巨匠は二度咲く

 このところ、ずっとけものフレンズ関連動画ばかりを見る日が続いている。特定の作品にこれほどハマったのは、まどマギガルパン以来だろうか。
 けものフレンズという作品に出会って、個人的評価が激変した人がいる。たつき監督──では、ない。私はこの作品を知るまでたつき監督を知らなかったので、激変も何もない。変わったというのはコンセプトデザインの吉崎観音さんについてである。


吉崎観音 - Wikipedia


 吉崎観音さんを知ったのは随分昔のことだ。ゲーメストの愛読者だった私は、それだけで吉崎さんの作品に触れる機会は多かったし、Wikipediaに記載されている宇宙十兵衛や、記載されてすらいない、擬人化されたゲーム機たちを主人公とするビットファイター(ネプチューヌの元祖みたいなもの)なんて作品も読んでいた。
 ビットファイターを知っていたので、吉崎さんがオトメディウスのキャラデザを手がけた時も、さもありなんと納得したものである。ただそのオトメディウスは、タッチパネルを使った特殊筐体が災いしたのか、比較的早いうちに撤去されてしまった記憶がある。移植先もPS系ハードは皆無で、涙を飲んだ。


オトメディウスX(エクセレント! ) - Xbox360

オトメディウスX(エクセレント! ) - Xbox360


 そして時は経ち──かつてはディープなファン向けの作品を描いていた吉崎さんも、「ケロロ軍曹」が大ヒットして、大御所作家の仲間入りをしたように、私には見えた。そして、コナミの新作ボンバーガールのキャラデザが別人とわかった時、いささかの寂寥感も味わった。吉崎さんの責に帰することではもちろんないが、メジャー雑誌の看板作家ともなれば、ニッチな仕事などする必要もなくなったのかな。そんな思いが過ぎったりもした。


 それがとんでもない勘違いだったとわかったのは、けもフレを見てからだ。


 吉崎さんがキャラデザをしたソシャゲが世に出る──ここまでは別に不思議ではない。人気作家を招いて看板キャラを描いてもらって客寄せ、というレベルならよくある話だ。
 しかし、そのゲームに登場するキャラすべてのデザインを一人で手がける──となれば、話は別だ。登場するアニマルガールの総数は、こちらを見る限り400前後にも及ぶ。もしかしたら、もっとかもしれない。
 客を呼ぶためだけであれば、看板キャラだけでも十分だったはずだ。プロジェクトに対する接し方を見る限り、吉崎さんは単に頼まれたから絵を描いたという立場ではなく、企画そのものに深く関わる立場だったようだ。アプリが終了するとなって、吉崎さんの思いはいかばかりだっただろうか。
 本項、後日訂正あり。


 吉崎さんのツイートをさかのぼってみると、アニメがこれほど話題になる前、アニメ放映直後はもちろんのこと、アプリが終了し、アニメが放映される前、つまりプロジェクトの関連作品がほとんどない状況ですら、けもフレについてツイートし続けている。アニメが高評価を受けたことは、殊の外嬉しかったことだろう。



 そして私としては「大御所だからニッチな仕事からは手を引いたのか」などと思い込んでいたことをひたすら恥じるしかない。某所でカバのデザインが話題になっていたが、アニマルガールのデザインは、ビットファイターからオトメディウスへと至った吉崎さんのデザインセンスの集大成とでもいうべきものだ。ケロロ軍曹という大ヒット作を持ちながら、受けるかどうかもわからない新作にこれほどの労力を費やし、紆余曲折がある間も心血を注ぎ続け、そして再びヒットさせた。その慧眼には恐れ入る。


【けものフレンズ】吉崎観音氏が描いたトキが誌面に掲載 「吉崎観音ももうトシだから〜」


 「トシだから」どころではない。「参りました」の一言である。