れないと採算が取れない、ではなくて、5万売れれば採算が取れるクオリティで作れという話ではないのか。
 アニメーションや音楽や映画が、10年前に比べて制作費が10倍に跳ね上がったなんて話は聞いたことがない。ゲーム業界だけが異常なのだ。


 全ての人間が善意の動物とは限らない。適当に作成中のゲームの画像を見せ、プロトタイプを触らせるだけでジャブジャブ金が入ってくるなら、残りを作らず逃げようという人間が出てきてもおかしくはない。キックスターターという制度はそういった悪意に対するセーフティが十分されているようにはとても見えない。
 なお、クラウドファンディングを紹介するページには大成功した例の一つとしてMightyNo.9が挙がっているが、いまだゲーム本体すら発売されていないことはいうまでもない。


クラウドファンディングで大成功した日本のプロジェクト7選


 つまり、全てがそうだとは言わないが、キックスターターを推している一部の人たちにとっての「成功」とは「金集めに成功すること」であって、ユーザーがゲームを手にすることを意味していないということだろう。もしそうなら未発売のゲームが「成功例」になるはずがない。
 出資したプロジェクトが立ち消えになって、最終的に迷惑を蒙るのは誰か? 普通のゲームを遊びたいプレイヤーと、悪意なくゲームを作っているクリエイターたちだ。キックスターターのいい面しか宣伝せずリスクを隠す人たちは、ある意味詐欺商売に加担しているようなものだ。
 そうなるとユーザーとしてできることは、面白そうなゲームだろうが信頼できるクリエイターだろうが、キックスターターには一切出資しない≒支持しないという選択肢しかなくなる。それが作る側、遊ぶ側双方にとって幸福な未来であるとは到底思えないが。