私がソーシャルゲームをあまり好きではないことは、これまで何度もこのブログで書いてきたとおりである。そのため、ニコマスでシンデレラマスターを題材にした作品もあまり取り上げてこなかった。しかし、あの「9・18事件」以降、ニコマスの中でも特にノベマス、それと同人誌を中心とする二次創作ジャンルでは、シンデレラマスターの存在感はかなり大きなものになってきている。*1
元々アケマスの時代から、アイマスPの中には「自分の嫁には金をかけてなんぼ」と考える人たちがいて、シンデレラマスターはそういった人たちを掴むことに成功した、と言えるかもしれない。訳の分からないストーリーがつけられてしまったナンバリングタイトルの「2」と違い、バラバラにイベントが起こるタイプのシンデレラマスターは、登場アイドルの多さも相まって「自分だけのアイドルマスター」を構築しやすい。また、その数のために情報が限られるアイドルも多く、二次創作における想像力も発揮しやすいのかもしれない。
そんなわけで元となるゲームには手を付けていない私だが、CD等はチェックしているし、ノベマスにもいくつか追いかけている作品がある。
実は全部下ネタが絡む(笑)。意外なことにタイトルから想像するのとは反対に、棟方師匠の裁判が一番まともで、マリンカリンPのダグトリオシリーズが次に酷く、もうほとんど下ネタしかないのがシスタークラリスの相談室である。
ところで、私がシンデレラマスターのノベマスを追いかけるようになったのは、シンデレラマスターでただ一人、応援しているアイドルの存在も大きい。それは誰あろう、“ウサミン星人17歳”こと安部菜々である。
ウサミン星人の秘密
シンデレラマスターにそれほど詳しくなくても、ちょっとアイマスの二次創作に触れたことがあれば彼女の存在を知っている人は多いだろう。「ウサミン星人」も「永遠の17歳」も、ネタとしてはインパクトがありすぎる。キャラソングも電波全開、現在リリースされている25人のアイドルソングの中でも、杏と並ぶネタソングである。
THE IDOLM@STER CINDERELLA MASTER 018 安部菜々
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自称ウサミン星人、自称17歳。ドジで隙だらけでボロを出しまくり。しかし、彼女の「本当の姿」は、案外知られていないように見える。
ウサミンは「2つの仮面」を被っているアイドルなのだ。
アイドルに憧れ続けて
ところで、私は如月千早というアイドルが苦手である。演じている今井さんには申し訳ないが、アケマスの時代から彼女はテンションを維持するのが大変なキャラで、すぐに「千早スパイラル」と呼ばれるダウンスパイラルに入って抜け出せなくなったり、パーフェクトコミュニケーションが取り辛かったり、とにかく扱いが難しかった。
アニメなどを見ていても、弟を失ったことによる家庭不和から歌の道を目指し、歌手になろうと努力を重ねる姿は、一言で言うと「痛々しい」さもなくば「悲愴」。努力家なのだが、「私は努力家なんです!」というアピールが激しくて、こちらとしてはついて行き辛い。押せば倒れてしまいそうな危うさも垣間見え、彼女を救えるのはきっと友達の存在だけなんだろうな、という気がしてしまう。
ところが、である。千早に匹敵するかそれを遥かに上回る努力家でありながら、その努力をまったく意識させないキャラがいる。それがウサミンだ。「いつかきっとアイドルになれると信じ、ずっとメイド喫茶でバイトしてチャンスを待ち続け、そしてようやく夢を掴んだ」これは二次創作でもなんでもなく、彼女の公式のプロフィールからはっきりとわかる事実だ。ウサミンが何年年齢のサバを読んでいるかは不明だが、実年齢との差が大きければ大きいほど、彼女が「待ち続けた」年月は長いことになる。*2
765プロもシンデレラマスターのプロダクションもそうだが、スカウトされる前から「アイドルになりたい」と思って頑張ってきたキャラというのは案外少ない。美希や双海姉妹、トライアドプリムスをはじめ、スカウトのきっかけは「たまたま」で、プロデューサーに見出されたからアイドルを目指した、あるいはアイドルになったのには別の目的がある、というキャラが大半である。*3
ウサミンは違う。彼女はずっと前から、もしかしたら本当の17歳、あるいはそれより前から「アイドルになりたい」と願い、そのための努力もし、そしてひたすら待ち続けたアイドルなのだ。彼女ほどの長い間、アイドルにあこがれ続けてきたアイドル、努力を続けてきたアイドルは他にいない。*4もし、千早がウサミンと同じ年齢まで歌手になれなかったとしたら、それでも夢を追い続けるだろうか? 私にはそうは思えない。きっとどこかで折り合いをつけ、別の道を歩むことだろう。
ウサミン星人17歳が1枚目の仮面だとすれば、ドジで隙だらけのうっかり屋というのは(それが演技だという意味ではないが)2枚目の仮面。その下に隠れているのは「並外れた忍耐力を持つ努力家の顔」だ。多くの人が1枚目の仮面の派手さと2枚目の仮面のわかりやすさに惑わされ、その下に隠れた「本当の顔」に気づかない。*5
