トーキョーNOVA・R発売直後のJGCのトークショーだったか、あるいはゲーマーズフィールドの別冊だったか、もうよく覚えていないのだが、鈴吹社長がこんなことを言っていたのが印象に残っている。
「セッションの冒頭でGMに『君たちは全員仲間で酒場のテーブルについている』と言われるとがっかりする」と。
当時私は個々のPCの登場演出に気を使ったり、PC間対立を解消するための方策に心を砕いていたとは到底言えないが(それは「R」がもたらした革命によって初めて自覚できたことだったので)、しかし「全員知り合いで酒場のテーブルについている」という状態から始まるシナリオはほとんど作っていなかった。
それは、その頃プレイしていた旧・天羅万象が、PCごとにシナリオの導入部分を当て書きしないととてもではないけどハンドリングできないゲームだったからだ。かつてゲームデザイナーである井上氏自身が「ブレーキのないF1カーのようなもの」と形容したように、シナリオに関わるための道筋を間違えると、因縁ルールによって暴走が加速され展開がとんでもない方向にすっ飛んでいってしまう。
- 作者: 井上純弌,ファーイーストアミューズメントリサーチ
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2007/04
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そして……誤解を恐れずいうなら、私が一番面白いと思っていた部分がそこだった。PCは代わりの利くパーツではない。プレイヤーが3人のときと4人のときでシナリオの導入部分がまったく変わらないなんて面白くないじゃないか。
私もまた鈴吹社長と同様、全員冒険者で仲間で酒場のテーブルについていると言われるとがっかりする類のプレイヤーだったのだ。
PCごとに個別の導入を用意しようとするとき(特に、それが順不同でシャッフル可能なPC人数分の導入があるというだけでなく、固有の導入を用意しようとするとき)、PCの社会的立場を表すルールがあると非常にPCをイメージしやすく、導入が作りやすい。
例を挙げよう。アリアンロッド・サガのピアニィ女王は「ウィザード」だ。しかしウィザードと言われてピアニィ女王の人となりに行きつくのは不可能に近い。それに彼女の場合、一般的な魔法使いの導入でシナリオに関わるのは難しいと思われるし、それではピアニィ女王の個性を殺してしまう。
しかし、PCの社会的な立場がルールに組み込まれているファンタジーRPG、具体的にはブレイド・オブ・アルカナの書式に従い、ピアニィ女王を「アングルス(無垢なる人)・アクシス(魔術師)・コロナ(支配者)」と記述すれば、ピアニィ王女をイメージするのはそう難しくない。
アリアンロッド・サガ・リプレイ(1) 戦乱のプリンセス (富士見ドラゴン・ブック)
- 作者: 菊池たけし,F.E.A.R.,佐々木あかね
- 出版社/メーカー: 富士見書房
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最初の話に戻ると、ステイタスロール、社会的立場がルール化されているゲームの方が、私の場合キャラクターのイメージがしやすく、シナリオも作りやすい。
また、社会的立場をシナリオに反映させようという時も、口プロレスになるよりはルールではっきり規定されている方が気が楽だ。
「俺のキャラは王族だから部下ぐらいいて当たり前だよね!」とセッション中に主張されても扱いに困るが、
「俺のキャラはコロナで《親衛隊》の特技を持っているのでトループを連れています」
と言われれば却下する理由はない。
キャラクターのステイタス(社会的地位)は、経験点などのリソースを払うべき「能力」の一部だ、というのが私の好きなデザイン思想である。
もっとも、ファンタジーRPGに限定するとこの条件に該当するゲームはブレイド・オブ・アルカナぐらいしかなくなってしまうのだが……。(*1)(*2)
ブレイド・オブ・アルカナ The 3rd Edition (ログインテーブルトークRPGシリーズ)
- 作者: 鈴吹太郎,F.E.A.R.
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
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(*1)「PCが冒険者ではない」ファンタジーRPGだと、他に深淵やりゅうたま(?)なども該当する。ただ、りゅうたまはリプレイを見る限り「旅人」を「冒険者」に言い換えても差し支えない気がするが。深淵の「一般人でも運命を背負っていればPCになる」というコンセプトは好きで、旧版時代は結構深淵をプレイした。当時鳥取にいた深淵になると暴走する人さえいなければ、天羅よりプレイ回数が多くなっていたかもしれない。また、これらのゲームは「ステイタスロールをルール化」するというものとは違い、社会的な立場をキャラクターの能力の一部として使うルールはほとんどない。
(*2)アリアンロッドをアルディオン大陸でプレイした場合、PCの立場は「冒険者」に限定されず、兵士や傭兵などである可能性がある。とはいえ、PCの社会的な立場をキャラクターの能力の一部として使うルールがないのは上記のゲームと同じである。