魔王が蘇る日(前編)

 全ての発端は、あの9月18日だった。


 多くのニコマスPを悲嘆の底に叩き込んだ、あの9月18日の発表後、ニコマス界隈の空気は淀んでいた。新要素の追加で盛り上がるどころか、既存の要素が切り捨てられた代わりに追加されたのが反対意見が渦巻く男性ユニット。彼らを題材に動画を作っても、視聴者の雰囲気は荒れる。しかしニコマスを捨てるには思い入れがあり過ぎる──そんな中、一つの動画が投下された(以前にも一度紹介しているがまた改めて)。



 前にもちょっと書いたが、魔王エンジェルは本来アケマスの敵キャラとして登場するダミーCPUの名称である。ネットワーク対戦時、オーディションに参加するユニットの数が足りないとCPUがその穴埋めを行うのだが、中でもあたかもプレイヤーが操作しているかのように参戦してくるユニットの一つが「魔王エンジェル」である。なお、アケマスの段階ではそれぞれのキャラクターに設定はなく、名前もついておらず、シルエットのみの登場であった(それも既存アイドルの流用)。能力的には後述の佐野美心ほどではないがそれなりに強く、慣れていないと場を引っ掻き回されて負ける事もある。
 この魔王エンジェル、いわば名前だけの存在だったわけだが、これに魂を吹き込んだのが上田夢人氏だった。彼のアイマス公式コミカライズ「アイドルマスター・リレイションズ」において、主役である美希たちのライバル、いわばアイマスSPにおけるプロジェクトフェアリー的な存在として登場する悪役が「魔王エンジェル」だった。この時点でそれぞれのキャラクターに名前が設定され、付属のCDドラマにおいてキャスティングもされた。


アイドルマスター relations 限定版 (1) (IDコミックス REXコミックス)


 性格はプロジェクトフェアリーの美希、響、貴音より悪辣であり、目的のためにはまさに手段を選ばない。961プロと違い、彼女たちは命令されてそうしているのではなく、自分たちの──というより、リーダーの東豪寺麗華の意志でそうしているというキャラクターである。
 実は彼女たちは「ラッキーエンジェル」という名前の正統派アイドルだったのだが、やはりライバルCPUをモデルにした「雪月花」という先輩ライバルユニットによって陰険な妨害行為を受けて芸能界の汚い部分を見せつけられたことで暗黒面に堕ちたという設定だ。ファンに芸能界の暗部を見せ、幻滅させるためにトップアイドルを目指すという矛盾を抱えたアイドルユニットと、天性の天真爛漫さでそれを迎え撃つ美希との葛藤がコミックシリーズのクライマックスだった。


 ──のだが。その後彼女たち三人の存在は忘れ去られ、再登場する機会は幾度もあったにも関わらず、彼女たちが日の目を見ることはなかった──。
 フィロソPによるこの動画がアップされる日までは。
 当初この動画に「俺たちのアイドルマスター2」というタグがつけられていたことからもわかるとおり、フィロソPによるこの動画には「公式がそうするというのなら俺たちはこうしてやる!」という意思表示が込められていたと思われる。
 そして2に期待し、裏切られ、打ちひしがれていたニコマスPたちが、このネタに殺到する。



 彼女たちはゲーム中にはグラフィックつきで登場したことがないためポリゴンモデルがないのだが、有志がMMDモデルを次々と発表。ノベマスやPVが次々に作られている。「魔王、激怒。」で出番がないと嘆いていた彼女たちだが(実際それまでは魔王エンジェルが登場する動画はごく少数だった。ハリアーPのノベマスでは結構目立っていたが……)、10月24日現在、動画登録数は193件になっており、うち159件は9月23日登録の「魔王、激怒。」登録以降に作成された動画である。


(続く)