ウサミン星は「あの星」とは違います
実は、安部菜々の「元ネタ」も彼女の素顔を隠すのに一役買っている。一番わかりやすい彼女の「元ネタ」の人は「自分は本当はこのキャラ付けが嫌だったが事務所の方針で仕方なくやっていた。本当の私を見てほしい」といって仮面を被るのをやめた。なので、ウサミンも同じではないかと考えてしまいがちだが、これは明らかに違う。
彼女は、最初のプロデューサーへの自己紹介のセリフで「自分はウサミン星人だ」とアピールしてくる。つまりプロデューサーに会う前からウサミン星人だ。また、コミカライズやCDドラマの公式情報から読み取る限り、彼女は事務所の仲間たちの前でも「ウサミン星人、17歳」で通している。これがもし事務所から言われてそうしているのなら、事務所では素顔に戻るはずだ。つまり、彼女は「自分の意志で、ウサミン星人17歳をやっている」のだ。そして、彼女のセリフに「アイドル、楽しい……ヤバい!」「お仕事楽しすぎて……ヤバい!」というのもある。もしウサミン星人が誰かから指示された不本意なものなら、こんなセリフは出ないだろう。
他のアイドルたちは、待ち望んでアイドルになったわけではない、あるいは待っていた時間はそれほど長くないからこそ、理想と実像のギャップに悩み、苦しむ。しかしウサミンはそうではない。彼女は今まさに、積年の夢をかなえている真っ最中なのだ。
それを踏まえて、もう一度メルヘンデビューの歌詞を追いかけてみてほしい。
彼女は、ネタソングの真っ只中でプロデューサーに向かって呟く。「プロデューサーさんは、私の本当の姿を知っても好きでいてくれますか?」と。ファンに向かってではない。プロデューサーに向かって、だ。
ウサミン星人、17歳。その嘘がバレバレなことくらい、彼女自身だって当然気づいているだろう。手持ち無沙汰になった途端、他のアイドルのためにお茶を入れる気遣いのできるウサミン。それは生来のものかもしれないし、もしかしたら客商売で身につけたものかもしれないが、気遣いができるということは相手の考えていることが読み取れるということだ。
その彼女が敢えていう「本当の姿」とは、「ウサミン星人17歳」の仮面ではなく、「ドジで隙だらけのアイドル」の仮面のさらにその下、努力家・安部菜々の姿のことだろう。
ウサミン星人・17歳は、彼女にとっては「なりたかったアイドル、理想のアイドル」そのものだ。もし彼女が完全主義者で、完璧にウサミン星人を演じきれるキャラクターだったら、恐らくファンもプロデューサーもついてこれないだろう。彼女は隙だらけだからこそ愛される。その下の本当の素顔は、ファンに見せる必要のない顔だ。その最後の仮面を脱ぐときは、彼女がアイドルをやめる時。だから彼女は自分の本音を「なんちゃってー(笑)」で誤魔化すしかない。しかしこれほど哀しい笑いがあるだろうか。
他のアイドルにとって、アイドルになることはスタート地点に立つことだ。しかし、ウサミンにとってアイドルはゴール地点だ。彼女は既に山の頂に立っている。これより上はない。*6
碧いうさぎの歌詞で彼女はこう歌う。「あとどれくらい切なくなれば私の声届くのかしら」と。
六畳一間、畳敷きに卓袱台のアパート(下のカードのバックに注目)でひたすら夢を追い続けてきたウサミン。昔、夢を分かち合ったはずの友達から「もう、アイドルとかゲーノージンとか言ってられない年だしさ」と言われたかもしれないし、電話で母親から「あんたいつまで夢みたいなこと言ってるの。それよりいい人捜して結婚しなさいよ。隣の○○ちゃんなんて……」と愚痴られたかもしれないウサミン。
そしてようやく夢を掴み、希望を叶えたウサミン。彼女の両耳は正しく「夢と希望を引っ提げて」いる。
だから、画面のこちら側にいる私や貴方や“夢を叶えられなかった沢山の安部菜々”は、彼女がボロを出すたびに笑いながら、ちょっとだけホロリとする。
そして呟くのだ。“頑張れウサミン。応援してるよ”と。
*1:例えば、この記事を書いている今現在でニコマスランキング上位20作品のうち9作品がシンデレラマスター関連作品である。
*2:実際彼女のセリフで、もう後には引けない年数待ち続けていたと示唆されている。
*3:春香は「歌のお姉さんになりたい」という夢があったので、最初からアイドルになりたかった例外的なキャラと言える。
*4:年長のアイドルの多くは元々他の職業だったが辞めていたり、別の目的があったりと、アイドルだけを目指してひたすら努力し続けてきたわけではない。
*5:もちろん、私と同じようなウサミンのファンならちゃんと気づいている人もいる。例えばニコニコ大百科にも該当する記述がある。しかしピクシブ大百科はツッコミを入れているだけで、彼女が努力家であるという記述はない。
*6:彼女のデータのうち攻撃力ではなく守備力がチート級なのも、そう考えると深いものがある。