悪夢を超える悪夢、最悪を超える最悪

 いや、正直どんな悪いニュースが来ても驚かないと覚悟を決めていたが、予想を遥かに上回った。


実写版『パトレイバー』 総監督・脚本は押井守 主演は元ハロプロ真野恵里菜


押井守さん原作の小説『番狂わせ 警視庁警備部特殊車輌二課』がベース


 押井(今回は敬称をつける気にならないので呼び捨てにさせてもらう)の実写が爆死するのは想定内、懐かしき第二小隊のメンバーが復活しないのも想定内だったが、まさかあの「番狂わせ」の、かつてのパトレイバーを揶揄したとしか思えない設定をベースにして作品を作るとは思わなかった。

 例え「番狂わせ」の惨状を知らなくても、まず登場人物の名前を聞いて何も思わないファンはいないだろう。泉野明(いずみのあきら)、塩原佑馬(篠原遊馬)、後藤田継次(後藤喜一)、エカテリーナ・クラチェヴナ・カヌカエヴァ(香貫花クランシー)……。

 今回の“世代交代”については、アニメとの差別化と同時に、長年応援を続けるファンと向き合う「必要な設定だった」(押井氏)

 世代交代なら完全に違う設定にしろよ!

 この人はマジでパトレイバーとそれにノスタルジーを感じるファンにトドメを刺したいんだろう。これまでのパトレイバーに関する発言を見る限り、この人はもうパトレイバーに思い入れなんて微塵もない。そんな彼の「ファンと向き合う」とはつまり「番狂わせ」なのだ。「番狂わせ」を読んだかつてのファンがどんな評価をしてるか、彼は百も承知のはずだ。あれだけガンダムの呪縛に苦しんだ富野監督だって自分の作品を揶揄してファンを嘲笑ったりはしなかったのに(しかも、パトレイバーは自分ひとりの原作作品じゃないんだぞ!)。
 そこまでする割に、半端に視聴者に媚びる設定なのも可笑しい。「番狂わせ」の泉野明は男なんだから、その通り男でやれよ。

 実写版パトレイバーはちゃんとアニメや漫画版の続編という世界観

 あの「番狂わせ」が続編って……。こうして「あれはパラレルだから」というファンの心理的逃げ道も塞がれる。押井はもう覚えてないのかもしれないが、そもそも漫画版と(押井が監督を放り出した)アニメ版ですら設定的に全然繋がってないのに「ちゃんと続編」ってなんなんだよ。

 カーシャはロシア人で割と嫌な女という役柄  

 以前、押井はインタビューで「香貫花は出渕氏好みの女性キャラで自分は全然魅力を感じない、ただの嫌な女」と評したことがあるが、まさかその当の作品上でその作品を共に作り上げたはずのクリエイターをディスり、キャラまで貶めるとは。仮にもプロの監督が、私情を作品に持ち込んでそこまでするのかと絶句してしまった。

 レイバーを活用した「バビロンプロジェクト」がひと段落ついた2013年東京を舞台に、お払い箱となったレイバーの運用経験継続を名目に、かろうじて存続している第2小隊“無能な3代目”の奮闘を描く。

 「番狂わせ」の時にも書いたかもしれないけど、要するに「パトレイバーは用済み。今もファンだとか言ってる奴らはおかしい。監督の俺自身がゆうきや出渕の好きなパトレイバーとか否定してやるわ。パロディキャラ使って貶めまくってやるから覚悟しといて」というメッセージにしか受け取れない(下記のリンクで伊藤さんが触れているが、ゆうき氏と出渕氏は押井と違って大人なので沈黙を守っているようだ)。
 パトレイバーの皮を被せた押井のサッカー薀蓄話が読みたい人間がどれだけいたというのか。そして、今回も「番狂わせ」の時と似たようなことが、より酷い規模で起きるだろう。既に勘のいい人はこの実写版のヤバさに気付き始めているようだが大正解だ。


 さらに驚いたことに、このプロジェクトはヘッドギアが関わってないどころか、事前の許可すらもらっていないらしい。そりゃそうだよな。こんな設定の作品、自分の作品に愛着があるならかつての仲間が賛同する訳がない。


実写「パトレイバー」はナシ? ゆうきまさみ氏「知りません。政治的な動きやめてほしい」と否定


パトレイバー実写版プロジェクトに関するアニメ脚本家・伊藤和典氏の反応


 反りが合わなかったといわれるゆうき氏や出渕氏はともかく、盟友とまで言われた伊藤氏までノータッチとは……。自分の作品に自信があるなら、半端なパロディみたいなものはやめて、ちゃんと事前に許可を取って正当な続編を作ればいいのだ。それをしないのは、事前に許しがもらえるような出来ではないと自覚しているからだろう。押井本人のみならず、「昔人気のあったパトレイバーなら古いファンが放っておいてもくるだろ」という程度の認識でこの企画を通した人間の正気と良心を疑うし、事情を知らずにこの企画に付き合わされる出演者やその他関係者の方には心底ご同情申し上げる。
 この作品はほぼ100%爆死するだろうが、爆死すれば「パトレイバーはもう時代遅れだった」という評価が残り、仮に何かの奇跡が起きて売れると「ヘッドギアが関わらず押井が現代風にパトレイバー(笑)をアレンジ(笑)したのは正解だった」という評価が残るという、昔のパトレイバーファンには「どう転んでも絶望の結末しか見えない」という凄まじい状況だ。それなら何もしないでそっとしておいてもらったほうがずっとマシだったのに。


 私はこのブログで「私は買わない/見ない/やらないが、人にまでそれを強制するつもりはない」というフレーズを時折使うが、この作品についてだけは例外だ。もしあなたが昔のパトレイバーが好きなファンだったら、(少なくとも今公開されている情報から推測する限り)絶対実写版パトレイバーは見るべきではない。見る必要はないではなく、見ない方がよい。それは単につまらないというだけでなく、大事な思い出を粉々に打ち砕く。もちろん「番狂わせ」を知っているファンなら私などにわざわざ言われるまでもないだろうが。


 いや、もっと言ってしまおう。今日、私が好きだった機動警察パトレイバーは死んだ。

 
 面白い作品、楽しい時間をありがとうございました。押井以外の全てのヘッドギアのメンバーに感謝します。