意外な過去

 むこうぶち、というマンガが書店に並んでいた。高レート裏麻雀列伝、というサブタイトルの通り、麻雀マンガである。作者の天獅子悦也さんは、今はもうすっかり麻雀マンガの人の作者として名前が売れているが、実は昔今は亡きコミックゲーメストという雑誌で格闘ゲームのコミカライズを手がけていたのである。

「一週間でいい、そこを動かぬことだ。サウスタウンに手を出すことを禁止する。一週間あの都市を私に譲り渡すならば生きて任期を全うさせてやろう」
「きさま…! 国家反逆罪だぞ、わかってるのか!」
「認めない場合は一都市の支配者ではなく、私の実力に合った領土を要求することになるぞ…」
ギース・ハワード外伝」より、大統領とギースの会話

「収益と忠誠の足りない奴はこの際徹底的に切れ! どうせ大した情報は持ってねえ!
 だが上院議員の裁判は長びかせるんだ!
 資金を全て海外部門に移して洗浄する時間を稼ぐんだ! 検事は過去の醜聞をネタに脅しつけろ! 捜査員の家族を捜し出して脅迫しろ! 証人になろうって連中は消せ!」
「正確で冷徹…ギース様の指示に間違いない。やはりビリー様だけはギース様からの命令を受けているようだ」
「最上階のギース様のパーソナルフロアへ続く通路はビリー様に封印されているが…ギース様はやはり死んではいないのか……?」
「闇のギース」より

 格闘ゲームのストーリーに忠実なマンガ化というと「さくらがんばる!」の中平さんが思い浮かぶけれど(*1)、天獅子さんの描くギースはもはやゲームキャラの域を超えた存在感があった。
 残念ながら龍虎の拳のコミックともども出版元が倒産しているため現在入手するのは非常に困難と思われる。(*2)

(*1)出来がよかったため、コミック版のオリジナルキャラ、神月かりんがゲームに逆輸入されたりもしている。

(*2)ちなみにコミックス以上に入手が極めて困難なのが、コミックゲーメストに掲載されたまま単行本化されることのなかった「ヤマザキの過去の話」「ブルーマリーと神楽ちづるが出会う話」「ゲーニッツとルガールが邂逅する話」。特にマリーとちづるが会う話は、ある意味バッドエンドに終わった「闇のギース」のテリーとマリーの話の続きなので、結末が読めなかったのは非常に残念だ。

閑丸地獄変

 格闘ゲームのコミカライズから他のジャンルの漫画家に転身──というか、新声社から他の道を選んだ人は他にも何人もいる。例えば「ピルグリムイェーガー」の伊藤真美さんとか、「マリーのアトリエ」の桜瀬琥姫さんとか、今はすっかりFF11廃人になっちゃってるG−ヒコロウさんとか。吉崎観音さんや古賀亮一さんとか小川雅史さんとか枚挙に暇がない。

 ただ、今はメジャーであっても当時格闘ゲームのコミックを描いていたことがほとんど知られていない作家もいる。例えば「ブラックラグーン」の広江さん。彼の作品は単行本化されておらず、アンソロジーに収録されただけでしかもその後絶版になってしまっている。
 しかしこのコミックス、なかなか面白くこのまま闇に葬られるのは非常に惜しい。
 
 筆者が知る限り、広江さんが商業ベースで描いた格闘ゲームのコミックは、ネオジオ・ギャルズアンソロジーに掲載された「キングとギースの話」、「ナコルル羅将神ミヅキの話」「(コミックゲーメストに掲載された)リムルルと閑丸の話」「(ホビージャパンのアンソロジーに掲載された)閑丸と牙神の話」がある。

 キングとギースの話はこちらで一コマだけ見れる。

http://homepage2.nifty.com/Howling_Moon/talk/King.htm
 
 このキングさんめちゃめちゃかっこいい。しかし

http://www5b.biglobe.ne.jp/~hitokiri/index.html

 ここの「サムライスピリッツ秘宝館」の秘宝12をみればわかるとおり、ブラックラグーンの広江さんの面目躍如というか、完全にリムルルがズンバラリンとやられちゃっている。これを考えるとギースに啖呵きったキングさんの運命も推して知るべしという感じだ…。ちなみに、秘宝13が閑丸と牙神の話である。

生まれ変わる思い出

 かつて新声社が倒産した時、そこで活躍していた作家さんとかは今後どうなってしまうのだろうと危惧したが、今もなおこうして違う形で彼らは活躍している。
 ごく最近でいうと、D&Dの第4版の日本語版ガイドブックのリプレイに参加し、イラストを描いている戸橋ことみさんはキングオブファイターズのノベライズの挿絵を描いていた人だ。
 今や格闘ゲームはかつてのような一ジャンルを築くほどの勢いはなく、マルチメディア展開もすっかり減ってしまったのはとても残念だけれど、昔好きだった作家が違う場所で活躍しているのを見るのも悪くない。

 書店の棚を眺めつつそんなことを思った。散漫に終。