職業は冒険者?

 日本でメジャーと思われる二大ファンタジーTRPG、ソードワールド2.0とアリアンロッドどちらにおいても(そして世界で一番メジャーなD&Dにおいても)、PCはNPCから「冒険者」と認識されている(ただし、アリアンロッドの場合エリンディル大陸が舞台となっている場合のみであり、D&Dでもエベロンなど世界設定によっては冒険者ではない可能性がある)。例えばPCに依頼を持ち込むとすると、それは「冒険者に依頼する」のであって「戦士」や「魔法使い」に対して依頼するわけではない。言い換えれば、PCはあくまでも「冒険者」であって、戦士だの魔法使いだのというのはその中での役割の違いしか表しておらず、社会的な立場は変わらないとも言える。


ソード・ワールド2.0  ルールブックII (富士見ドラゴン・ブック)

ソード・ワールド2.0 ルールブックII (富士見ドラゴン・ブック)


 先日紹介したNOVAであれば、もちろんこうはいかない。シノギのトラブルの解決をクグツ(企業工作員)に持ち込むレッガー(ヤクザ)はいないし、企業間の血で血を洗うダーティワークの解決をイヌ(警官)に頼むエグゼク(企業重役)はいない。スタイルごとに社会的な立場が異なるのだ。
 ただし、アリアンロッドにおいてフェイズプロセッションルールを採用した場合、個別導入となるため「冒険者」としての依頼ではなく、例えば「神官に神殿からの依頼が来る」だとか「盗賊に盗賊ギルドから依頼が来る」といったPCの社会的立場を利用した依頼が来ることはありうる。
 ただ、個別導入であればすべてPCの社会的立場を生かした導入かというとそうとは限らない。PC番号が振られていて、ただ単にPC人数分の導入が存在するだけかもしれない。それもれっきとした個別導入である(番号をシャッフルしても成立するとか、キャラクタークラスを指定していないハンドアウトの導入はたいていこっち)。

 ファンタジーRPGにおいて、そしていくつかのサイバーパンクRPG(メタルヘッドにおける「ハンター」やシャドウランにおける「ランナー」)において、ステータスロールに相当するクラスがなかったり、PCの立場が一くくりにできるような共通した社会的立場が設定されているのは、その方がシナリオを作るのが楽だからだ。
 ソードワールドで「街道に出没するとあるモンスターを討伐してくれ」という依頼があったとする。(他に事情がなければ)この依頼を拒否する冒険者はまずいないだろう。しかしカムイSTARで「ストリートに出没するとあるアヤカシを討伐してくれ」という依頼があったとしたら、背後関係も何もなしで依頼を受けられるのは26あるスタイル(クラス)のうち5つもないはずだ。つまり、シナリオ本筋の他に、PCがシナリオに関わるための理由付けを別に作る必要があるのだ。



 しかもこの理由付けは、間違えるとセッションで事故が起こる原因になりかねない。
「僕の考える冒険者はそんな依頼引き受けない」というプレイヤーより「俺のイメージする音羽組はそんな仕事しない」というプレイヤーの方が遥かに多いのだ(この辺りの齟齬を埋めるために「ハンドアウト」のルールができたといっても過言ではない)。

 そのため、NOVA以降のFEARのゲームのほとんどにはPCにとっての「最終目的」が提示されている。それは、依頼を受けるとか受けないというレベル以前に、この最後の目的のためならばどんなに対立し合うPCでも手が組めるということであり、逆にいうと全てのプレイヤーがセッションを進めるためにこの最終目的については了承したものと見做されるということだ。

 では、何故そこまでしてPCごとに違う導入、異なる社会的立場であることにこだわるかと言えば……。(以下続く)